30代共働きの夫婦の妻が疲れて早期退職→世帯年収420万円に激減、3年で60万の赤字に…妻を復職させるべきなのか

深野康彦
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 30代共働き夫婦の妻が家事・育児に疲れ早期退職し、一馬力で余裕ある生活をするのに必要な「余裕」はどの程度なのでしょうか。FP深野康彦さんに聞きました。

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30代の共働き夫婦の妻が家事・育児に疲れ早期退職

 育休を取得する男性が年々増えていますが、依然として育児は女性の負担が多いことに変わりありません。今回は30代の共働き夫婦、私(妻)が家事や育児に疲れてしまい早期退職をして体調が戻るまで休職、その後仕事を再開する場合の収入はどの位まで確保できると家計が安泰なのか、というケースをご紹介したいと思います。

 ご相談を寄せた鈴木さん、子育て・家事・仕事に疲れたことから2021年に半年休職されています。退職後は時短で何とか勤務を継続していますが、それにも限界を感じてのご相談になります。「家計を守る上では、私はいつ早期退職してどれくらい休むのがよいでしょうか。また、仕事を再開した後は、どの程度稼げば家計は安泰なのでしょうか」とご相談いただきました。相談時には子どもの進学プランなど、決まっていない項目も複数あったことから、推測を交えて家計収支は試算を行い回答しました。

世帯年収658万円で、月に15万円投資できる優秀なやりくり

 鈴木さんの家計は、夫の収入は月額27万円、年額324万円、ボーナス100万円の合計424万円。鈴木さんは月額14万円~15万円と述べていたので平均額の14万5000円とし、年額174万円、ボーナス60万円の合計234万円。世帯合計では658万円になります。一方、支出は平均35万円、年間420万円のほか、iDeCoやNISAなどの積立投資に月15万~16万円ほど投資されています。

 相談時に鈴木さんは「ボーナスを含めてやっと黒字を維持しています」と述べていましたが、家計が赤字か黒字かは投資を含めた貯蓄額を除いた金額で判断するのが一般的です。したがって、年間180万円以上も投資(黒字)に回されている鈴木さんの家計はかなり優秀といえます。ストレス発散で使ってしまう金額が毎月5万円位あるとおっしゃっていましたが、投資(貯蓄)がしっかりできているので現状の範囲内で収まるなら家計のバランスを取るための必要経費と考えられても良いとしました。

休んでいる3年間で60万円の赤字が発生する見込み

 本題の鈴木さんの退職時期から考えます。鈴木さんが今以上に体調を崩されて家族に負担がかかることは避けるべきだとこれまでの相談経験から私は判断しました。鈴木さんが我慢する必要はないので直ぐに退職されてゆっくりと疲れを取り体調を戻すことを提案。相談時には「どのくらい休むのがよいでしょうか」と述べていますが、期間を区切っても体調は必ず戻るものでもありません。

 鈴木さんの長い人生を視野に入れれば「体調が完全に戻るまで」と回答したいのですが、それでは鈴木さんの質問に回答していないことになるため、試算は子どもが小学校に上がるまでの3年間としました。3年間は鈴木さんの収入は0円とします。

 鈴木さんが働かない3年間の家計収支は夫の収入424万円、先に述べたように積立投資などを除けば支出420万円ですからほぼトントンです。ボーナスは年によって変動が大きいと述べていたことから年によっては赤字になることがあるかもしれません。このため3年間で60万円の赤字が発生するとしました。また、子どもの小学校進学の準備などもあるのでその費用を40万円とし、3年間で合計100万円が金融資産から取り崩されることとしています。現在鈴木さん夫婦は現金2200万円、iDeCo150万円、NISA430万円の合計2780万円を保有しているため、100万円を取り崩すと残りは2680万円になります。

このペースでも、60歳になるまでに金融資産をさらに1950万円上乗せ可能

 3年間休んだ後に鈴木さんは仕事に復帰することになりますが、相談時に述べていた「家計は安泰」の基準が残念ながら不透明でした。このため安泰=余裕と考え家計収支を試算することにします。

 3年後鈴木さんは35歳、夫は47歳、子どもは7歳になります。夫の収入は昇給もあるでしょうが、試算を厳しめにするために現状の金額で変わらないとします。鈴木さんは今より少し少ない月15万円、年間180万円の手取り収入を得るとしましょう。

 夫の年収424万円、鈴木さん180万円の合計604万円が世帯収入になります。支出は月35万円から子どもの成長に伴い月3万円増え38万円としたいのですが、3年間の休暇でストレス発散の支出は減少していると考え月1万5000円増額した36万5000円が月間支出、年間では438万円としました。世帯収入604万円、支出が438万円なので166万円が黒字になります。全額投資や貯蓄に回してもよいのですが、家計にも少し余裕を持たせるとして年間150万円を積立投資などに回すようにします。

 夫が60歳になる13年間では150万円×13年間で1950万円を金融資産に上乗せできることになります。3年間の休職後の金融資産額が2680万円に1950万円を加えると4630万円の金融資産を準備できることになりますが、この金額から子どもの教育費を差し引かなければなりません。子どもの進学プランは決まっていなかったので、中学校までは公立、高校は私立、大学も私立に進学するとしました。大学進学までを視野に入れると塾や習い事などの費用も考慮する必要があるため、大学卒業までの教育費は1500万円とします。4630万円から1500万円を差し引くと3130万円の金融資産額が残りますが、教育費が予想外に増えて2000万円かかったとしても2630万円が残ることになります。

夫が65歳時点で3858万円の金融資産に

 夫は65歳まで働くと思われますが、60歳以降の再雇用では収入が減額になると考えられます。ただ、現在よりは再雇用となっても人手不足などを反映して収入の減少は少ないと推測されるため、現在の424万円から15%減額の約360万円とします。

 夫60歳時点で鈴木さんは48歳なので収入は180万円で変わらないとすれば、世帯収入は540万円になります。子どもは20歳なので夫62歳までは支出は変わらない438万円とします。

 年間収入540万円、年間支出438万円となり年間の黒字額は102万円となります。2年後は子どもが社会に出るため年間支出は15%減額の約372万とします。支出が66万円減額となるので黒字額は168万円になります。

 102万円の黒字が2年間、168万円の黒字が3年間となるため、5年間の合計では708万円の投資や貯蓄ができることになります。夫60歳時点の金融資産額が2650万円から3150万円なので、全額を投資などに回せば65歳時点では3358万円から3858万円の金融資産額を保有していることになります。

妻が働けば夫77歳、妻65歳時点でも金融資産2400万円以上は残る

 夫が65歳以降働くのかどうかは分からなかったので完全リタイアで試算を続けました。鈴木さんは53歳ですが夫の完全リタイアに伴い鈴木さんは、パートまたはアルバイトにシフトして月5万円、年間60万円の収入を得るとします。夫の年金額を手取り月14万円、年間168万円とすれば鈴木さんの収入を入れて228万円になります。

 完全リタイアされるため、支出は62歳時点の約372万円から2割減額の約300万円とします。

 年間収入228万円、年間支出300万円なので年間の赤字額は72万円になります。

 鈴木さんが年金を受給できる65歳まで働くとすれば53歳からの12年間で72万円×12年間で864万円の金融資産の取り崩しが行われることになります。夫65歳時点の金融資産額3358万円~3858万円から864万円が取り崩されると2494万円から2994万円が鈴木さん65歳、夫77歳時点で残ることになります。

 鈴木さんの年金受給額は53歳以降の勤労収入年間60万円より多いでしょうから、世帯収入は228万円より増えることになるため赤字額は72万円より減少することになるでしょう。鈴木さん65歳時点の少ない金融資産額2494万円を徐々に取り崩しても余裕で人生100年時代に対応できます。また、夫の収入の増加も考慮しない試算でも余裕がかなりあると思われることから、鈴木さんが考える家計は安泰といえるのではないでしょうか。

 相談時には夫の退職金の有無を鈴木さんがわかっていなかったので、退職金が支給されれば家計の安泰度はさらに高くなるでしょう。なお、鈴木さんが退職されている期間はiDeCoの所得控除が使えないため積立を休止あるいは減額されてもよいでしょう。現在は黒字額が全額投資に回されていますが、復職後は毎月の黒字額を投資7割、貯金3割程度にされた方がよいと思われますと付け加えておきました。

この記事の著者
深野康彦

ファイナンシャルプランナー。ファイナンシャルリサーチ代表。1962年生まれ。クレジット会社を経て独立系FP会社に入社、96年に独立。30年以上の実績を持つ日本のFPの草分けの一人。さまざまなメディアやセミナーを通じて家計管理の重要性や投資のあり方を発信するとともに相談業務も行っている。

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