上場廃止リスク大の旧JASDAQ銘柄…元グロースの半数が「改善計画」の末期状態に「あなたはベットできるか」

鳥山慶

5つの市場区分を3つの市場区分へ集約。東証再編の狙いはどこに

 2022年4月、東京証券取引所は、これまでの「東証1部」、「東証2部」、「マザーズ」、「JASDAQ・スタンダード」、「JASDAQ・グロース」の5つの市場区分を「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3つ区分へと再編しました。その主な理由は、東証1部の上場維持基準の甘さの是正と、各市場の役割の明確化です。

 TOPIXは、日本経済の動向を示す代表的な経済指標として用いられてきましたが、再編前は、東証1部上場の株式全銘柄を対象としていました。東証1部は、東京証券取引所内で最上位の市場にもかかわらず、同証券取引所上場企業数の約6割近くの約2000社が集中しており、また、上場後は、業績悪化や時価総額の低下があっても上場廃止となりづらく、TOPIXが日本経済を示す代表的な指標として本当に有効なのか疑問が呈されていました。

 加えて、これまで5つもあった市場区分の各役割も曖昧であったことから、投資家にとって市場コンセプトが分かりづらい状態となっていました。

 プライム市場は、東証1部のコンセプトに近いものとなっていますが、上場維持基準がより厳しいものとなっており、上場時は時価が高くても、現在は低い銘柄は除外されるようになっています。

 スタンダード市場は、東証2部とJASDAQスタンダードの基準が統一されることとなり、どちらかといえば第二部に寄せた基準となっています。グロース市場は、マザーズとJASDAQグロースの基準が統一され、マザーズに寄せた基準となっています。

株式流通比率が低い “なんちゃって公開企業” はもう許されない

 新市場への移行に伴い、新規上場時の基準は大きく変わってはいませんが、上場維持基準が見直されました。以前は緩すぎるとされていた廃止基準が、”上場維持基準” と改められ、より厳格なものとなっています。

 旧市場では、大株主や役員等が所有する流動性がない株式を除いた、流通株式の時価総額が5億円以上、かつ流通株式比率5%以上あれば上場を維持できました。一方、新市場ではより厳しく流動性の維持が規定されています。プライムでは、流通時価総額は100億円以上、かつ流通株式比率35%以上が必要であり、スタンダード・グロースでも時価総額は5~10億円以上、25%以上の流動性が必要です。

 これまで、上場したにもかかわらず、多くの株式を外部投資家に公開していなかった、なんちゃって公開企業は上場を維持できない基準に変更されています。

旧・上場廃止基準(22年3月以前の上場廃止基準)

単位:億円 東証1部 東証2部 マザーズ

JASDAQ

共通

最低時価総額 10 10 10

最低流通株式比率に

おける時価総額の下限

100 100 100
流通時価総額の下限 5 5 5 2.5
流通株式比率の下限 5% 5% 5%

新・上場維持基準(22年4月以降の上場維持基準)

単位:億円 プライム スタンダード グロース
100%流通株式化した場合の時価総額の下限 100 10 5

最低流通株式比率に

おける時価総額の下限

286 40 20
流通時価総額の下限 100 10 5
流通株式比率の下限 35% 25% 25%

※出典:東京証券取引所 “新市場区分の概要等について” 20/2/21

実はテレ朝もZホールディングスも基準未達成。今後、上場廃止の危険性がある銘柄はどこか

 基準変更から見えてくるのは、プライム市場を一定時価総額以上の規模の企業に絞ることだけではなく、株式の流動性を高めようという意図です。

 流動性に関する上場維持の条件が厳しくなったことによって、テレビ朝日HDやZホールディングスのような有名企業であっても流通株式比率基準 “35%” が移行基準日時点(2021 年6月30日)で満たせておらず、経過措置による ”条件付き” でのプライム市場移行となりました。

 しかし、プライム市場で経過措置を適用される銘柄は、もともと企業価値が高い企業であることから、いずれは上場維持基準を満たせる企業が多いと考えられます。仮にプライム市場の上場維持基準を満たせなくても、1つ下のスタンダード市場に再上場することで、上場を維持する選択も検討できます。

 今回の市場再編で最も上場維持が危ぶまれるのは、旧JASDAQの銘柄です。JASDAQの上場維持基準は、流通時価総額が2.5億円以上あればよく、時価総額全体の下限や流通株式比率の基準がなかったことから、これまで時価総額を意識した経営を行っていなかったはずです。

 JASDAQ銘柄の多くは、スタンダードまたはグロース市場に再編されましたが、どちらの区分も流通時価総額と流通株式比率のいずれもJASDAQ基準よりも高く、旧JASDAQの上場廃止基準をギリギリ免れていたような企業は、今後、上場を維持できない可能性があります。

※出典:日本取引所グループHPより筆者作成

 新市場移行日(2022年4月4日)前に上場していた会社で、新上場維持基準を現状満たしていない企業は、経営改善計画を提出することになっています。改善計画を提出することで、当分の間、経過措置として緩和された上場維持基準が適用されます。この経過措置は、旧上場廃止基準と同様の内容となっています。

 この経過措置の適用を受けるための改善計画達成期限は設定されていません。各企業が事業環境に合わせて独自に設定ができ、未定として提出することすら許されています。改善計画を出せば、新基準を満たさなくても上場維持が可能となっています。

MBOで上場廃止か、流通株式比率を高め上場維持か。どちらでも旧JASDAQ銘柄は投資のチャンス?

 実際、旧JASDAQ上場企業の改善計画の提出割合は、他の旧市場の企業よりも多くなっています。

 旧市場区分からどの新市場区分へ変更されたのかという見直し結果ごとに、企業が改善計画を提出している割合を見ると、JASDAQグロースからグロースへの変更が最も高く、何と半数の企業が提出しています。次いで多いのが、JASDAQスタンダードからグロースへの変更で約19%。東証1部からプライムへの変更では16%、東証2部からスタンダードへの変更で15%となっています。

※出典:日本取引所グループHPより筆者作成

 東証1部からプライムに変更された企業では、改善計画提出理由の多くが、時価総額の問題ではなく、流通株式比率の基準を一時的に満たしていない問題です。よって、役員または自社株式などを市場へリリースすることで解消できるため、実現はそれほど難しくないと考えられます。

 一方、これまで時価総額経営を意識する機会がなかった旧JASDAQ上場企業は、(基準を満たすために)これまでと異なる経営改革を推し進める必要があります。上場維持基準の変更を逆にチャンスとして、今後、上場を維持するための抜本的な経営改革を進める企業も現れ、大きく株価を伸ばすことも考えられます。

 旧JASDAQ銘柄は、MBOなどにより上場廃止へ向かうのか、それとも上場企業としてしかるべき数字まで流通時価総額、流通株式比率を押し上げるのか、いずれにおいても値動きが期待できるのではないでしょうか。

この記事の著者
鳥山慶

鳥山総合公認会計士事務所(KT Total A&C)代表 1985年生まれ。公認会計士、行政書士。慶應義塾大学卒業。Big4(大手会計士事務所)で、法定監査、IPO支援、ターンアラウンド、事業承継等を経験。その後、外資系戦略コンサルティング会社でM&A戦略、費用削減戦略、新規事業立案等に従事。

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