超インフレ時代到来…タンス預金は「ただ損をするシステム」にルールが変わった

給料は上がらないのに物価が上がる――。6月29日には、約24年ぶりに1ドル137円を更新。円安はどこまで進み、これから生活にどんな影響が出るのだろうか。何より今、自分の資産をどこに置くべきなのか。

個人が投資に向き合う時代、日経新聞ベテラン記者の高井宏章さんは「経済や投資を見極める視点」を培うことが重要という。初めて投資や経済を学ぶときに知っておきたいポイント、特に今押さえておくべき「為替」と「インフレ」を分かりやすく解説する。

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※本記事は、高井宏章著『日経記者YouTuberと学ぶ 投資の教室』(日経BP)より抜粋・再編集したものです。

投資家人口急増。投資は「世界の成長マシン」に参加すること

投資は急速に「普通の人がやること」になっています。ネットと金融サービスの向上で世界のマーケットは身近になりました。税優遇制度も投資家の背中を押しています。

いまどきは「投資家」であることは、なにも特別なことではありません。ご覧のようにビジネスパーソンの4割超はすでに投資に取り組んでいます。余裕のある高所得層だけでなく、ごく普通の人たちにとって、投資が人生の選択肢になっている。この調査の対象を見ると、最も厚い層は「年収300万~500万円未満」で全体の4分の1。「500万〜700万円」「700万〜 1000万円」がそれぞれ2割です。未回答を除くと、「300万から1000万未満」が4分の3を占めます。

特に最近の変化が大きいのは若年層です。30代の男性では、2015年に35%だった投資家比率が20年に5割を超えました。水準自体は低いけれど、変化の大きさで見れば女性の投資への関心の高まりも目覚ましい。向こう10年を考えれば、今の20代、30代が「もう一つ上」に上がるのと投資文化の浸透の二重の効果で、「非投資家」が少数派になっていく未来が浮かびます。

商品市場が物価高を招く。それが債券市場に影響して金利が上がり、借り入れコストの上昇で企業や家計の活動にブレーキがかかる。結果的にモノの需要が落ち着き、商品相場も反転して下落する。あるいはドルの金利上昇で投資マネーが米国に還流し、その裏側で新興国通貨が下落する。通貨安で新興国の輸入物価が上がり、インフレ退治と通貨防衛の両面で利上げを迫られ、景気が悪化する。経済の悪化が通貨と国債の信認へのダメージとなり、さらに通貨安と金利上昇が進む。

こんな具合に世界中のマーケットと実体経済は絡み合い、時には後退しつつ、長期では世界経済に繁栄をもたらしてきました。

投資とは、この巨大な成長マシンの大きな流れの中に参画すること、経済に「熱」をふき込むことなのです。

お金の価値は常に動く。守りのはずの「タンス預金」が大損リスクに

投資でリスクを取ることだけが資産形成ではありません。預金や元本保証の商品には別のリスクがあります。「どこに置けばお金の価値が守れるか」という発想の転換が必要です。

投資とは実体経済とマーケットが相互作用する成長のサイクルに参画することだと説明しました。それを読んでこう思った方もいるかもしれません。

「そういうの、興味ないので、参加は見送ります」

もちろん、それは個人の自由です。何事にも向き不向きがあるので、投資は苦手という人もいて当然です。しかし、投資を避ければ、リスクと無縁でいられるわけではありません。

「投資をしない」ことで背負う別のリスクがあるからです。

チャートは米ダウ工業株30種平均の動きをたどったものです。勢いよく跳ね上がっている上の線が実際のダウ平均。1980年1月を100とすると約4000、つまり40年で株価は40倍になった。でも、ここで注目してほしいのは、傾きが緩やかな下の線、消費者物価の変動を調整した実質リターンの方です。

米国ではこの40年間で物価が3.5倍になっています。「『ダウ平均』でどれだけ買い物できるか」というベースで見れば、株式投資で増えた価値は「物価調整後」の線が示す10倍ほどにとどまります。

それでも立派なものに見えますが、フェアに評価するためには「銀行預金にお金を寝かせていた場合」との比較が必要でしょう。仮に短期金利(FFレート)並みの金利で複利運用できた場合、40年でお金は6倍強に増えた計算になります。これは税金を考慮していない粗い試算です。米国は州によって税率が違いますが、仮に税負担を2割とすると、40年で4倍強とインフレを若干上回る程度までリターンは下がります。

ダウ平均も配当を除いたベースでざっくり計算しています。その分を加味すれば、米国では株式投資がこの40年、インフレからお金を守り、価値を上積みする役割を十分に果たしたと評価できるでしょう。裏返せば、この間に「投資をしない」という選択をした人は、「お金の価値を守る」という観点ではギリギリセーフ、もし「タンス預金」をしていれば大損していたとも言えます。

KEYWORD:インフレリスクを注視すべき理由

 

「膨らむ」を意味するインフレーションという言葉からは、物価が上がるというより、家計の出費が膨らんでいくようなイメージが浮かびます。インフレ、あるいはモノやサービスが値下がりするデフレは、「お金の価値の変動」と表裏一体です。2%のインフレ率が35 年続けば物価は 2 倍になる。裏返しでお金の価値は半減します。

 

日米欧の中央銀行はそろって2%というマイルドなインフレを目標としています。かつてはインフレ率と失業率の関係性が強く、適度なインフレは景気と雇用の巡航速度を保つ目安になっていました。最近ではお金の流れと経済が停滞するデフレやディスインフレ(物価が上がりにくい状態)を避ける安全なマージンという側面が強くなっています。

 

新型コロナの流行やウクライナ危機で状況が一変し、エネルギー高・素材高などで世界的にインフレリスクへの警戒感が強まっています。

 

各国中銀は景気とのバランスでかじ取りが難しくなる難局を迎えています。投資家にとってはここ十数年、あまり意識する必要のなかった「購買力の維持」というファクターをマネープランに加味するべき時代が来るかもしれません。

世界的な物価上昇。非投資家も「リスク」を覚悟する時代に

日本はデフレ・ディスインフレが長引き、「物価は上がらない」という考えが染みついています。インフレでお金の価値が目減りするという感覚を持ちにくい。

しかし、少し視点を変えれば、違う構図も見えてきます。国土交通省がまとめる全国のマンション価格指数は2009年の底値から2021年までに1.7倍に上昇しています。「生涯賃貸派」ではなく、マンション購入を考えつつも様子見していた人は、リスクを取って早めに買った人より「お金の価値の目減り」の面で後れをとったのは否めません。

家計の金融資産を国際比較すると、日本の預金偏重は際立ちます。アクセル全開といった様相の米国は私の目にはやや行き過ぎに映りますが、それほど積極的なイメージがない欧州(ユーロ圏)と比べても、日本の「リスク資産嫌い」は鮮明です。

そして、ここまで見てきた通り、それは必ずしも「リスク回避」になるわけではないのです。資産運用をしない選択は、「持たざるリスク」を取るという意味を持ちます。

お金はただの「価値を計る尺度」です。モノの価値が変われば、お金の価値も変わります。物価や不動産などの資産価格とのバランスを考慮して、長期のマネープランの中で資産作りをしていく意識が必要です。資産形成は、突き詰めると、「お金をどの形で、どこに置いて、どうやって価値を守るのか」という選択なのです。

この記事の著者
高井宏章

1995年日本経済新聞社入社。マーケット、資産運用などを長く担当。2016年からロンドンに2年駐在。2020年から編集委員。日経電子版「マネーのまなび(まねび)」を中心に各種コンテンツを発信。YouTube・日経電子版の動画解説「教えて高井さん」を担当。1972年生まれ、名古屋出身。三姉妹の父親で、趣味はビリヤードとLEGO。

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