怒る菅義偉! 国民の声が届かない…「地獄の岸田増税」にたった一人で立ち向かう男が手にする「正義」

 菅義偉前首相が、増税へと突っ走る岸田文雄首相への批判を強めていることが、永田町で大きな騒動になっている。メディアの分析では「岸田下ろしの号砲」などと政局と絡めての憶測も強く、また、それに乗っかって自らの存在感を示そうとする一部勢力に利用されかねない状況にもなっている。何が起きているのか。ジャーナリストの小倉健一氏が解説する──。

「岸田下ろしの号砲」…菅前首相、岸田政権批判の意味

 まず、菅前首相が、岸田政権への批判ともとれる手記を発表したのが『月刊文藝春秋』だ。文藝春秋電子版(2023年1月9日)に、転載されていて、そんなに長くはない手記だった。中身は、派閥政治を引きずる岸田首相への批判になっているのだが、注目すべきは、その書き出しである。

『皆さんの中には、国民の声が政治に届きにくいと感じている方も多いと思います。私はその一つの要因に、派閥の存在があると考えます……』

 この書き出し、鋭い人は気づくのだが、もう1年以上も前のことなので、忘れてしまっている人も多いかもしれない。菅政権を打倒しようとした岸田首相は、総裁選を前にして「菅首相(当時)は、説明不足であり、発信が大事だった」と繰り返し発言。総裁選に当選直後、自民党総裁としての最初のスピーチでも、花束と共にエールを送った菅氏を横に立たせて、「多くの国民が政治に声が届かない、政治が信じられないといった切実な声を上げていた。私は、我が国の民主主義の危機にあると強い危機感を感じ、我が身を顧みず、誰よりも早く総裁選に立候補を表明した」とぶち上げたのだ。

 同じ党内の人間に対して、どれだけひどい侮辱であったろうか。野党やメディアが書き立てるなら理解はできるが、勝負が決した後にもかかわらず、自分が追い出した相手に、お前には国民の声が届かないのだ、とぶった斬ったのである。岸田首相は、菅前首相にどれだけ無礼なことをしたか、理解できるだろうか。

岸田首相に受けた侮辱に対し、大人のルールで反撃した菅前首相

 この文藝春秋の菅氏による手記は、支持率が長期にわたって低迷し、日本経済をどん底へと落としつつある岸田氏への壮大な皮肉なのである。

 大人の世界にはケンカのルールというものがある。それがわかっていれば、コミュニティで自由に意見を言えるし、それがわかっていなければ嫌われるのである。

 その大人の喧嘩(けんか)作法とは、「目には目を、歯には歯を」というものだ。この言葉は、古代バビロニアのハンムラビ法典にある言葉で、旧約聖書(出エジプト記)にもある。「他人の目を害した者は自らの目をもって償い、歯を害した者は歯をもって償わなければならない」という、ちょっと野蛮にも聞こえる格言であり、実際のところ、被害と同等の報復を行うのが当然とするたとえである。ただし、目をやられたからといって、目をやる以上のことをやるな、それ以上の暴力は禁止、ましてや殺してはならぬという、抑制的な面もあり、法思想では、同害報復と呼ばれている。

 つまり、大人の喧嘩作法では、相手がやってきた無礼に対しては、歯止めのない報復をしてはいけないが、相手がやってきたところまではやっていいとされており、先に「国民の声が届かない」などと菅前首相へレッテルを貼ったのは、岸田首相なのである。

「国民の声が届かない」というレッテルを、岸田氏は首相就任を経て「聞く力」という言葉に変え、繰り返し世論を煽(あお)ってきた。底意には、安倍・菅政権が国民の声が届かない政権だったという岸田氏の反省があったわけで、菅前首相ははっきり言って、岸田首相が自身に浴びせてきたレッテル貼りよりも格段に上品で、トーンを抑え、ささやかにやりかえしているに過ぎないわけなのだ。

同じ岸田政権批判でも、石破氏と菅前首相では中身が大違い

 この点、安倍晋三元首相を在任中にコテンパンに罵り続けた石破茂元自民党幹事長とは、まったく異質なものだ。

 とにかく石破氏のプレゼン力はすさまじいものがあり、鳥取県から島根県へという、全国人口47位から46位の地域へ大赤字新幹線を走らすことを掲げながら、鉄道への補助金漬けはダメなどとメディアの前では改革派気取りである。増税を容認し、公共事業をよこせという、自民党いちばんの守旧派でありながら、他人のことを守旧派とレッテル貼りするのだ。

 岸田首相とて、同じだろう。聞く力などと言っていても、何も聞いていないではないか。言っていることと、掲げていること、やっていることがそれぞれ違う人というのはなかなかいないだろう。

 これらの意味で、菅前首相がたった一人で始めた「岸田増税」との戦いは、完全に自民党におけるルールに収まっていると考えていい。それにしても岸田首相というのは、どうしてこんなに土着的な発想でしか動けないのだろうか。

 菅前首相が怒るように、ひたすら派閥の領袖に土下座外交を繰り返し、意向をひたすらに汲み、無派閥議員は冷遇している。菅前首相は『派閥に入っていなくても、政策本位で、適材適所にポストに就けるのが大事でしょう。派閥の領袖に従わなければならない、自分の意見を言えない状態にすべきではない』『私が総理大臣の時には、派閥の推薦は受けずに人事を決めました。逆に「派閥が推薦したら閣内に入れないぞ」という感じを出していました。昔は派閥の推薦枠に名前がなければ、閣僚になれないという時代がありましたけど』(前述の月刊文藝春秋)と指摘している。

結局「新しい資本主義」の正体は「古い社会主義」の焼き直しか

 岸田氏は今回の所信表明演説においても、規制緩和には一切触れず、「官民一体」となった経済政策を進めていく考えを繰り返し述べている。新しい資本主義どころか、中身は古い社会主義政策の焼き直しだ。岸田政権の要である木原誠二官房副長官も、規制緩和は意味がない旨の発言を、メディアを通じて主張しているところを見ると、やはり本気なのだろう。派閥政治を復活させ、大増税して、規制を強化していくのである。

 自民党の中堅議員(無所属)は、こう話す。

「岸田首相の性格がよく表れているのは、自分の選挙区である広島をサミットの開催地にしたこと、そして、自分の長男(翔太郎氏)を首席秘書官に据えたことだろう。この発想が、典型的な田舎の県会議員だ。自分の地元、自分の身内に利益を誘導することが当たり前という世界観をお持ちのようだ。語り口がソフトなので、みんな騙されているような気がする。そもそも、なぜ、出身派閥を抜けないのかも意味不明だし、批判を受けてもそれらをやりきるのだから、相当、頭が固い」

 計画経済で滅んだ国がある。世襲で立ち行かなくなった国もある。岸田首相が聞く力を発揮しているという「国民の声」は、どこに存在しているのか。菅前首相のたった一人の怒り、それが大きな広がりを持つことを期待したい。今のどうしようもない自民党にそんなことができるわけはないかもしれないが。

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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