ジョーカー・小池百合子にやられっぱなしの「自称・乱世に強い岸田首相」

 今や「増税首相」という形容が定着しつつある岸田文雄首相。就任後1年以上が過ぎても、効果の期待できないバラマキとそれに伴う増税議論が先行するばかりでは、国民にしらけムードが充満するのは当然だ。年頭に「これ以上放置できない待ったなしの課題」であると異次元の少子化対策を掲げながら、その中身も今後の検討課題というのだから目を覆いたくなる。各国がアフターコロナ時代に向けた取り組みを強力に進める中、「検討使」と言われる首相は、激動の時代に耐えうる宰相に変われるのだろうか。

岸田首相「異次元の少子化対策」への期待はわずか20%…「具体策の検討を進める」ってなんの意味がある?

 「 “検討を進める” じゃなく、“すぐに実行する” でしょ!」。子育て政策で注目される兵庫県明石市の泉房穂市長は1月24日、自らのツイッターにこうつづった。同23日の施政方針演説で、岸田文雄首相が「次元の異なる少子化対策の実現」と表明し、子ども施策は最も有効な未来への投資と力説したことに対して、泉市長は「異論はない」とした上で「問題はその後。『児童手当拡充などを念頭に具体策の “検討” を進めるとした』って??」と呆(あき)れたようなコメントを記したのだ。

 年頭に「待ったなしの課題」と言いながら、来年度予算案に反映させることがなく、将来的な子ども予算倍増に向けた「大枠」の提示も今年6月末まで “お預け” というのだから、そのスピード感には驚かされる。統一地方選挙をにらみ、これ以上「増税首相」という非難が起きるのを避けたいのか。支持率が低迷する中で国民の関心を「子ども」に向けることで政権の長期化を図ろうとしているとの見方も飛び出すほどだ。

 ANNの世論調査(1月21、22日)によると、内閣支持率は先月より3ポイント減となり、政権発足以来最低の28.1%を記録。毎日新聞の調査(1月21、22日)でも支持率は27%で前回(12月)の25%から横ばいとなり、政権維持の「危険水域」とされる3割を下回っている。朝日新聞の調査(同)は内閣発足以来最低だった前回(12月)の31%から4ポイント増の35%となったものの、首相の少子化対策は「期待できる」の20%に対して、「期待できない」が73%に上った。

ムダな歳出を削って施策を打ち出す小池知事、増税ありきで施策を打ち出す岸田首相

 岸田首相の問題解決能力は、安倍晋三元首相、菅義偉前首相、自治体のリーダーと比べて劣っていることは明らかだ。安倍元首相から回顧録で、「ジョーカー」とあだ名された小池百合子東京都知事は1月4日、0歳から18歳の子どもがいる家庭に所得制限を設けず子ども1人あたり月5000円の給付を始める意向を表明した。2016年夏の都知事就任後、子育て支援策に注力してきた小池氏は、6年間で待機児童数を約8500人から300人に激減させ、第2子以降の保育料負担軽減や高校授業料実質無償化、医療的ケア児支援などを進めてきた。

 来年度予算案では、少子化対策に前年度より2000億円多い1兆6000億円を割き、「(少子化対策は)本来は国家的事業であるべきだが、出生数の減少が極めて早い。危機的な現状から国を牽引する形で1.6兆円を投じる」と語っている。小池知事は1月4日夕方、都庁で記者団に対し「東京都は毎年スクラップアンドビルドで予算について見直しをして、数千億円を抑えて、投資に回してきている。子どもへの育ちの応援は未来への投資で、バラマキという批判は全く当たらない」と述べていることから、増税ではなく、ムダな予算を削減して捻出したのだろう。ムダな歳出を削減する努力もせずに、増税ありきの岸田政権は、悔しくてたまらないことだろう。タイミング的にも、話題をすべてジョーカー小池都知事に奪われる形となり、岸田首相にとって最悪だった。

 4月に行われる大阪府知事・大阪市長のダブル選で地域政党・大阪維新の会を率いる吉村洋文代表(大阪府知事)は「0歳から大学院卒業までの世代で教育の無償化を実現する」と掲げている。1月11日の記者会見では、岸田首相が唱える異次元の少子化対策に関して「今、(国が)発表しているレベルのものであれば異次元でも何でもない」と苦言を呈した上で「異次元の少子化対策をやる気がないのであれば『子育て支援を強化する』くらいに言った方がいい」と当てこすった。

「逆だよ、逆。本気で子供を増やしたいなら増税ではなく減税だ」と吉村・大阪府知事

 世界中を見渡しても、単に子育て支援を拡充するだけで出生率が上がった例は、これまでのところない。ムダな予算を削って現役世代へ振り分けるのであれば理解はできるが、国民負担を増やしてまでやるような施策ではないことを国民は理解したほうがいいだろう。国民負担が増えれば、経済成長と家計の状態が悪化することは、データでも明らかになっている。SNSを見る限り、額としてはそんなに高額ではない子育て手当によって、東京が住む街として魅力的に見えた有権者も多くいるようだ。「ジョーカー小池」の面目躍如といったところだろうか。

 首相が掲げる少子化対策の財源をめぐっては、自民党の甘利明前幹事長が、将来的な消費税増税も検討対象になると受け取れる発言をして批判を浴びたが、吉村府知事は1月6日のツイッターに「逆だよ、逆。減税。本気で少子化対策するなら、子供の数が多くなればなるほど所得税が減税される方式へ大転換(N分N乗方式)。それと所得制限なき教育(保育)の無償化」と持論をつづっている。

 ただ、岸田首相は「各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など、様々な工夫をしながら社会全体でどのように安定的に支えていくか考えてまいります」と述べるだけで、具体像は見えない。国会では、野党から少子化対策を建前とする増税の可能性を追及されているが、首相は明言を拒否。「N分N乗方式」についても「共働き世帯より片働き世帯が有利になることや、高額所得者に税制上有利になるなど、様々な課題がある」と慎重な見方を示している。

「骨にならないと拾いません」…岸田首相から丸投げされた小倉こども政策担当相

 全国紙政治部記者が語る。「首相は『異次元の少子化対策に挑戦する』と1月4日の年頭記者会見で語り、同23日からの通常国会では、自分のペースで議論を進められると考えていた。だが、同じ4日に小池都知事が『子ども1人あたり月5000円』という具体的な支援策を表明したことで、中身も財源も決まってない首相の『異次元』に国民はしらけてしまった。福岡市や桑名市、大阪の動きを見ても『なぜ自治体にできることが総理大臣にできないんだ』とスピード感のなさが浮き彫りになっている。春の統一地方選挙を考えれば、政局的には首相の完敗だろう」。

 吉村府知事からも「異次元」という言葉に異論が出る中、岸田首相は早くも「異次元」というキーワードは用いなくなった。具体策も小倉将信こども政策担当相に丸投げ状態で、自民党の萩生田光一政調会長は「骨は我々が拾う。その覚悟でやっていただきたい。骨にならないと拾いません」と小倉氏に発破をかける。

 首相となる政権与党の自民党総裁候補をめぐり、かつて「平時の羽田孜、乱世の小沢一郎、大乱世の梶山静六」と評されたことがある。平時と乱世では宰相に求められる役割と能力が異なるというものだ。岸田首相は「乱世」に強いとの自負をのぞかせているようだが、後ろ盾となっていた安倍晋三元首相を失い、数々の「国難」を突破できるだけの推進力も「増税」によって完膚なきまでに落ちてしまった。増税、バラマキ、増税、増税で、経済成長に恩恵をもたらさない岸田政権の経済運営を評価する市場関係者は少数だ。

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