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弱すぎる日本…商社マンが告発する第二の敗戦。中国が世界の食品を買い漁る

ルポライター日野百草氏が送る、「”商社マンの激白”連載」。第2回は弱くなった日本の現状を貿易の現場からお伝えします――。

第1回は「牛肉が超高級食材に…商社マン告発! 中国に「買い負け」連発、鬼の円安で日本から食べ物が消える」

カネ不足で世界から見限られる日本

コロナ禍とロシアのウクライナ侵略が共に収束をみない中、それ以前から食料戦争に買い負けはじめていた日本。円安により弱体化した日本の国際的な購買力は大国、中国の経済的な覇権主義により追い詰められようとしている。それを肌身で感じてきたのが、その最前線を知る商社マンたちである。

「簡単な話です。相手より高いお金を出せばいい。それができない。それが買い負けです」

食品専門商社の商社マンは2021年末、悪化する日本の「買い負け」を筆者に訴えた。食肉、魚介類と値上げラッシュが続いたが、この段階ではまだロシアはウクライナを侵略していない。しかし日本はすでに危機的な状況にあった。現場はそれを知っていた。貿易もまた戦争であり、それは永遠に続く戦時下である。

「船もそうですね。取り負けです。日本に寄ってもらえない」

コンテナ船もコンテナそのものも不足している。当然、多くは運ばれて我々のもとに「以前より高い」ものの、届けられてはいる。しかしかつての貿易大国、日本の取り負けが状態化すると誰が予想しただろう。

「食肉も魚介も相場がいつ落ち着くかはわかりませんが穀物、とくに小麦が厳しくなっています」

魚介類では高騰し続けたウニが落ち着いたものの、タラバガニやズワイガニなどは最高値をつけた。この取材の時点ではロシアによるウクライナ侵略は起きていなかった。2022年6月7日、ロシア外務省は北方領土周辺海域で日露間の漁業協定を停止すると発表した。日露間の貿易は厳しい状況だ。

「それでも魚介は国内で高くてもいいならカバーできますが、小麦などはすぐには厳しいですね」

食料自給率(カロリーベース)はアメリカ132%、フランス125%、ドイツ86%に対して日本は37%(生産額ベースで67%)と食料を他国に依存し続けてきた。フランスが食料安全保障のために30年以上も自給率を上げてきたのとは対照的だ。

「食料を掴まれるのは命を握られるのと同じですから」

何も言わず金払いが良い中国 と、文句の多いドケチな日本

日本経済の凋落と円安、コロナ禍、そして戦争に追い打ちされる形で「食の安全保障」を蔑ろにしたツケを払わされている日本。レスター・R・ブラウンは25年以上も前に『Who will feed China?』(だれが中国を養うのか?)を発表したが、仮説としての中国が豊かになるという予想は現実となっても、3億トン足りなくなるとされた食糧危機による飢えはなかった。簡単な話で、誰より高く食料を世界中から買えばいいのだ。そのために中国は日米欧の下請けとなり、技術力と西側の経済を学び続けた。江沢民による「2010年に経済大国となる」とした1996年の第九次五カ年計画は目標を達成、その2010年に日本のGDPを抜いて世界2位の大国となった。いま現在、中国が日本に「買い勝ち」できるのは30年前には想像もつかなかった圧倒的な国力の差によるものである。

「彼らはシンプルですからね、必要なら必要なだけ金を払う。欲しいからうるさいことは言わない」

実に合理的で商売相手としてわかりやすい。日本も余計なことを言う前に相手より金を出せば済む話だが、残念ながら長く続いた「激安日本」とそれに慣らされた一般国民、そして円安では買い負けるしかないということか。

「日本人を相手にすると面倒と言われることがあります。それぞれの会社の方針もあるのでしょうが、値下げ要求が厳しいですからね。これは商社に限らず日本の商慣習にもよるのでしょうが、少しの瑕疵でも報告書だ、改善計画書だと言い出しますからね。もっともな話で、日本人同士でも嫌になります」

大事なことには違いがないが、取引先、とくに国外の企業に対して過度に要求すると忌避されかねない。

「品質はもちろん時間についても厳しいです。日本人は時間を守って当たり前ですが多くの国で絶対というわけではありません。船便も含め、仕方のない部分もあるのに厳しい」

その潔癖ぶりは日本の信用として武器にもなったが、いまや安く売ってもらう身、過剰品質は消費者の問題もあるかもしれない。食品でも「切り分けろ」「均等にしろ」「もっと良い色で」と食べるには問題のない部分まで過剰に求める。対して中国は「細かい事はいいから」で金は日本より出す。売り手がどちらを選ぶかは言うまでもない。物流も日本の金払いがいいから運んだわけで、それすら劣れば他国になびく。当然の成り行きである。

2021年12月には食肉加工大手幹部がはっきり「買い負け」という言葉を使い、食肉加工大手3社とも値上げに踏み切った。

「中国の強さは買いつけの現場にいればわかります。東南アジアだって上位国ならどうか。昔に比べれば、日本は本当に弱くなりました」

円安は日本の実力。日本は“第二の敗戦”に突き進んでいる

これは食料に限った話ではなく、建築資材や樹脂類、もちろん半導体もそうだろう。あらゆる買い負けは、相対的な日本の弱さに起因している。彼はその弱さの元凶こそ通貨だと語る。

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この記事の著者
日野百草

1972年、千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。国内外における社会問題、社会倫理のノンフィクションを中心に執筆。ロジスティクスや食料安全保障に関するルポルタージュ、コラムも手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。

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