病院の領収書を”絶対”に捨ててはいけないこれだけの理由…「高額療養費制度」の賢い使い方

「人生100年時代」を喜んでばかりいられない

人は誰もが最期を迎える。その多くは病にかかり、通院や入院を経て死と向き合う。これは紛うことなき人類の宿命だ。高まる健康志向からアンチエイジング(抗加齢・抗老化)も注目されるが、悩ましいのは年齢を重ねるにつれて膨らむ医療費である。戦後の約70年間に20年近くも平均寿命がのびた日本は、1人当たりの年間外来診察回数が世界トップレベルにあり、その医療費は20代から右肩上がりで増加する。世界に冠たる国民皆保険制度があるとはいえ、決してバカにはできないお金を使うことになるのだ。「人生100年時代」だからこそ、損をしない家計防衛術が求められている。

厚生労働省が2021年7月に発表した日本人の平均寿命は、男性81.64歳、女性87.74歳で、いずれも過去最長になっている。女性は香港に次いで世界2位、男性は香港とスイスに次ぐ3位で、世界トップクラスの長寿大国である。1955年の平均寿命が男性63.60歳、女性67.75歳だったことを考えれば、この約70年間に20年近くも平均寿命をのばしている。2020年版「厚生労働白書」は、2040年時点で65歳を迎える男性の4割は90歳まで、女性の2割は100歳まで生存すると推計しており、いよいよ「人生100年時代」が到来したことを意味する。

長生きすれば当然、医療費もかさむ

長生きとともに膨らむのが医療費だ。厚労省の「医療給付実態調査」(2018年度)によると、1人当たりの医療費(医療保険制度分)は20代が18万円と最も少ないものの、「30代」24.9万円、「40代」32.9万円、「50代」52.0万円と増加し、定年を迎える60代は93.2万円、年金生活を送る70代は137.4万円、平均寿命を迎える80代は197.8万円と増加の一途をたどる。90代は232.3万円だ。

これを自己負担額(年額)で見ると、20代は4.1万円、30代は5.5万円、40代は7.3万円、50代は11.1万円、60代は16.1万円と右肩上がりに上昇し、負担額が所得や年齢によって変わる「70代」は14.4万円、「80代」16.5万円、「90代」17.6万円となっている。

国民年金(満額)は月6.5万円、厚生年金モデル世帯(夫婦2人の標準)は約22万円の受給であることを考えると、決して小さくはない負担がのしかかる。2019年には金融庁の審議会「市場ワーキング・グループ」が老後生活の30年間で「2000万円が不足する」との報告書をまとめており、不安な老後に向けて蓄えておかなければと受診を控えるケースも見られている。

 

だが、病気は早期発見・早期治療が原則だ。健やかに長生きするために、決して損をかぶらないために活用してほしい制度がある。それは「医療費控除」と「高額療養費制度」の2つだ。

面倒くさがらずに家族の分も医療費の領収書を取っておく

医療費控除は、勤務先で年末調整をしているサラリーマンに忘れられることも少なくない。だが、これを使っていなければ、とんだ損をすることになる。1月1日から12月31日までの1年間に10万円以上の医療費を支払った人が受けられる控除で、実際に支払った医療費の合計額から保険金などで補填される金額を引き、そこから10万円(総所得金額が200万円未満の人は、その5%の金額)を差し引いたものが対象となる。

最高は200万円で、病院や歯科医院での治療費が110万円かかり、保険金が20万円だった場合の計算式は、10万円を超えた分の100万円から保険金の20万円を引いた80万円が控除される。これは、扶養する家族の医療費も対象であることがポイントだ。「自分は、そんなに医療費が高額になっていない」と思わず、しっかりと家族の分もチェックしてほしい。

なぜならば、この控除は美容整形が対象外となっているものの、薬代(市販薬も)や病院までの交通費、マッサージ・針治療に加え、眼科のレーシック治療や歯科のインプラント手術などにもあてはまるからだ。妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用、通院費用も医療費控除の対象になる。ただ、忘れてはならないのは医療費控除が確定申告のみで控除できる所得控除という点だ。年末調整を終えて「もう安心」とせず、ガッチリと医療費控除の明細書と領収書を付けて確定申告する必要がある。

限度額適用認定証、知っているのと知らないのでは大違い

もう1つの大きな「味方」は高額療養費制度だ。入院治療や手術などで医療費が高額になった場合、自らが加入する公的医療保険に申請すれば自己負担限度額を超えた分が取り戻せる。先進医療にかかる費用や入院時の食費負担、差額のベッド代は対象外だが、保険適用される診療で支払った額が「ひと月」で上限額を超える場合、その超過分の支給を受けることができる。

上限額は年齢や所得水準によって異なるのだが、70歳未満・年収370万円以下(3割負担)の場合で見ると、たとえ1カ月に医療費が50万円かかったとしても、高額療養費制度からの給付額が44万2400円もあるため、実際の自己負担額は5万7600円になる。日本の平均給与が約430万円であることを考えれば、「70歳未満・年収約370万~770万円」の自己負担限度額は9万4097円だ。自己負担額の合計が年間10万円を超える場合には「医療費控除」も申請できるのだから、利用しない手はない。支給を受ける権利の消滅時効は、診療を受けた月の翌月初日から2年だ。自分が加入している健康保険や生命保険の種類、上限額や診療月などを改めて確認した方が良いだろう。

ただ、高額療養費を申請しても、支給までは受診月から少なくとも3カ月程度かかる。つまり、高額になってしまった医療費をまず、自分で用立てなければならないのだ。手元の資金に余裕があるのなら、それでもいいかもしれない。だが、一度でも手術を伴う入院を経験した人は分かると思うが、2、3週間入院して手術を受けるとあっという間に50万円や100万円の費用が掛かってしまうのが医療費の世界。後で戻ってくるといっても、この金額を一時的にでも負担することが厳しいという人も少なくないのではないだろうか。

その点、事前に「限度額適用認定証」を健康保険組合や市区町村に申請・発行していれば、初めから限度額の支払いだけで済む。例えば、前述の70歳未満・年収約370万~770万円のケースで見れば、「限度額適用認定証」を病院の窓口で見せれば、その月のうちにかかった医療費は、自己負担限度額の9万4097円以上は払わなくていい。実は、意外と知られていないことだ。だからまず、入院や手術などで、医療費が高額になりそうになったら、最初に「限度額適用認定証」を入手することをオススメしたい。

人生100年時代、誰もがお世話になる医療機関。あなたは、家計を守ってくれる領収書を無意識のうちにドブに捨てていませんか?

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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