竹中平蔵「日本は弱者の保護を簡単に認めてしまう。それが国全体を弱くしている」…「最低賃金を引き上げる」ことの矛盾を突く

1ドルが160円を再び突破し、実質賃金が26カ月連続でマイナスとなった日本。経済学者の竹中平蔵氏は「このままでは国民の生活は苦しくなる一方だ」と話す。そんな中で最低賃金の引き上げに注目が集まるが、「これに矛盾を感じる人もいるのではないでしょうか」と語る。一体なぜかーー。
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会社の生産性があげないと給料は上がらない
厚生労働省が発表した5月の毎月勤労統計調査によると、物価変動を考慮した一人当たりの実質賃金は26カ月連続でマイナスとなりました。これは過去最長になります。
一方で日本円が再び1ドル160円を突破するなど、円安が続いています。
為替は短期的にみれば金利差により動きます。今日米間で金利差があるからこそ、金利が高い方のドルが買われ、円が売られています。その一方で長期的にはファンダメンタル、つまり国や通貨に対する信頼感です。これに関して日本は、米国に対してファンダメンタルが弱い状況にあります。
日本は失われた30年の間、このファンダメンタルを強くするような政策を十分うってきませんでした。私も繰り返し問題点としてあげていますが、具体的には雇用の流動性が乏しく、企業の生産性があがっていません。企業の生産性があがっていないからこそ、社員の給料もあげることができないような状況です。よく経済学を理解せずに「社員の給料を先に上げれば、既存の社員もやる気を出し、いい人材も集まり、会社の業績もよくなる」と主張する人はいますが、それは違います。まずは企業の生産性を高めなくてはいけません。
円安で生活水準は必ず下がります
このままでは国民の生活は苦しくなる一方です。円安、円高、どちらがいいかという議論はありますけども、結論からいうと、円が安くなるといいうことはわれわれ日本人の労働価値が海外から見ると評価されることを意味します。つまり今まで100円で買っていたものに200円払わなくちゃいけなくなるわけですから、そういう意味で生活水準は必ず下がります。そして、生活水準が下がればますます国民に対する政治不満は強まるのだろうと予測されます。すでにこれまで買っていたものが高くなった、買えなくなった、そんな経験をしている国民は多いのではないでしょうか。
そんな中で最低賃金の目安を決める厚生労働省の審議会が始まり、2024年度の引き上げ額についての議論に入っています。過去最大となった2023年を超える引き上げ額となるかが焦点となっています。
なぜ最低賃金すら支払えない企業が倒産しないのか
さてこの最低賃金とは社会保障的観点から決められます。最低限の生活をするためには「このくらいの給料をもらわなくてはいけない」というラインを審議会が決めているのです。それができない企業は退場してもらうことになります。