35歳で400万円台…国家公務員、夏の賞与大幅減に「やってられるか!」ブラックすぎる現状

申込者激減の国家公務員試験

 公務員といえば、頭脳明晰な学生が就く職業とのイメージが強い。その中でも選りすぐりの成績優秀者が集まったキャリア官僚は、国家を支える超エリートだ。全国各地の名門高を卒業し、難関の国家公務員採用試験を突破した「学歴社会の申し子」たちは朝から夜まで国益を追い続ける。だが、その頭脳集団の人気に陰りが見える。自分よりも成績が下位だった同級生たちが起業や外資系企業で「億り人」「FIRE」を経験する一方で、あまりにブラックな職場環境に遭い、なり手が減少傾向にあるのだ。政府は勤務間インターバル制度導入などの働き方改革で負のイメージを解消したい考えだが、はたして日本の中枢は守られるのか―。

 2022年度春の国家公務員採用試験(総合職)の申込者数は1万5330人で、前年度に比べ7.1%増となり、6年ぶりに増加した。数字上は勢いがあるように見えるのだが、これにはカラクリがある。21年度は現行試験制度で最大の減り幅(20年度比14.5%減)を記録し、1万4310人まで減少していたからだ。10年前に導入された現行試験の申込者は12年度に2万5000人を超えており、最近は減少が目立っている。

 17年度は2万591人と2万人台を維持していたものの、18年度は1万9609人、19年度は1万7295人、20年度は1万6730人と下降を続けている。倍率は8~10倍という超難関試験の1つだが、その人気は確実に失われつつあるのだ。

 キャリア官僚は東大出身者が多く占めるが、近年は「最高学府」から敬遠される傾向がみられる。国家公務員合格者の東大出身者は13年度に454人だったものの、18年度に372人と300人台に落ち込み、足元の22年度は217人となった。国公立大だけではなく、私立大も含めてバランス良く採用しているともいえるが、かつてのように名門高の成績優秀者が東大法学部を経てキャリア官僚になるという流れは細くなっている。

超過勤務が年間720時間!ありえない職場環境

 その最大の原因といえるのが「ブラックな環境」だ。19年の国家公務員給与等実態調査によると、超過勤務の年間総時間が360時間を超えた職員の割合は全府省平均で22.0%に達し、「720時間超」も7.4%に上った。民間の約130時間と比べ過酷な長時間労働が目立つ。

 内閣人事局による20年の調査では、20代の3割、30代の2割弱で過労死ラインの目安とされる「月80時間」を超える残業を経験。内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室では21年1月の超過勤務時間が約378時間に上る職員もいたという。長時間労働から睡眠不足に陥り、心身の不調を抱える官僚も増加傾向にある。メンタルヘルス不調で1カ月以上休んだ職員(長期病休者)の全職員に占める割合は1%を超える。

30歳未満の若手官僚で「辞める準備をしている」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」と答えた男性は約15%、女性は約10%に上り、その理由は「もっと魅力的な仕事に就きたい」が男性49%、女性44%だった。同級生たちが外資系企業や金融機関で高い報酬を獲得し、起業した友人が「FIRE」する時代の流れを見れば、「なぜ自分はこんな厳しい道を選んでしまったのだろう」と思うのも無理はない。

 国家公務員の年間給与(モデル給与例、2021年度)を見ると、25歳の係員は314万9000円、35歳係長は450万1000円、本府省課長補佐(35歳)は715万5000円、地方機関課長(50歳)は667万円となっている。さらに本府省課長(50歳)になれば1253万4000円、本府省局長は1765万3000円、事務次官に就けば2317万5000円とかなりの高収入を獲得することはできる。だが、年功序列型人事・賃金制度に縛られる官僚機構では若手の自由が大きく制約されているのが実情だ。

平成以降で最大のボーナス減に若手の士気下がる

 早朝に登庁し、大臣や有力議員向けのレクチャー資料を確認しながら「ご説明」に奔走。昼間は通常業務に追われ、夕方以降は翌日の準備に取りかかる。国会が開会中であれば、業務量は一気に急増する。内閣人事局が2016年6月にまとめた調査結果によれば、定時(18時15分)から議員の質問通告が出そろうまでに「省内全ての局を待機させている」のは10省庁に上り、官房総務課が必要と判断した担当局のみを待機させているところも7省庁あった。すべての質問通告が出そろう時刻は最も遅いケースで24時30分、質問表・担当局の確定は27時と異様で、もちろん若手が「お先に失礼します!」と早々に帰ることができるわけはない。

 与党議員から党本部や事務所に呼び出されることも多く、時に野党の集団ヒアリングで詰問に遭う職員も少なくない。20代後半の若手官僚の1人は「国家のため、国益のため、と思って入省を決めたが、あまりにブラックな環境は異常でしかない。民間にいった同級生が華々しい活躍を見せる中で、さすがにもうやっていられない」と話し、来年には退職するつもりだという。自己都合を理由に退職した20代(総合職)は19年度に87人に上り、6年前から4倍も増えている。

 6月30日に支給された国家公務員の夏のボーナス(期末・勤勉手当)は、管理職を除く一般行政職(平均34.2歳)の平均が約58万4800円となり、前年夏に比べ約7万6300円も減少した。マイナスは2年連続で、今夏の11.5%という減少幅は平成以降で最大だ。民間水準に合わせることを基本に給与やボーナスは決まるのだが、民間企業のボーナスが大幅アップとなる中で若手官僚の士気は下がる一方だ。

 東大からキャリア官僚になった30代前半の男性は「コストパフォーマンス概念の欠如、時間至上主義の意識の蔓延が中央省庁には強い。このままの職場環境ならば、とても大学の後輩に『官僚にならないか』と誘うことはできない」と漏らす。

 国は2019年4月施行の働き方改革関連法で、終業時刻から次の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を確保する「勤務時間インターバル制度」の導入を事業主の努力義務としている。しかし、国家公務員は対象外で過酷な労働環境が常態化している。人事院は有識者会議などの議論を経て、実態を踏まえた改善策を進めるとしているが、それだけで官僚希望者が増えるとは到底思えない。国家の中枢を担う官僚にこそ、抜本的な働き方改革が求められている。

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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