歩く仮想通貨ゲーム「STEPN」にぶち込んだ100万円が”ほぼゼロ”になった男の末路…でもちょっと痩せた

ゲームで簡単に稼げる「XX to Earn」時代がやってきた

 『アクシーインフィニティ』という、ゲーム内で獲得できるトークン(仮想通貨とほぼ同義)が換金できるタイプのゲームが大ヒットした2021年以降、これに目を付けた投資家が大量に参入、ゲームによってお金を稼げる可能性が大いに注目された。『アクシーインフィニティ』のような稼げるゲームを、「Play to Earn(稼ぐためにプレイする)」と総称する。

 この傾向は2022年に入ってから加速し、トークンを得られるトリガー(きっかけ)は、ゲーム内の報酬に限らなくなってきた。Play to Earnにとどまらない、「XX to Earn」時代の幕開けだ。

 その中でも特に大ヒットしたのが、「Move to Earn(稼ぐために動く)」の代表選手『STEPN(ステップン)』である。ゲーム内のデジタルな靴を履いて歩いたり、走ったりすることで、その距離や時間に応じてトークンが得られる。靴の生成、販売も可能で、レアな靴に数千万円の価値が付いていた時期もあった。また道中で拾ったアイテムが、高い価格で売れることもある。

 この記事では、『STEPN』への投資で健康と経済的なリターンを一時的に手に入れたものの、情報弱者を容赦なく切り捨てる過酷な世界についていけなくなった、投資家の末路を紹介する。

ただのゲーム好きが仮想通貨の世界に参戦し『STEPN』に出会う

 Tさん(40代・男性)は、これまで投資とは無縁の人生を送ってきた。とにかくゲームが大好きで、仕事後や休日の時間はもっぱらゲームを楽しむことに費やしてきた。

「ファミコンが小学生のときに登場した世代ですから、成長期は常にゲームと共にありました。ただこの数年は、さすがにゲームにも飽きてきていて、なおかつ人生ずっとこれでいいのかという葛藤はあったんです。そんな時期に出会ったのがPlay to Earnですよ。ゲームをしながら、お金が稼げるのなら迷いはありません。もともとは全然知らなかった仮想通貨の世界ですけど、本を読んだり、英語の記事を頑張って翻訳したりして、精力的に情報を集めていたのが、2022年のお正月くらいです」

 いくつかの稼げるゲームを渡り歩くうちに、出会ったのが『STEPN』だという。

「Play to Earnのタイトルは、稼げるかどうかは別として、ゲームとしてあまり面白くないケースが多かったんですよ。単純な対戦カードゲームとか、街づくりとか、逆にお金が儲からないなら誰もやらないだろう、というものが多かった。ドラクエやFFみたいな大作は、開発に何年もかかるものですから、あの時点ではまだリリースされていなかったんでしょうね。そんな時期に出会ったのが『STEPN』です。これまでのタイトルとは違って、ゲームの中だけではなく、実際に運動して稼ぐ、という点が斬新でした」

 勤務先の健康診断でも運動不足や肥満を指摘されていたTさんは、すぐに『STEPN』に飛びついた。

誰と競争するわけでもなく、散歩するだけで毎日数万円

「僕はどっちかというと、対戦よりまったり楽しむタイプのゲームが好きです。でも、『アクシーインフィニティ』みたいなカードバトル系のPlay to Earnは、基本的に誰かに勝つことが評価されて、報酬獲得につながる世界観なんですよ。だからこそ、他者との競争要素がない『STEPN』に馴染めたのもあると思います」

 『STEPN』は歩く、あるいは走ることでGSTと呼ばれる専用のトークンを獲得できる。2022年春にはこのGSTの価格が高騰し、参加者間ではお祭り騒ぎに。

「『STEPN』は操作性がいいんですよ。他のPlay to Earnみたいに、ウォレット(Web上の仮想通貨保管用の財布)に接続して、アカウントを作って、ソフトをダウンロードして…のような手間がなく、スマホアプリを導入するだけで、ほかには何もいりません。全部アプリ内で完結します。さらに文字よりアイコンで情報を伝える画面デザインで、英語が苦手な僕でもすんなり楽しめました。GSTが春先に高騰したことで、ある瞬間には散歩をするだけで毎日数万円の儲けになっていました。今思うと、異常事態なんですけどね」

一時は9ドルを超えた通貨があっという間に急落、いまではほぼゼロに

 この衝撃的なチャートは、GSTの対ドル価格。GW前半の4月29日には、GSTは9ドル付近まで上昇している。最低ランクの靴1足でも、1日で5~10GST程度は得られたため、誰もが毎日少し歩くだけで数千円のお小遣いが得られたのである。

 もちろんこんなボーナスステージが続くわけもなく、5月に入ってからGSTはすさまじい勢いで急落。見るも無惨なチャートになっている。この緊急事態にTさんはどう対処したのだろうか。

「6月くらいに、実家の問題、僕個人のプライベートな問題、そして仕事のトラブルが同時多発的に発生してノイローゼみたいになってしまって、とてもじゃないけど『STEPN』に構っていられなくなったんです。悪いネタがどんどん出てきていたみたいですが、そういうニュースやチャートを見るのも苦痛で、とにかく見ないことにしていました。でも、気分転換をするために『STEPN』を起動して散歩だけは続けていました」

 Tさんは『STEPN』に100万円程度の投資をしており、良い靴を複数持っていたため、日々かなりのGSTを獲得できていた。ただし、得られるGST自体が圧倒的に値下がりしていたので、もし換金していても雀の涙程度ではあったが。

そして、怒りにまかせたスマホ初期化が彼の息の根を止めた

「時間と心に余裕があるときは、あれだけ楽しかった仮想通貨の勉強やPlay to Earn、それに『STEPN』が、そのときはもう邪魔でしかなかったです。仮想通貨の世界はニュースで大きく状況が変わるし、価格変動も急激なので、毎日チェックできる人じゃないとついていけないです。今になってそれが分かります」

 そして、決定的な過ちをTさんは犯す。

「ちょうど使っているスマホが調子悪くなって、『STEPN』の挙動もおかしくなったんです。保有しているはずのデジタル靴が読み込まれなくなり、トークンを得られなくなってしまいました。そしてある夜、仕事関係で疲れ果てていたところでお酒を飲んだら、とても攻撃的な気分になり、勢いに任せてスマホを初期化してしまったんですね。そしたら、STEPNを復元できなくなってしまったんです。あわてて調べたら、スマホの初期化や乗り換えをする前に、Googleの二段階認証を有効にしておかないと、新環境に以前の状況を引き継げないという記事が…。一応救済のためのフォームがあるんですが、運営には入力した情報不十分で復元を拒否されてしまいました」

 あれ以降、Tさんは『STEPN』などのXX to Earnをプレイすることはないという。ただ、『STEPN』のおかげで運動する習慣はできたそうで、ベルトの穴が1つ前進したそうだ。

 日々の変化が圧倒的に速く、不安定かつ不親切なサービスが多い仮想通貨の世界についていくつもりなら、毎日張り付いて情報を集めるだけの時間と精神の余裕は必須である。

この記事の著者
鹿内 武蔵

国内唯一の月刊FX情報誌『FX攻略.com』の元副編集長として、雑誌記事の取材・執筆・編集業務を経て、投資、FXライターとして2019年に独立。多くのプロトレーダーを取材してきた経験を生かし、個人投資家が相場の世界で生き残るための情報発信をしつつ、自らもトレーダーとしてFXを中心に様々な運用を行う。株式会社tcl代表取締役。

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