投資も資産形成何もしていない「普通の30代公務員」がFIREする方法

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「今すぐにでも役所を辞めたいオーラが出ていた」うつ病の30代独身公務員

 新型コロナの影響が長引いていることから、心を病んでしまう人が多いようです。筆者はこれまで数々の心を病んでしまった人の家計相談に応じてきていますが、中でも、うつ病になられた独身男性のことが今でも忘れられないのでご紹介することにします。

 独身男性の鈴木さん(仮名)は、30代半ばで、九州で役所に勤めていました。そのまま定年まで勤めあげることができれば、経済的には人並みの老後を迎えることができると思われました。相談を受けた時の第1印象で「地方在住であればかなり恵まれているだろう」と感じたことを記憶しています。

 ただ、相談に応じているうちに「鈴木さんにこのまま我慢をさせると、うつがよりひどくなるな」と感じたことや、鈴木さんからいただいた手紙の行間から「今すぐにでも役所を辞めたいオーラが出ていた」ことも昨日のように覚えています。

家賃3万円の質素な生活スタイル。貯蓄は3500万円前後。

 鈴木さんの家計収支を振り返ると、毎月の手取額は26万円前後。一方、毎月の支出は14万円あるかないかで非常に質素な生活スタイルでした。毎月の支出が少ないのは家賃が3万円前後と低いことが要因です(生涯住み続けるとも述べていました)。

 ボーナスも手取り額で70万~80万円あったので、大きな買い物や海外旅行などをしなければ、年間の黒字額は甘く見積もって180万円前後。鈴木さんが「今年はお金を使ったな」と思う年でも年間130万円以上の貯蓄ができるため、キャッシュフローを見る限りは、かなり優秀な家計といえる状態でした。

 このため鈴木さんは30代半ばにもかかわらず3500万円前後の貯蓄を保有していました。気になったのが食費にかける金額がかなり少なかったこと。健康に留意するためにも食事はきちっととるようにアドバイスしたことも覚えています。

「仮に仕事を辞めた場合、毎月の支出は減少するのですか?」と鈴木さんに問いかけたとき、鈴木さんは「仕事に行かなくなれば国民年金や国民健康保険などの支出が発生しても毎月の支出は12万円程度、頑張れば10万円前後に下げることも無理ではない」と答えてくれましたが、健康面のことも考えると食費を削ってまで支出を抑えるのはやめるようお伝えしたのは言うまでもありません。

貯金は62~63歳で底を突いてしまう計算。仕事を再開しないという選択肢はあり得ない

 もう1つ、筆者は鈴木さんに「仮に今の仕事を辞めた後、時期は決めないもののまたいつか働く気はありますか?」と聞いてみました。鈴木さんの返答は「今の段階では正直、人の下で働くという気持ちはないものの、何年、何十年と時が経過すれば正社員ではないものの何らかの形で働くことはやぶさかではない」と答えてくれました。後から考えると、再び働く意思があるのか性急に質問したのは、やや酷でした。なぜなら鈴木さんがうつ病になった原因の1つが、仕事上の人間関係(上司等)のトラブルだったからです。

 性急に社会復帰の質問をしたことを筆者は少し反省していますが、仕事を再開するかしないかでキャッシュフローが大幅に違ってくることは確かでした。仮に毎月12万円、年間144万円の支出が継続したとした場合、働かなければ65歳前、正確には62~63歳で貯蓄は底を突いてしまうからです。支出を毎月10万円、年間120万円にすれば66~67歳まで貯蓄が持つ試算になりますが、何十年もの間には想定外の支出が発生することもあるため、毎月12万円あるいは10万円以外の支出は一切発生しないというキャッシュフロー予測は非現実的といえるでしょう。

 一方、いずれかの時点で鈴木さんが仕事を再開すれば、キャッシュフローは全く違ったものになります。うつ病を患って仕事を辞めたいと相談されている鈴木さんには厳しいことを言ってしまったかもしれませんが、筆者は鈴木さんを助けたい一心で、仕事を再開するかしないかを鈴木さんに質問したのです。

大事なのは「将来のお金」より「いまの命」。今すぐ療養するようアドバイス

 筆者は「仮に10年後から毎月6万円、年間72万円のアルバイト的な収入を得るだけでも、60歳まで働けば792万~864万円が、65歳まで働けば1152万~1224万円が余裕部分となり、また貯蓄が底を尽く時期を70歳弱まで伸ばすことができますよ」と言って、試算を鈴木さんにお見せしました。

 鈴木さんは、全く働かない案のキャッシュフローをお見せしたときはがっかりされていましたが、代案(改善案)をお見せしたときには、安堵の表情をされたのが印象的でした。

 キャッシュフローの試算では、貯蓄は平均寿命まで持たないことがわかりました。また仕事は何歳から再開できるのかも、収入がどのくらい得られるのか(あるいは得ようとしているか)も、いずれもわからないという先行き不透明な状況にもかかわらず、筆者は鈴木さんの背中を押すように「体調を最優先に考えて今すぐ退職されて療養されてください」と決断してアドバイスを行いました。

 本来であれば、平均寿命を10歳前後上回れる年齢くらいまでキャッシュフローが見通せるような案(相談者が考えた案または筆者の改善案)がないと相談者にOKを出すことはほとんどありません。

 しかしながら鈴木さんに対しては、筆者としての基準を満たしていないにもかかわらず「1日でも早く勤務先を辞めてください」とアドバイスしたのは、1にも2にも、まず体調を現状より悪化させないことを優先したのです。

 時間をかけて体調を戻すことかできれば、たとえ罹患前に戻らなくても、鈴木さんは働くことができる(働く気になる)と判断したからです。大事なのは将来のお金より今の健康、いや、今の命ということになります。時期は決めませんでしたが、鈴木さんには「体調が戻り働く気になったら、また相談をしてください」と述べてお見送りしました。

 相談を受けてから既に6~7年が経過していますが、鈴木さんから連絡は来ていません。再相談はいつ来るのか、あるいは来ないのかもしれませんが、当時、筆者が鈴木さんに判断した回答の答え合わせをしてみたいものです。

この記事の著者
深野康彦

ファイナンシャルプランナー。ファイナンシャルリサーチ代表。1962年生まれ。クレジット会社を経て独立系FP会社に入社、96年に独立。30年以上の実績を持つ日本のFPの草分けの一人。さまざまなメディアやセミナーを通じて家計管理の重要性や投資のあり方を発信するとともに相談業務も行っている。

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