2023年3月31日「今日解散、総選挙へ」観測駆け巡る…小西議員のサル発言が猛烈な追い風に

日刊ゲンダイが3月31日付の1面で「3.31解散説」を報じた。たしかに今、永田町でもその噂が流れているようだが、真意はどうなのだろうか。そして、やるにしてもなぜ今なのか。作家・小倉健一氏が解説する――。
メディアの前で言質をとった公明党山口代表
岸田文雄首相は、回復しつつある内閣支持率を追い風に、衆議院を本日3月31日に解散し、総選挙へ出るのではないかという観測が永田町を駆け巡っている。今日解散すれば、山口2、4区、和歌山1区、千葉5区、参院大分で実施される衆参補欠選挙の投票日である4月23日と一緒に選挙が実施でき、国民の理解が得られやすい。3月30日には、菅義偉前首相(16時27分)、麻生太郎自民党副総裁(17時37分)、林芳正外相、自民党の関口昌一参院議員会長、世耕弘成参院幹事長(18時50分)と自民党のトップと立て続けに会談をしたことから、3月31日解散の噂が駆け巡ったのだ。
3月28日、新年度予算の成立後、岸田首相は国会内であいさつ回りをした際、衆院解散を警戒する公明党の山口那津男代表から「いよいよ統一地方選だ。解散じゃありませんね」と確認を受けた。その際「いやあ、統一地方選です」と首相は応じたものの、山口代表はわざわざメディアの前で言質をとり「首相は目前の重要な選挙に集中することを言動で明確にされた」と記者団に改めて首相とのやりとりを振り返った。「統一地方選と衆参補選と併せ、先送りできない課題に取り組む。今はそれしか考えていない」と記者団に強調している。公明党は、最大限に首相の解散を恐れていた証拠であろう。
山口代表が、解散を恐れるのも無理はない。自民党内では、6月までの通常国会中の早期解散論が噴出しているのだ。これまで、与党内では「衆院解散は今秋以降」との見方が大勢を占めていた。低支持率が続き、解散に打って出るにしても先延ばししたほうがいいという空気が醸成されていたのだ。
小西のサル発言、強烈追い風となり自民党歓喜
ここへきて支持率は回復傾向が出てきた。参院の予算審議では、立憲民主党の小西洋之議員が、総務省内の内部文書を公開し、高市早苗経済安全保障担当相に対して、辞職を迫ったが不発。3月29日には、週1回の開催が定着している衆院憲法審査会を念頭に「毎週開催は憲法のことなんか考えないサルがやることだ」「私は憲法学者だ。憲法学者でも毎週議論なんてできない。何にも考えてない人たち、蛮族の行為だ」などと述べたことが、立憲民主党内でも反発を買い、おわび撤回。報道内容に関しては「顧問弁護士と相談している」と述べ、法的措置を示唆している。
こうした敵失が追い風となり「政権に追い風が吹いているうちに解散を打つべき」として、6月までの解散を求める声が上がっている。
野党は、選挙協力も選挙準備も整っていない。一方、自民党公明党間の小選挙区候補者調整は火種を残しつつも、ほとんど終わりが見えている状況だ。
なぜ今なのか、岸田総理が焦る理由
しかし、サミットが終わり、支持率がさらに回復していたとしても、6月までに解散を決断できるかどうかはまだわからない。
一つは、自民党総裁の任期だ。岸田首相の自民党総裁としての任期は2024年秋までとなっていて、今、解散をして勝利を収めたところで、任期満了まで1年以上の期間がある。その1年以上の間に、首相の持論である「増税」「消費増税」の議論などが取り沙汰され、支持率が急落すれば総裁選で信任を得ることができるのかが不透明だ。
もう一つは、公明党の動向だ。公明党は統一地方選と近い時期の総選挙は認められないと念を押し続けているように、公明党は衆院選が他の選挙と重なることを非常に嫌がる傾向がある。なぜそんなに嫌がるのか、さまざまな憶測がある。公明党の支持母体である創価学会の会員が、投票すべき候補者名が多いと覚えるのが大変だから、とか……。
いずれにしろ、衆院解散の日程で、公明党の主張を岸田首相が受け入れるのであれば、統一地方選の3カ月後以降の、7月末以降ということになる。
ただし、公明党については、今すぐに衆院選を行なったほうがよいという意見もある。それは大阪市議会議員選挙の趨勢(すうせい)だ。4月9日に投開票が行われる大阪市議会議員選挙では「ムチャクチャだ!」と大阪維新内部でも声が上がるぐらいに、維新は多数の候補者を擁立して、市議会の過半数をとりにいっている。定数2の港区選挙区で2人の候補者を立てて独占を狙うほか、定数4の選挙区に3人、定数5の選挙区に3人と、複数の候補者を擁立している。
「首相はさすがに今日はやらない」(自民党中堅議員)
無党派層の支持者も多い維新が、どこまで当選に必要な得票を効率的に候補者に配分できるかが不透明だが、もし、維新が大阪市議会で過半数を獲得できたなら、次期衆院選で、公明党に遠慮して候補者を立ててこなかった小選挙区での維新候補擁立が現実のものとなりそうな気配だ。事実、2022年秋に、日本維新の会の馬場伸幸代表が「公明との協力は白紙」と表明している。過去の大阪都構想住民投票で積極的に賛意を示してこなかった「公明への配慮など不要」「国政では自民を応援している」という声が維新内で上がっているのだ。
増税議論を封印し、外交で得点を重ね、野党による敵失がある今、とりあえず選挙をやっておきたい政権の思惑が「今日、解散!」観測を駆け巡らせたようだ。しかし「首相はさすがに今日はやらない」(自民党中堅議員)との受け止めが大勢だ。
封印しただけの増税議論を統一地方選後にはじめるの間違いないのが不安材料だが、小西議員の記者会見での態度を見る限り、敵失は今後も続きそうな気配である。外交日程・公明の意向から考えても、解散総選挙は7月末以降という見立てが大勢だ。