”彼は本気で信頼できるな”野田佳彦元首相への代表復帰論に高まる期待「立憲民主はリベラルではない」
存在感のなさが指摘される立憲民主党・泉健太代表に代わって、野田佳彦元首相の代表就任を求める声が日に日に高まっている。ジャーナリストの小倉健一氏がリポートする――。
現実的でない外交政策に、共産党との連携で “終了” した立憲
「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん――」。2022年9月25日の衆院本会議、野田佳彦元首相は安倍晋三元首相の追悼演説で、かつての政敵に対して「あなたは、いつの時も、手ごわい論敵でした。いや、私にとっては、かたきのような政敵でした」と評する、最大級の敬意と賛辞を送り、大きな評判となった。そんな野田元首相に、今、低迷する立憲民主党の代表への待望論が起きている。
立憲民主党は、昨年夏の参院選挙(2022年)での比例得票を、2019年実施の参院選挙と比較で約115万票(3ポイント)減らし、約677万票(12.8%)の獲得だった。実は、2022年4月に立民は「比例1300万票獲得」という目標を打ち出していて「かつては2千万票を超えていた時代もあったわけです。そこまでいけなくても、野党第1党としてリーダーシップをとるためには1500万票を超えていくぐらいは目指したいですよね」(岡田克也・総合選挙対策本部長代行<当時>)と自信満々に答えていた。岡田氏が掲げた目標の半分にも満たない、この数字は、2019年の約491万票から294万票(5ポイント)増やし約785万票(14.8%)を獲得した日本維新の会に、得票数で負ける結果となった。
比例票獲得数の野党第1党を維新に譲り渡した近年の退潮傾向について、支持層が高齢者に偏重していて「歳月を経るごとに自然減」してしまうこと、ウクライナ侵攻で平和リベラル路線が「外交政策が現実的でない」として頓挫していること、共産党との連携で「保守中道層の支持を失っている」ことなどが指摘されている。
もともと知名度が低く、発信力に疑問符のつく泉健太代表
もともと知名度が低く、また、発信力に疑問符のつく泉健太・現代表に代わって、知名度の高い枝野幸男氏や保守層の支持が高い野田氏への期待が高まっている。泉氏の代表任期は2024年9月末まであり、その間に、衆院選挙が実施されれば「維新に負けて、万が一にでも衆院議席数で野党第1党の座を譲り渡せば、立ち直れないだろう」(全国紙政治部記者)と目されていて、党内基盤の乏しい泉代表の交代論はくすぶりつづけている。
先に列挙した立民の退潮の原因であるが、集約すれば、現役世代における無党派層の支持が得られていないということに尽きよう。そもそも安倍晋三元首相への対抗軸として「希望の党」を小池百合子都知事が立ち上げた際、小池知事から「左派系」として「排除」された人たちが立民の結党メンバーであり、排除への同情票から党勢を拡大していた経緯がある。立ち上げ時の精神に立ち返るなら、反原発などリベラルな政策を堅持していくしかない。そんな政治的ポジションであれば、共産党との連携も容易であろう。しかし、野田氏はそんな風潮に警鐘を鳴らしている。
共産党やれいわ新選組、社民党との連携は「政権から遠ざかる」
「立民のコアな支持層をリベラルしかいないと思う人は共産党やれいわ新選組、社民党との連携しか頭からなくなる。政権からどんどん遠ざかる。中道の国民政党を目指すなら日本維新の会ともつきあい、国民民主党ともよりを戻す。さらに穏健な自民党支持層を取るという動きがあって、初めて無党派層が注目する党になる」「統一地方選では他の野党と戦うが、後の展望のために国会での連携は強化しなければならない」「(衆院選解散について)岸田文雄首相は『いつ』と決め打ちせず、一定の幅で考えているだろう。来年秋の自民党総裁選前の、どこかのタイミングでやりたいのではないか」(2月13日・共同通信加盟社政治部長会議での講演)と述べた。
これらの発言の中に、共産党という言葉がなかったが、今後、無党派層を取り組みたいのであれば、共産党との距離感も気になるところだ。
かつて野田氏は「(野党共闘について)共闘という言い方が良いのかどうかという問題もあるが、共産党と同じ政権を預かることはできない。ただ、共産党は比例選で議席を増やしたいのだから、ディール(取引)はできる。お互いが前進し、議席を最大化させるための意見交換はあってしかるべきだ」(2021年5月5日)と、一定程度の共産党との連携を認める発言をしていたが、最近の発言からは、共産党を遠ざけたい意志を感じるようになっている。
4月統一地方選で「共産党との選挙協力の是非」が再燃
今年4月に実施される統一地方選挙は、各党がバラバラに戦う選挙戦(当選者が1つしかない小選挙区と違って、同じ選挙区内に議席がたくさんあるので、各党が独自に候補者を立てる傾向にある)であるため、共産党との連携は当選に必要がないものの、統一地方選挙が終わり、小選挙区制度である衆院選でどう自民と対峙するかという大問題に直面したときに「共産党との選挙協力の是非」が再燃するのは間違いない。
共産党は、2022年の参院選挙で361万8343の比例票を獲得していて、全国289 の小選挙区数で割れば、単純計算で1小選挙区あたり約1万2500票となる。読売新聞(2021年11月4日)によれば(2021年の衆院選で)小選挙区において、次点候補との得票率差が10ポイント未満で当選した自民候補は59人だった。「自民候補が5ポイント減らして次点候補が5ポイント伸ばしていれば、自民候補は小選挙区で59人が敗れていた計算になり、自民単独で過半数となる233議席を確保できなかった可能性もあった」「12年の衆院選以降、10ポイント以上の得票率差で圧勝した自民候補は減り続け、今回の衆院選では128人と、12年の約7割にまで落ち込んでいる」(同紙)という。
小選挙区における当選者の得票の10%とは、(共産党票の)1万2500を基本的に下回る数字であり、選挙に弱い立民候補者にとっては、共産票は喉から手が出るほど欲しいだろう。「(共産党との選挙協力について)苦労していることは間違いない。しかし、共産とすべて候補者を調整する必要はないでしょう。自民を上回る可能性がある選挙区はきちんと調整すればいいだけの話。あまりギリギリとやる必要はないのでは」(2022年4月15日・岡田克也氏インタビュー・朝日新聞)という立民幹部の苦悩が見てとれる。
原発再稼働できるのは野田氏しかいない
しかし、共産党との連携が続く限り、無党派層、保守中道層の票を獲得するなど、夢のまた夢であろう。「共産と連携しているというだけで保守票は離れる。1万2500票がそのままプラスされるわけではない」(先述の記者)という。
では、代わりに選挙協力ができる政党があるのかといえば、維新が「どの党とも選挙協力はしない」と態度を明確にしている以上、残っているのは、原発再稼働を推進する国民民主党だけだ。
国民民主党は、先の参院選挙で無党派層の支持をほぼ得られず「産別」と呼称される民間労組票だけが孤軍奮闘した。その民間労組は、原発再稼働を推進している電力系組合が強い存在感を発揮していて、立民が「脱原発の旗」を降ろさない限り、完全な選挙協力は不可能であろう。その点、野田氏は首相在任中に、脱原発を掲げながらも「国民生活を守る」として、関西電力・大飯原発を再稼働させている。脱原発を事実上の棚上げにすることは、野田氏にとって手慣れたものと言えそうだ。
自民党の谷垣禎一氏は、自身が自民党総裁だった野党時代における、菅直人元首相と野田氏を比較して「(菅氏は)不信感や不透明感が常に漂っていて、彼の周辺から何となく『これで自分の起死回生があり得る』というにおいを感じました。基本的な信頼感がなかった」と酷評するものの、「一方で、後に野田佳彦元首相とは(民主、自民、公明各党による「社会保障と税の一体改革」の)3党合意をまとめたわけですが、あのときは野田さんと直接的にも間接的にも相当話をした上で『彼は本気で信頼できるな』と感じた」(2022年4月19日・産経新聞)としている。与野党幹部が、厚い信頼を寄せる野田氏が復権する日は来るのだろうか。