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防ぐ方法、一つだけあった!…セブン&アイvsカナダ企業「再びの買収提案」求められる株価を上げる経営者

 セブン&アイ・ホールディングスは10日、決算説明会でスーパーなど不採算事業を分離する意向を明らかにした。これはカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けたことによる事実上の買収防衛策だ。アリマンタシォン・クシュタールはサークルKなどのコンビニチェーンを次々と買収して拡大した企業で、時価総額は約8兆円超と企業価値ではセブン&アイを上回っている。日経新聞の編集委員である小平龍四郎氏がこの大企業による攻防戦を解説するーー。

目次

コンビニに集中する収益向上策を発表しても売りが止まらない

 カナダのコンビニエンスストア大手、カリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案が第2段階に入った。7月に提示した最初の買収価格は1株14.86ドル(1ドル=149円換算で2214円)、総額6兆円。10月初旬に提示された第2弾の価格18.19ドル(同2710円)、7兆円と、初回提案より20%余り上だ。一方のセブン&アイの株価は11日現在で2292円。ごく単純に考えると、今すぐクシュタールが敵対的株式公開買い付け(TOB)をかければ、株主は2割ほどのサヤを抜くことができる。世界の流通業界では買収巧者の評価が定着しているクシュタールの次の一手を、市場関係者と全国のセブン-イレブンのファンが見つめている。

 セブンが最初に買収を提案された当時の株価は1800円程度であり、提案額は23%程度のプレミアムが乗っていた。その後、買収提案が明らかになったことで株価は上昇に転じ、セブン取締役会が「著しく過少評価している」として、提案を押しもどした時には2100円を上回る水準だった。市場の株価が提案額にさや寄せして上昇した格好だ。そうならば、2回目の提案でもさらに株価が上がったかといえば、さにあらず。10月9日に年初来高値の2492円をつけた後に下落基調をたどり、セブンがスーパー事業を売却しコンビニに集中する収益向上策を発表してもなお、売りが止まらなかった。

ゴールドマン・サックスは敵対的な買収にはかかわらない

 この動きをどう解釈すればよいのだろうか。ひとつの読み筋は、投資家はこの買収が成就せず、1株2710円のTOBは近い将来、起きないと予想している。理由はいくつかある。クシュタール側についているとされる投資銀行のゴールドマン・サックスは、原則として敵対的な買収にはかかわらない。また、コンビニエンスストアは日本社会にとって一種のインフラなので、海外投資家から出資を受ける際に事前届け出が必要な外為法上の「コア業種」に分類されている。届け出後に審査を受ける必要があるので、いきなり敵対的なTOBに踏み切ることはできない。

 さらに、米国のコンビニ事業の店舗数シェアはセブンが8.5%で首位、クシュタールが3.8%で2位。クシュタールが本当に欲しがっているのはセブンの米国店舗だとされるが、1位と2位の統合が実現するには競争政策の面で高いハードルをクリアしなければならない。この点はセブン側が最初の提案に対して断りを入れた際の理由のひとつにも挙げられている。セブン関係者は「クシュタールは米国の規制をどう考えているかはっきり示していない」と語る。合併が認可される場合の条件として店舗の一部売却が必要になるかもしれない。売却候補が現在のセブンの店舗になるのか、それともクシュタール側なのか。それが提案を検討するにあたっての重要な要素になるという。

経営陣の刷新に踏み切れるか…コーポレートガバナンスが問われている

 実際に買収が実現しないとしても、一連のやり取りを通じてセブン取締役会は株式市場に大きなコミットをしたという事実は残る。14.96ドル(1ドル=149円換算で2229円)を「著しく過小評価」としたことだ。2度目の提案額である18.19ドル(同2710円)も押し戻すとすれば、ではセブンの取締役会は同社の潜在的な企業価値はどの程度で、それをいつまでに、どのように達成するのかについて、説明を求められるだろう。投機的な取引が起きないよう具体的な数字を挙げることは難しいだろうが、少なくとも近い将来株価が2710円を上回りそうだという強い期待を市場に醸成する必要がある。

 何をなすべきか。懸案だったスーパー売却に踏み切り中核のコンビニ事業に特化する方針を表明してもなお株価が弱含む現状を鑑みれば、市場が懸念しているのは「コングロマリット・ディスカウント」、すなわち事業の幅を広げすぎて企業価値が伸び悩む状態ではないかもしれない。むしろ、コンビニに特化してもなお企業価値を増やせないことへの不安こそが、株安の背景にある。とすれば、セブンがなすべきことはただひとつ。経営陣の刷新だ。そこまで取締役会が踏み切れるかどうか。問われているのは、セブンの企業統治(コーポレートガバナンス)の有効性にほかならない。

「株価を上げられる経営者」がいま求められている

 今、ささやかれているシナリオはこうだ。年内にセブンが2度目の買収提案について断りを入れる。さらに井阪隆一社長ほか数名の経営陣の交代を打ち出し、クシュタールの3度目の提案を封じる。もちろん、株式市場の信頼を取り戻せる人材、端的にいえば「株価を上げられる経営者」を見つけてくることが大前提だ。

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この記事の著者
小平龍四郎

1964年生まれ。静岡県出身。早稲田大学第一文学部卒業。日本経済新聞入社後は主に金融・証券畑を歩き、「山一証券破綻」「村上ファンド登場」などの特報にかかわる。欧州総局(ロンドン)やアジア総局(バンコク)を経験し、現在は日経新聞の編集委員。専門は証券市場、ESG/SDGs、企業統治。著書は「グローバルコーポレートガバナンス」「アジア資本主義」「ESGはやわかり」。 Twitter:@Kodaira_Nikkei

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