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あまりの惨敗で「逆に退陣できない」異常事態…死に体となった石破首相「ネクスト総理」が動きだすタイミング

 石破茂首相(自民党総裁)が11月11日召集された特別国会での決選投票の末、第103代内閣総理大臣に選出された。だが、先の衆院選で自らが勝敗ラインに掲げた「与党過半数」を下回り、大敗した責任を取らないまま続投することには与党内に不満が充満する。高市早苗前経済安全保障相ら「ポスト石破」候補たちは、なぜ動かないのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「もはや石破氏はレームダック(死に体)化している。ただ、辞めるに辞められない状況にある」と断言する。

目次

自民党内には執行部への怒りが充満している

「私に至らぬところが多々あった。本当に深く反省し、おわびをしなければならない。誠に申し訳ございません」。自民党が11月7日に開いた両院懇談会で、石破氏は衆院選大敗の結果に関し「多くの同志を失い、痛恨の極みだ」と陳謝した。ただ、自らの進退に触れることはなく、引責辞任した小泉進次郎前選対委員長と共に選挙を仕切った森山裕幹事長も「強い責任を感じている」と述べるにとどまった。

 約200人の所属国会議員らが3時間近くにわたって執行部の説明に耳を傾けたが、選挙直前に決定された裏金問題に関係する候補の「非公認・比例重複なし」という措置や、非公認候補が代表を務める党支部に2000万円が支給された問題に関する釈明に納得した議員はほぼ存在しない。参加議員からは敗因分析や検証を求める声が相次ぎ、一部からは「党の体制を刷新しないと来年夏の参院選は戦えない」などと辞任を求める意見があがった。

 ただ、自民党内には執行部への怒りが充満しているものの「石破おろし」まで発展するかと言えば、現時点では「NO」と言える。その理由は、ただちに石破氏を首相の座から引きずり下ろすことに成功しても、衆院において与党過半数割れという結果は変わらないからだ。ある閣僚経験者は「今の時点で『火中の栗』を拾う人はいないだろう」と漏らす。

 11月11日に召集された特別国会で石破氏は第103代内閣総理大臣に選出された。ただ、公明党と合わせた衆院の議席は過半数に届かず、今年度補正予算案や来年度予算案を可決するには、国民民主党など野党の協力を得なければならない綱渡りの状態が続く。この段階で「石破おろし」に向けて自民党内がゴタゴタすれば、与党との協議に前向きな勢力も距離を置き、衆院で多数を占める野党が内閣不信任決議案を提出する可能性がある。

石破首相を本気で引きずり下ろそうとする勢力は現時点で不在

 言うまでもなく、不信任案が可決された場合は10日以内に衆院が解散されない限り、内閣は総辞職しなければならない。党勢が弱体化する状況下に再び衆院選が実施されることになれば、今度は「政権交代」の4文字が現実味を帯びるだろう。仮に総辞職の道に進んだ場合は年末の予算編成や税制改正作業への影響が生じるのは必至だ。

 このため、自民党内には「ひとまず一致団結すべきだ」「党内抗争が激化すれば野党に転落する」との危機感が強い。両院議員懇談会に姿を見せなかった高市氏には、石破執行部に不満を募らせるメンバーや落選議員から「ポスト石破」への期待が集まる。ただ、その高市氏も11月9日の「X」(旧ツイッター)に「自民が分裂していたら立憲民主党を中心とする内閣ができるだけだ」と結束を呼びかけた。

 つまり、石破首相を本気で引きずり下ろそうとする勢力は現時点で不在なのだ。その意味では恨み節は多くとも、石破首相は「辞めるとしても辞められない」状況にあると言える。与野党にパイプを持つ森山幹事長は国民民主党に協力を呼びかけ、無所属議員にも秋波を送る。「今の自民党に幅広く協力を求められるのは森山氏しかいない」(自民党ベテラン)ことも執行部を代えられない背景にある。

 では、石破氏はこのまま政権を維持し続けることができるのか。自民党を担当する全国紙政治部記者は「第2次政権を発足しても、あくまでもワンポイントで終わるだろう」と見る。理由としてあげるのは、来年夏の参院選だ。

野党の協力なしに予算成立できない

 衆院とは異なり、参院は与党の議席数が過半数を上回っている。条約の承認や首班指名など憲法上の衆院の優越を除けば、参院で多数派を形成する与党は強い。

 だが、予算案の議決も憲法60条で衆院の優越が規定されている。要は、過半数の議席を確保できていない与党は国民民主党など野党の賛成がなければ予算を成立することができない状況が続くのだ。石破執行部は11月10日、日本維新の会の馬場伸幸代表らと会談して協力を呼びかけたが、維新側は予算案や法案の審議で協力しないと突き放した。

 仮に政府・与党が年末の予算編成や税制改正作業で国民民主の提案を盛り込んだとしても、実際の採決で賛成してくれる保証はない。

石破氏はいわば、「人身御供」状態

 国民民主党の玉木雄一郎代表は今年度補正予算案への対応に関し「やってほしいと言ったことがどれぐらい盛り込まれるのかも踏まえ、総合的に判断する」と語るにとどめている。

 通常ならば、国民民主は公約実現のために賛成する可能性は高いだろう。だが、来年夏の参院選や東京都議選をにらめば、与党に協力し続けていては対決姿勢がとりにくい。いずれのかの時点で立憲民主党など他の野党から「予算成立と引き換えに石破首相には退陣してもらいたい」との声が上がれば、内閣不信任決議案が提出される可能性がある。その時、国民民主党には政治判断が迫られるはずだ。

 先に触れた自民党議員の「ひとまず一致団結すべきだ」との言葉は、来年度予算の成立までは待つという意味に過ぎない。今の時点で誰かが「ポスト石破」に就いたとしても過半数割れという状況では思うような政権運営をできず、来年度予算の成立と引き換えに退陣を迫られる可能性があるのだ。八方塞がりにある石破氏はいわば、「人身御供」状態にあると言える。

本格化は予算成立した直後から

 逆に言えば、高市氏ら「ポスト石破」候補たちは来年度予算が成立した直後から来夏の参院選に向けて動きを本格化させることになる。自民党は、予算案など重要議題を扱う衆院予算委員長ポストを立憲民主党に譲り、衆院憲法審査会長には同党の枝野幸男元代表が就くことになった。審議・採決の日程や議事進行を差配する予算委において、野党側が委員長を務めるのは30年ぶりのことだ。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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