爆安ニッポン、爆安“日本企業”という現実 世界のファンドが漁る「お買い得日本企業」リストとは

止まらない円安…そしてスタグフレーションへ

今の時期に日本株投資なんて…と扱下ろす方は多いのかもしれません。世界中を見回してもポジティブなニュースは見当たりません。米国経済もいつ、リセッション入りしても不思議ではないでしょう。客観的に見ても米国市場では今年のように、4月までにここまで株価を下げたことは過去80年間ありませんでした。まずは、そのようなイレギュラーな年に遭遇していることを理解し、目先で少々の波乱があったとしても焦ることなく冷静に戦略を立てるべきと考えております。

特に今年は米大統領2年目であり、もともと弱いうえに、待ったなしのインフレ対策で金融引き締めを進めるでしょうし、円安も進むと思われます。これまでのシーズナリティやアノマリーが一切通用しません。無用な固定観念は持たず、下げ相場への対処をしっかりと行うよう心がけることが肝要であると考えております。

そうなれば、日本市場が大いに煽りを受けるのは必至です。さらに世界の流れに逆行して日銀がこのままゼロ金利政策を維持し続ければ、円安はさらに進み、原材料高と円安のダブルパンチでインフレのダメージを受けることになるでしょう。

さらに巷では次々と変異し、出口の見えないコロナのパンデミック、ロシアとウクライナの戦争により慢性的な半導体不足と小麦や天然ガスの高騰、さらには2015年以来の円安水準と資源のない日本にとってはまさに悪循環に陥っているといえましょう。

こうして明らかに景気が後退していく中でのインフレをスタグフレーションと言いますが、今やその入り口に差し掛かったといえるのかもしれません。

ゲームチェンジのトリガーとなった東証改革

そんな中、4月4日からスタートしたプライム・スタンダード・グロースといった証券市場の区分変更ですが、これこそは昨年6月に施行されたコーポレートガバナンス・コードの改訂の一環であるといっても過言ではありません。特にプライム市場の企業というのは、投資家や株主に対して建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と企業価値の向上に責任を持って約束しなくてはならないという、これまで以上の責務を負うことになります。

プライム市場の企業は「より高いガバナンス水準」が期待されており、改訂コードではより厳しい内容にした原則が6つあります。(1)議決権電子行使(2)英文情報開示(3)気候変動に係る影響について気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組みなどによる「対話・開示」に関する項目(4)独立社外取締役の割合(5)支配株主を抱える上場会社の独立社外取締役の割合もしくは特別委員会の設置(6)指名委員会・報酬委員会の独立社外取締役の割合と役割や権限等の開示といった「取締役会や委員会の構成」に関する項目です。

この6つの原則はいずれも実施済か未実施かという対応水準がすぐに判別できるものなのです。プライム市場が多くの機関投資家の投資対象であり、投資家との建設的な対話を中心に据えるというコンセプトを踏まえると、対応したほうが望ましいということになります。

しかし、6つの原則すべてに準拠している場合であっても、資本効率が低く、業績や株が低迷しているような企業は投資魅力に欠け、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を公約するという市場コンセプトには応えられていないということになります。つまり今後、プライム市場の企業に投資するアクティビストがプライム上場会社にまず期待するのは、中長期な企業価値の向上を市場に委ねるために、その根拠となる環境変化を踏まえた事業ポートフォリオの見直しなどの経営戦略や、リスクテイクの裏付けとなるリスク管理体制の監督状況などの実態面を検討することなのだと思います。企業価値を創造するストーリーの中に今回の改訂で示された項目を織り込み、市場への公約に説得力を持たせることが、上場企業に求められています。

プライム市場のコンセプトは①多くの投資家の投資対象になる。②より高いガバナンス水準を維持する。③投資家との建設的な対話を中心に据える。以上の三つの要素で中長期的な企業価値の向上にコミットするというものです。コミットという言葉はわかりやすいようでわかりにくいのですが、いうなれば、企業自身が責任をもって約束するということにほかならないのです。

海外ファンドが日本株を買い漁る…餌食となる企業は?

この大胆なコーポレートガバナンスコード(以下CG )の改訂ということをきっかけに、近年ではシンガポール、香港、米国のアクティビスト達がアンダーバリューで超割安のまま放置されているお買い得な日本企業を買い漁らんと大挙して押し寄せてきていました。さらに、15年来の急激な円安進行により、アクティビストの買い漁りは明らかに活発化してきています。

こうした地殻変動のような変化にほとんどの一般投資家は気づいてはいませんが、新聞を隅々まで読むとアクティビストからの株主提案やそれに対する株主総会での議決の賛否率の肉薄ぶりはよくわかると思います。

いずれにしてもCG改訂のコンセプトから外れていたり、要件を満たさずにいるプライムやスタンダードの企業はアクティビストのエンゲージメント投資の格好の的になるでしょう。さらに今一つの彼らの狙いはずばり、親子上場解消銘柄でしょう。最近では親子上場で親会社と少数株主との間で利益相反を巡って指摘され、国内外の投資家からも批判されていますが、アクティビストが正当にエンゲージメント投資を進められ、最も短期間で効率よく大幅利益を上げられるターゲットであると考えております。実際に2019年から毎年30件を超える親子上場解消がなされています。

その多くは、親子上場の子会社側の流通比率35%(プライム市場)25%(スタンダード市場)や、独立社外取り締まり比率1/3以上を維持できていないことが要因です。

すでに多くの日本企業が狙われてきた

最近では、アルプス電気とアルパインの親子上場解消にともなう経営統合で、アルパインの大株主であるオアシス、エリオットが、その株式交換比率1:0.68について大幅に割安な水準で買収できるような企業価値評価が行われ、そのプロセスに問題があると主張し、企業側はその対応に追われました。

さらに、日本の代表的なアクティビストであるストラテジックキャピタルも蝶理株を50%以上保有する大株主の東レに対して、親子上場が持つ問題点の解消で株主提案をしています。

利益相反リスクを孕む親子上場問題に加えて、さらに親会社による上場子会社の非公開化時における構造的な利益相反の問題があります。非公開化手続きの公正性がより強く求められることは、例えばアルプス電気、アルパインともに十分認識していたので、第三者委員会の設置やフェアネスオピニオンの取得など、必要な利益相反回避措置は講じていたのですが、アクティビストに手続きの公正性を追求され、実際にその対応に苦戦しているというのが事実です。そして、今後、親子上場問題で最も注目度が高いのが親会社東洋水産(2875)と子会社ユタカフーズ(2806)だと思っております。

東芝に対する積極的な提案で有名になったkin Chan率いるバサンタマスターファンドは東洋水産に対して上場子会社(ユタカフーズ)の上場を維持する理由や、ガバナンス体制の実効性について、東洋水産の取締役会で検討、開示することを義務付ける定款の導入を提案し、親子間の利益相反リスクや、株価が実力よりも割り引かれるなど親子上場の弊害を指摘し、「(ユタカフーズの)上場を維持する十分な合理性がない」と指摘しています。

実際に彼らは愛知県知多市のユタカフーズ本社及び工場を視察してきており、現場で製造される膨大な量のマルちゃん商品を目の当たりにしています。その中には看板商品のチルド焼きそばやカップ麺も含まれており、日本全国のナンバーをつけた大型トラックに次々と積み込まれているそうでした。親会社である東洋水産から原材料を仕入れて東洋水産に売ることの合理的な説明をどうやってするのか、非常に難しいと思えます。このほか彼らは子会社ダイハツディーゼル(6023)=親会社ダイハツ工業(トヨタ)の親子上場などにも注目しているようです。

海外ファンドに飲み込まれないための方法

エンゲージメント投資というのはアクティビスト側の要求を株主提案として株主総会に提出するわけですが、その前段階の話し合いで企業側がアクティビスト側の要求をのんだり、要求以上の回答をだせば、提案そのものを取り下げるということもよくあります。

実際にワキタという会社にはバサンタマスターファンドとストラテジックキャピタルという二つのアクティビストが相乗りしてエンゲージメント投資を進めていました。

これまでは会社側の具体的な企業価値向上策、株主価値向上策が示されてされていなかったので、株価も1000円前後を行ったり来たりして低迷していました。ところが、今回はバサンタ側の株主提案が大幅に反映されて、発行株式総数の3.85%にも及ぶ自社株買いを発表したほか、3年間、株主還元を100%にするなど、企業側もプライム市場銘柄の要件を満たすための努力が目に見えてきてきたので、株価も一気に10%以上の値上がりをしています。この会社の当期利益は年間約40億円前後なのですが、仮に40億円と仮定して20億円は配当に、残りの20億円は自社株買いへということを三年間継続させるということです。時価総額500億円の会社で40億円×3のファイナンスがいかに大きいことかは容易に想像できると思います。

今年の株主総会ではプライム市場、スタンダード市場の要件を満たしていないような企業への株主提案がアクティビストから相次ぎ、これまでとは様相が一変すると考えております。大挙して押し寄せてきているアクティビストの動きを捉えることこそが、今後の株式投資の成功を握るカギだといっても過言ではないと思います。

このほかにも例を挙げておきます。

電気興業(6706)=オアシス・マネージメント(香港)

アイザワ証券グループ(8708)=ダルトン・インベストメンツ(米国)

日本ヒューム(5262)=アーガイル・ストリート・マネージメント(香港)

岩手銀行(8345)、滋賀銀行(8366)中国銀行(8382)=シルチェスター(英国)が増配提案

さくら総合リート(3468)スターアジア(米国・日本)が敵対的買収成功(2019年)

オリンパス(7733)バリューアクト(米国)が株主提案で役員送り込み成功

この記事の著者
木戸次郎

1965年生まれ。明治大学政治経済学部卒。 地場証券会社を経て投資顧問会社の代表取締役。その後、ベトナム国営バオベト証券バオベトジャパン理事、ベトナム国防省タイソングループ顧問、外資系ファンドの戦略アドバイザーを経て現在はTMI総合法律事務所のマーケティング担当。著書にベストセラーとなった『修羅場のマネー哲学』(幻冬舎)『修羅場の鉄則』(幻冬舎)、『木戸次郎の大化け株』(宝島社)、『株はあと2年でやめなさい』(第二海援隊)、『常勝の株』(講談社)ほか多数。

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