竹中平蔵「人がハッピー暮らせる社会から年々遠のいている」追い出し部屋、退職勧奨…「なぜ金銭解雇が必要なのか」4つのメリット

自民党総裁選挙が幕をあげた。過去最多の9人が出馬した今回の総裁選では、40代の議員が2人も出馬した。そのうち今回最年少の小泉進次郎氏が当選すれば、憲政史上最も若い総理大臣が誕生することになる。その進次郎氏の父、純一郎氏が総理大臣だったときに経済財政政策担当大臣に就任し、日本経済の「聖域なき構造改革」を断行した、竹中平蔵氏は進次郎氏に何を思うのか。竹中氏は「総裁選候補者の中で国の形を語っているのは進次郎さんしかいない」と語る。
「竹中平蔵ロングインタビュー」後半は、進次郎氏が語る「解雇規制の緩和」について、竹中氏が解説する。この問題を巡っては竹中氏が長年訴えてきたことである。なぜこれが必要なのか。その条件とは。誰か解雇されることになるのかーー。
目次
なぜ、今の解雇規制は会社と従業員にとって不幸なのか
この度の総裁選における小泉進次郎さんのキャッチフレースは「決着」。進次郎さんが目指す「制度的差別のない自由な国」を実現するにあたって、これまで散々国民が議論してきたのに政治の怠慢でなぁなぁにしてきたこと全てに対して「決着」をつける、というものでした。「解雇規制緩和」「ライドシェア」「選択的夫婦別姓制度」「憲法改正」……。全面的にいろいろな改革を目指しているのを感じます。進次郎さんが明確に問題提起したことが中心の座標軸となり、各候補者はそれにどう反応するか、というのが選挙戦の争点になってきています。
その中でも「解雇規制緩和」については、報道によれば石破茂元幹事長は慎重な姿勢を示しています。同時期に行われている立憲民主党の代表選でも各候補が反対を表明しています。いずれにせよ解雇規制緩和について、こういう議論が出てきたことを私は歓迎します。
1979年の東京高裁の判例として制定された解雇の4要件は(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)解雇手続きの妥当性です。これを全て満たさないと解雇はできないのですが、4要件を満たす前に会社は潰れます。つまり会社は潰れるまで社員を雇わないといけないのです。これは会社にとっても従業員にとっても不幸です。
たしかに高度成長期はこの4要件があっても問題なかったのでしょう。なぜなら会社はとにかく人材を囲いこみ、その人材に投資をし続けることが、会社の成長、経済の成長に直結したからです。しかし、右肩上がりの成長が止まった日本において、そのような余裕が企業にはなくなりましたし、そもそも人工知能など最新技術を使いこなせる人材を自社で育てるのも困難になってきました。
解雇できないから生まれる「追い出し部屋」「一方的な退職勧奨」
そして企業・人材の生産性上昇率はどんどん低くなり、経済が成長しない「失われた30年」を日本は過ごしてきたのです。私は日本の経済を成長させる過程において、この規制緩和は必要不可欠だと思っています。本当に成長を伴う、成長戦略をつくるのであれば、成長できる産業を自由にさせないといけない。これはそういう作業なのです。
判例のおかげもあって、日本の失業率は諸外国に比べて低いです。しかしそれは、企業の新陳代謝とトレードオフした結果でしょう。日本の経済成長は鈍化し、所得も上がらず、人々がハッピーに暮らせる社会から、年々遠のいているのです。結局、自分の首を自分で締めていることに、気づくべきでしょう。
解雇できないからこそ、経営が苦しい企業は希望退職を募ります。希望退職は文字通り手を挙げた社員を対象とした人員整理です。しかし、会社側に強制力がないからこそ、日本では、希望者が集まらなかった場合は社員をいわゆる「追い出し部屋」に異動させるといった事態も起こっています。また中小企業の中には、一方的な解雇と同等の退職勧奨を実施する会社もあります。対象になった社員は泣き寝入りするしかないのです。そういった社員を守るためにも、解雇のルールの議論を深めるべきなのです。
金銭解雇のルール化で誰が解雇されることになるのか
だからこそ金銭解雇のルール化は必要なのです。金銭解雇とは企業が労働者を解雇するに当たっては、きちんとした金銭を支払うという制度です。十分な補償を与えた上で解雇することにより、労働者は生産性の低い組織から高い組織に移動することができ、そうなれば給料も上がります。金銭解雇のルールができれば、当然企業は生産性の低い人から解雇することになります。働かない社員が真っ先に解雇の対象になるかもしれません。したがって大企業の働かない社員からも、このルールは大きな反発を受けることになるでしょう。しかし、この制度は、そういった人たちに前を向いてもらうものにしなくてはなりません。しかるべき金額を使って、その間にリスキリング教育を自ら受け、次の職を探せばいいのです。