なぜFOMCが相場の命運を握っているのか…伝説の投資家テンプルトン「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育つ」

 「アメリカの政策金利が株価に大きく影響する」。この事実は当たり前のように知っていても、「ではなぜ、アメリカの政策金利が株価に影響をもたらすのか」を正しく答えられない人は、実は決して少なくない。米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定が市場に影響を及ぼす過程を、投資コンサルタントの望月純夫さんと知久信義さんがわかりやすく解説するーー。 

※本稿は望月純夫、知久信義著『10代で身につける株式投資の基礎知識 「株価のしくみ」から「実践」まで18のポイント』から抜粋・編集したものです。 

金利が上がると株価が下がる仕組み 

 株価を変動させる要因として、会社の業績や災害、国際情勢、感染症というものはわかりやすいものです。しかし、このほかにも株価に大きな影響を与えるのが、中央銀行が決定する政策金利です。中でも日本の市場は、日銀はもとよりアメリカの政策金利が、株価を変動させる大きな要因になります。 

 金利が株価に影響を与える原理は、政策金利が高くなれば、元本が保証される預貯金の金利も上がるため、安全なところに資金が流れリスクのある株式投資をしようとする人が少なくなるため、株の取引が減少するということ。その結果、株価は下落します。 

 一方、預金金利が下がると多少のリスクはあっても、株式投資で資産を増やそうという人が増え、株の取引が活発となって株価が上昇する。つまり、「金利上昇→株価下落」「金利低下→株価上昇」というのが基本パターンです。 

 実際にはこんな単純な理由ではありませんが、金利の上げ下げは大きな市場の転換点となります。

 アメリカでは2021年の年末から年明けにかけて、新型コロナが一段落し、景気回復基調に入りインフレになり始めました。これを抑えるために2022年3月に金利の引き上げを行い、1年間にわたって5回の金利の引き上げを行うという観測が流れました。

 すると22年1月5日にニューヨーク市場の株価が3万6952ドルから1月24日には3万3150ドルまで10.5%値が下がり、3月、金利の引き上げが行われました。 

 また、金利の変動で注意したいのは、その幅です。こうした金利の引き上げがどのように行われるか、その影響を考えるにあたっては、過去に行われたことが参考になります。 

 今回のアメリカの利上げでは、2007年のサブプライム・ローン問題に端を発したリーマン・ショックによる不況に対するゼロ金利からの引き上げが参考にされました。前回の金利引き上げは、2015年12月〜18年12月までの間に0.25%ずつ9回にわたって、合計2.5%まで利上げが行われました。コロナ後には複数回にわたって行われると予想されています。 

 景気動向に合わせて金利は変動し、株価も変化します。株式投資にあたっては、金利の動向にも注意を払うことが大切です。 

株価は6つの局面を繰り返す 

 株価は、下記の2つの要因で変化します。 

①会社の資産価値、商品・サービスがヒットして売り上げが増える事業収益や、輸出入の多い会社では為替レートの変動といった企業要因。

②海外の市場動向、国内はもとより、アメリカの政策金利、国内の政治情勢などの市場要因。そして、その会社の株に対する需要と供給。 

 こうした株価の動きは短期、長期で変化します。しかし、株式投資にあたっては長期的な視点で株価を見ることが大切です。基本的に株式相場は「金融相場→中間反落→業績相場→逆金融相場→中間反騰→逆業績相場」という流れを繰り返しながら動きます。それぞれを簡単に説明します。 

金融相場 
 景気が悪くなり、会社の業績も落ち込み、さらに資金需要が落ち込んだ際に、景気回復させるために金利を下げる局面。 

中間反落 
 金利を下げて、市中のお金を増やし、そろそろ金利の引き上げが起きそうだと市場が予想し、株価が下がる局面。 

業績相場 
 金利引き下げにより市中にお金が回り、会社の業績好転、その会社の評価もよくなり株価が上昇する局面。 

逆金融相場 
 景気がよくなり会社の業績も回復し株価が上がり、物価が上昇したことによって金利が引き上げられる局面。 

中間反騰 
 株価が下落する場面で、一時的に株価が反騰することがある局面。この局面が一時的なものかどうかは後になってみないとわかりません。 

逆業績相場 
 金利上昇に伴い市中のお金が少なくなり景気が悪化、会社の業績も悪化し、株価が下落する局面。 

 こうした動きを経て、次のサイクルへと変わります。 

政策金利から読み解くコロナ後の相場の変遷 

 株価変動のサイクルは、金利の低下により株価が上昇することから始まるので、直近では、2020年2月以降の新型コロナ感染の拡大によって、3月3日にFRB(アメリカ)が政策金利を0.5%に引き下げたことから新しいサイクルが始まったと見ることができます。 

 このタイミングで金も大幅上昇します。金は戦争など全世界を巻き込む出来事が起こると値段を上げるため「有事の金」といわれます。そのためこの年から新型コロナウイルスが世界中に広がったことから「金」が値上がりしたわけです。まさに「有事の金」の面目躍如といった強さを見せました。 

 さらに3月15日にもFRBは1.0%の金利引き下げを実施、2008年の金融危機以来のゼロ金利政策を取り、経済の混乱を防ぎました。この対応により株価は3月27日に最安値(大底)を付け回復に向かいました。 

 その後の2年間の相場の動きを見ていると、以下のように変化していきました。 

①市場が新型コロナによって総悲観となった局面が、強気相場の出発点になりやすい 
②しかし、新型コロナの影響が読み切れず、先行きに警戒感や疑い(懐疑)がありながらも徐々に上昇(回復)を続ける
③新型コロナに対する警戒感が薄れ楽観的になったころは、相場の最高値(天井)を迎える 
④新型コロナの収束が見え、市場が総強気になり景気回復して安心していると、金利が引き上げられ上昇相場が終わる 

 「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」。伝説の投資家であるジョン・テンプルトンの相場格言通りに相場が変化していきました。 

 新型コロナ流行から2年あまりの間で「金融相場→中間反落→業績相場→逆金融相場→中間反騰→逆業績相場」というサイクルが目の前で起こったということができるでしょう。 

望月純夫、知久信義著『10代で身につける株式投資の基礎知識 「株価のしくみ」から「実践」まで18のポイント』

▽プロフィール

望月純夫 

1949年生まれ、静岡県出身。1971年慶應大学法学部卒、同年山一證券入社。1985年新日本証券国際部入社、パリ駐在員事務所長を経て企業部にて新規公開企業の実務に携わる。1998年退職後、コンサルタントとして独立。著書に『株をやさしく教えてくれる本』(あさ出版)などがある。フジサンケイビジネスアイ株式初級講座、ラジオ日経の「株式宅配便」のパーソナリティを務める。 

知久信義 

1938年生まれ、千葉県出身。青山学院大学経済学部卒業。青山学院中等部勤務、特殊法人国立競技場司計課勤務を経て、73年新日本証券入社。82年企業部、IPOを手がける。89年新日本ファイナンスにて未上場企業のファイナンス業務102社、142社に投資、42社の株式公開に携わる。2002年スミセイキャピタル、日本未公開企業研究所、みずほ証券、日本経営コンサルタント総合支援機構顧問。20年NPO 法人イカス(ICAS)常任理事。

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