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竹中平蔵「日経平均は秋以降、急落の可能性」

物価も上がれば、給料も上がるはずなのだが

物価上昇で家計の購買力や企業の収益が圧迫されています。物価上昇の主な原因は、エネルギーや食糧などの輸入品価格上昇ですが、日本銀行による緩和政策維持で米国との金利差が広がり、円安を通じて物価上昇が加速しているという面も大きいです。

通常、1ドル90~110円だと考えられている「名目為替相場」が1ドル130円になりました。大変円安に見えますが、もっと注目すべきなのは、名目為替相場を内外物価水準の比率でデフレートした「実質為替相場」で、日本はここ50年間で最安値を記録しています。

名目為替相場は「金利の格差」や「エネルギーの価格高騰」などの表面的な要因に左右されますが、実質為替相場の低下は日本のファンダメンタルズ(経済成長率、物価上昇率、財政収支など)が弱くなっていることを表しています。その結果、生産性が上がらず賃金も上がらないという問題につながってくるのです。一方でアメリカではインフレはもっと深刻ですが、給料もあがっています。基本的には物価が上がれば給料も上がるものです。

日本経済だけが世界から取り残されている

なぜ日本経済は世界から取り残されているのか。

私は5月下旬に、世界の政財界のリーダーらが集まり地球規模の課題について話し合う「ダボス会議」に参加してきましたが、そこで日本のコロナ政策の欠陥を肌で感じました。世界は完全に本当の意味でのウィズコロナへ移行しています。ダボスの人は飲食店の給仕係を除き原則としてマスクをしていませんし、開催国のスイスに入国するときもPCR検査を行わず、ワクチン接種証明書の提示も求められませんでした。

ところが、日本に帰国するときが大変でした。飛行機に搭乗する72時間以内にスイスでPCR検査を受け、その上でワクチン接種証明書も提出し、日本に到着してからも抗原検査を行います。成田空港はガラガラなのに、同調圧力でマスクを着用せざるを得ない。世界の経済が回り始めている中で、鎖国状態の日本の経済はかなり遅れをとっていると実感しました。残念なのは、世論調査で国民が「現状くらいの厳しさでいい」と思っていることです。本格的にウィズコロナ時代を受け入れ、その上で経済を再開することを、日本も真面目に取り組むべきだと思います。

そもそも、日本は欧米諸国に比べてコロナ禍でそれほど大きな打撃を被ったわけではありません。アメリカではコロナで100万人ほどの人がお亡くなりになったわけですけれども、日本では3万人です。人口に対するコロナの死亡率は、日本はアメリカの10分の1にすぎないのです。それなのに、まるで鎖国のような厳しい水際作戦を現在もとり続けている。これはダボス会議でも話題になりました。中国のゼロコロナ政策を非現実的だと指摘する向きがありますが、世界から見れば日本は中国と変わらないのです。

世界は「食糧危機」で頭がいっぱい

さて、今年のダボス会議で焦点が当たったのは、食糧危機です。ロシアによるウクライナ侵攻の影響で農業の種まきができず、秋以降に深刻な食糧危機がやってくると予測されています。加えて、食糧を運び出す黒海も、ロシアの軍艦が幅を利かせていて通ることができないという流通面での問題もあります。日本にいると肌感覚として感じづらいかもしれませんが、欧米諸国は食糧危機を非常に深刻に捉えているのです。

 また、ダボス会議では「ユニティ」(ヨーロッパ諸国の団結)も強調され、ロシアに対する敵対意識の強さも感じました。一方で、アジアの存在感はあまり感じられませんでした。G20の議長国であるインドネシアは、自らのパビリオンも出して存在感がありました。日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国からなる戦略会議「クアッド」が5月24日に東京で開催されたため、岸田首相やバイデン大統領が同時期に行われたダボス会議に参加できませんでした。それによってアジアの声が弱かったという反省点もあり、それを来年に向けてどう修正していくかも課題でしょう。

日本経済はかなり安定している

その一方で、日本経済は安定しているという見方もできます。失業率は2パーセント台半ばでほぼ完全雇用。そして、内閣支持率は60パーセントくらいに達していて、一見して非常に穏やかに見える。しかし、コロナに関しては閉鎖的な政策をとっているし、何より、新しい資本主義やデジタル田園都市などの構想の中身が固まっていません。7月の参議院議員選挙が終わった後の政策が非常に重要になってくるでしょう。

日経平均株価も低調で、投資家にとっては厳しい状況が続きそうです。これを打破するには、補正予算を組んで今年秋ごろまでに新しい政策を打ち出すことです。6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)は説得力のある内容だと思いますので、それを具現化する政策を今年の秋ごろに実施するべきです。そうしないと、日経平均は一気に落ちるでしょう。

日経平均急落危機!具体的に何をすればいいのか

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