子ども2人は小学校から「絶対私立」の年収1000万円カップルを襲う「ママ友ランチ代」「衣服代」の暴力

賃金は横ばいでも「教育費」は大きく上昇

「教育費」は、デフレ経済にあって上昇してきたものの1つ。

たとえば国立大学の授業料等(授業料+入学金)は、52.5万円(平成元年)から81.78万円(令和3年)に、公立大学の授業料等は60.01万円から92.76万円に、私立大学の授業料等は82.71万円から117.68万円に大幅に増えています(出所:文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」)。

上昇率に直せば、国立大学は約56%、公立大学は約55%、私立大学は約42%も増えました。

この間の勤労者の賃金の伸び率を考えれば、教育費の上昇率はかなりのものといわざるを得ないですね。しかも実際に大学で学ぶためには、大学の学費や仕送り等の費用だけでなく、大学に進学するまでにも多額の教育費がかかることを忘れてはいけません。

大学進学のために必要な教育費は、どのようなコースをたどるかによって雲泥の差があります。

たとえば文部科学省が公表している「平成30(2018)年度子供の学習費調査」のデータでは、幼稚園から高校3年までの15年間の学習費総額(学校教育費+学校給食費+学校外活動費の合計)は、オール公立が約543万円なのに対し、オール私立は約1830万円に跳ね上がりました。オール公立とオール私立を比較すると3倍以上も開きがあります。

「娘2人を小学校から高校まで私立に通わせる」という共働き夫婦

筆者の元に相談にこられた森下(仮)さんは、夫婦合わせた年収が額面で約1100万円、手取りで約820万円の比較的高所得な家計でした。

森下さん夫婦には2人の子ども(ともに女の子)がいて、2人とも小学校から私立へ通わせたいそうです。

ご希望の小学校、中学校、高等学校の12年間の総学習費用を計算してみると(1人あたり)約1740万円でした。

余談ですが、教育費が不足して上の子どもは私立、下の子どもが公立となった場合、相続の際などにトラブルとなるケースが近年増えています。下の子ども曰く「お姉ちゃんは私立に行ったのに私は公立で我慢した。本当は私も私立に行きたかった。我慢したのだから私立と公立の学費の差額分を相続時に相殺して欲しい」というわけです。

子どもが複数いる場合に相続時のもめ事を減らすためにも、森下さんのように教育費は均等にかけてあげるのがベストです。

話を戻しましょう。森下さんのケースでは、2人の子どもが高校を卒業するまで約3480万円もの負担(総学習費用)が発生することになります。この金額は平均値ですから、もっとかかることもあれば、平均値未満で収まるケースもありえるでしょう。

加えて大学へ進学すると、さらに大学4~6年間の教育費の負担が上乗せされます。国立大学の場合、4年間で平均約250万円。私立大学の場合、文科系で同約400万円  理科系で同約540万円というデータがあります。

また自宅から通える大学に進学してくれれば以上の費用で済むのですが、もし地方の大学に進学した場合は、仕送りが必要となって、その総額はもっと跳ね上がります。

森下さんの年齢は40歳。これから子どもが大学を卒業する50代後半まで毎年平均して250万円前後もの教育費が、家計を圧迫し続けることになるのです。

住宅費は年220万円、子どもの教育費は年250万円

2人の子どもが予定通り小学校から私立へ通うことになれば、教育費だけでかなり家計の重荷になります。

にもかかわらず、森下さんはマイホーム(新築マンション)を数年前に購入したばかり。住宅ローンの返済が年間約180万円あるといいます。修繕積立金や共益費等を加えると住宅費の総額は約220万円に上っていました。

住宅ローンの返済は72歳まで続く予定。当初10年間は住宅ローン控除があるとはいえ、教育費と住宅費だけで年間470万円もの支出があるのですから、森下さんの家計にとっての還付金はほんの小遣い程度にすぎないはずです。

470万円もの支出と書いたものの、教育費のさらなる上昇は考慮していません。またマイホームの修繕積立金等の値上げ、自分自身でリフォーム(買い替え)しなければならない湯沸かし器やトイレ等の費用も加えていません。

さらに、子どもが私立へ進学した場合「ママ友とのランチ」等の付き合い費用や衣服代などもバカにならないと言われています。森下さん夫婦は共働きで、かつ世帯収入が多いことから、節約なども厳しく行っていないため、基本生活費全般の支出は一般家庭よりやや多めです。

救いは夫婦ともに厚生年金に加入していることと、定年退職まで働くと退職金ももらえること。これだけが夫婦にとって老後の頼みの綱といわざるをえない状況です。

希望通り子ども2人を小学校から私立へ行かせれば、想定外の支出が発生しない限り家計はぎりぎり回りそうです。

「想定外の出来事を考えて、高校から私立へ進学すべき」

ところが森下さんはマンション購入で多額の金融資産を取り崩したため、相談時の貯蓄は200万円しか保有していませんでした。

資金繰りに余裕がないので、想定外の出来事が発生すると対処不可能という判断を下さざるを得ません。

森下さんの希望をかなえたいのは山々ですが「家計の貯蓄不安を抑えること」「想定外の出来事に対処すること」そして「今後の資産形成(貯蓄額)」を考慮すれば、小学校から私立に行くことはあきらめ、少なくとも中学、できれば高校から私立へ進学するほうがいいとアドバイスしました。

この状況で2人の子どもを小学校から私立へ行かせると、親の経済的な都合で子どもが転校せざるを得なくなる可能性が高くなります。そうなると子どものメンタル面に悪影響を及ぼすため、それだけは絶対に避けるべきですとも一言付け加えました。

森下さんは「相談した結果を妻としっかり話し合います」と言って帰られたのですが、その後森下さんが再び相談に来ることはありませんでした。

この記事の著者
深野康彦

ファイナンシャルプランナー。ファイナンシャルリサーチ代表。1962年生まれ。クレジット会社を経て独立系FP会社に入社、96年に独立。30年以上の実績を持つ日本のFPの草分けの一人。さまざまなメディアやセミナーを通じて家計管理の重要性や投資のあり方を発信するとともに相談業務も行っている。

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