なぜ米国はWBCでの弱さを直視できないのか…チケットは激安、バーでは大学女子バスケ「米広告業界で広まる大谷1兆円説」

 経済効果600億円、視聴率は全7試合40%超え、日本では一大ムーブメントを起こした2023年WBCだが、準優勝のアメリカでは全く様相が異なったようだ。ロスで20年間広告代理店を営み、エンジェルスホーム球場の広告なども手がけている岩瀬昌美氏が、その実態やアメリカ人の様子を語る――。

LAタイムズのベタ記事見出しは「エンジェルス一騎打ち!」

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝戦は、日本の優勝で終わりましたね。日本のTVは朝から晩まで日本優勝で賑わっていましたが、アメリカはかなりの温度感がありました。まず私の地元のLAタイムズでは、試合翌日、1面一番下の2センチほどのベタ記事で取り上げられていました。見出しは「DUELING ANGELES」(エンジェルス一騎打ち)とあくまでも、地元球団であるエンジェンルスに所属する二大スター、大谷翔平とマイク・トラウトが敵同士として試合したことをメインに伝えていました。そこに「WBC」の文字は無く、スポーツ面には「エンジェルスのスター、オータニが救援」とあり、「あれ、これ何の試合だったけ?」となってしまう紙面構成でした。

 アメリカ人にとってのナショナルスポーツは、長年ベースボールでした。しかし昨今はバスケットボールとアメフトに押され気味です。去年のニールセンのTV 視聴率でも1位と2位はNFL(アメフト)。2021年のワシントン・ポストの調査では「あなたの好きなスポーツはなんですか?」という質問で野球と答えた成人は11%。1位のアメフトの34%には遠く及びません。30歳以下に限定するとさらに悲惨で、1位アメフト24%、2位バスケ17%、3位その他12%、4位サッカー10%そして5位に野球で7%でした。その理由はTV出現で、野球は見るのに退屈なスポーツというレッテルが、徐々に貼られてきたためです。野球はお父さん世代の死にゆくスポーツなのですね。

どこで中継観られるのかよくわからない問題

 そうは言っても、今回のWBCは “メディア王” ことルパート・マードック率いるFOXが、メインのメディアスポンサーです。だったら当然「アメリカでも盛り上がるはずよね!」と思っていた私でしたが……アメリカVSキューバ準決勝の生中継を見ようとチャンネル11のFOXのメインチャンネルにまわしたら「あれ、やってない」。

 時間間違えたのかしら…と思い、改めて試合開始時間を調べても、やっぱり間違っていない。そうしたらスポーツ好き(バスケとスーパーボウル専門)の旦那が「多分チャンネル219でやっているんじゃないか」と。旦那のいう通りだったのですが、これはFOXのスポーツ専門チャンネルなので、これだとよっぽどのファンでないと観ないでしょうね。

 翌日は日本とメキシコの準決勝でした。午後4時から日本人相手の会合があったのですが、敢(あ)えてスポーツバーに行くことに。「流石にスポーツバーだから準決勝はスクリーンで流すはず。カリフォルニアの人口は50%以上がメキシカンだし、スポーツバーはきっと大盛り上がりするはず」。そう思ってお店に到着したらビックリ。そこで流れていたのは大学女子バスケの試合でした。

スーパーボウルの65万円チケットに対しWBC決勝は2万9000円…

 そして決勝の日本VSアメリカは流石にFOXメインチャンネルでやるはずだと期待を込めてチャンネル11をつけたら、通常のローカルニュースが流れていて椅子ごとひっくり返りました。試合を放送していたのはやっぱりチャンネル219。正直、ここまで人気がないものかと衝撃を受けました。

 ちなみに日本の準決勝進出が決まった時に、準決勝と決勝のチケットってまだ売っているのか?とネットで調べてみると、なんと220ドル(約2万9000円)から売っているではないではありません。今年の2月にスーパーボールって幾らなのかと調べてみたら、通常のチケットは勿論ソールドアウト、所謂(いわゆる)バッタ屋サイトで見たら、5000ドル(約65万円)超えでした。このギャップは一体……。

 それではアメリカ人にとってWBCって何なのという質問ですが、WBCのスタートは2005年5月で、実はYouTubeベータ版の一般公開とほぼ同じです。米大リーグ機構(MLB)はレギュラーシーズンを優先する傾向にあり、これまで超スーパースターは出場を自粛してきました。野球界にとっては、WBCよりワールドシリーズに勝つ方が重要です。ですが、正直それもちょっと「言い訳じみているなぁ」とは感じています。

言い訳ばかりのアメリカ人

 野球はナショナルスポーツ(国技)なんだから勝って当たり前、という風潮がアメリカにはあります。つまり、負けることは許されないということです。ですが、第1回の2006年は、ミスターヤンキースことデレク・ジーターなどの有名選手もある程度出場しながらベスト8という結果でした。こんな情けない成績をアメリカ国民は直視できず「もっと強い選手は敢えて出場していないからだ」などと言い訳を始めました。優勝した日本代表も、当時は参加を渋る選手が多かったんですけどね……。

 つまり、アメリカは総力戦でも負けるのを恐れているのです。最初から負ける言い訳を用意しているようにも思えます。たしかに所属しているMLB球団からしたってシーズン前に怪我(けが)をされたくないという意向もありますが、この点に関しては日本のプロ野球も一緒です。

 その後、アメリカチームは2017年大会で初優勝します。そういうこともあって、少しずつアメリカ国内での注目度が高まってきたという状況の中でむかえたのが、今回の2023年大会でした。2017年は出場を辞退したトラウトが一番乗りで参加を表明。キャプテンに任命され、自ら代表候補選手に出場要請までしたとのこと。そんなこんなで、少なくとも野手はスーパースター揃(ぞろ)いと言われ、代表チームが完成しました。やはり一流選手はどのスポーツでも、本音としては世界NO.1になりたいと言う夢があるのでしょうね……。そんなこんなでアメリカはスーパースター揃いの『絶対』負けないはずのチームになったのです。が、第1ラウンドC組のメキシコ戦でまさかの1敗。米国でのがっかり感は否めません。その後は復調し決勝まで駒は進めましたが……。

それでも一流人はちゃんとわかっている。アメリカは負けた

 一流選手が怪我の危険も顧みず参加したアメリカチームには「負ける」という選択はなかったので、決勝戦後にスポーツ雑誌のインタビューでトラウトは悔しさ全開でした。ただ、そこは一流人。悔しいけれども日本のこともちゃんと認めていました。

 結局、アメリカが負けてワーワー言い訳を重ねていたのは、にわかファンやそもそもファンでもない人ばかりな印象です。野球はアメリカのメジャースポーツの中では、スーパースター選手の黒人比率が少ないプロスポーツとされています。そのため解説者(元プロ選手)なども白人が多く、白人からしてみれば、アジアの小国に負けるというのは許し難い、という差別的感情もあったのかもしれません。

 ただし今回のWBCは、世界中の野球に対するイメージアップへの貢献は、多大なものになっています。ライブで見ている人はスーパーボウルには及ばなかったけれども、その後の大谷VSトラウトの決戦は「映画でも有り得ない決戦」とSNS上では大盛り上がり。アメリカチームの監督も、今回の勝者は「野球」自身だと言っていました。もちろん彼も優勝して、そしてもっと盛り上げたかっただろうけれども、これは負けず嫌いでなく、彼の本心であると思います。

アメリカ広告業界で噂される大谷1兆円プレイヤー説

 3年後のWBCは、アメリカは今回以上のスーパースターを揃えて来ると思います。野球がオリンピックの種目から外れた今、世界一になれるのはWBCだけですから。私の予想は、次回はアメリカ優勝。次回はアメリカは投手陣も超超一流を揃えてくるのではないでしょうか。侍ジャパンもウカウカしていられないと思います。あまり野球に興味がない私でさえも、3年後の決勝は絶対見に行こうとわくわくしています。

 余談ですが、このWBCの大活躍で、大谷は史上初の1兆円プレーヤーになるのではないかというのが、こちらの広告業界でもっぱらの噂です。投手として5000億円、バッターとして5000億円の価値があるから合わせて1兆円の価値があると。

この記事の著者
岩瀬昌美

ロサンジェルスで日本企業の海外進出のサポートを行うマルチカルチュラル広告代理店「MIW Marketing and Consulting Group, Inc」 CEO/PRESIDENT。今年で創業20周年を迎える。在米30年。名古屋出身。カリフォルニア大学サンディエゴ校で学芸修士、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で経営学修士を取得。2017年 できるアメリカ人11の「仕事の習慣」 日経プレミアシリーズ 日本経済新聞出版社より出版。 2019年Shoku-Iku USA (非営利団体)設立。2012年より米国にて子ども向けクッキングクラスや記事の執筆で食育プロジェクトを推進。

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