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花田紀凱が語る「ヘイト批判への反論」爆売れ保守系雑誌『WiLL』『Hanada』生みの親…WiLLとHanadaの違い

 “右翼雑誌”と呼ばれることも多い『WiLL』と『Hanada』。休刊が相次ぐ雑誌業界の中で、『WiLL』は一時13万6000部(公称)を達成。いかに『WiLL』『Hanada』が部数を伸ばしていったのか。しかし両誌の編集部員として辣腕を振るってきた梶原麻衣子氏によると、生みの親である花田紀凱氏は、「決して右翼ではない」という。そんな花田氏がどのような思いで『WiLL』と『Hanada』を生み出したのか、梶原氏だからこそできたインタビューをお届けする。

※本記事は梶原麻衣子著「“右翼”雑誌」の舞台裏」(星海社新書)から抜粋、再構成したものです。

第1回:元編集者が内幕を暴露…“右翼雑誌”『WiLL』『Hanada』の爆売れの理由は「朝日新聞叩き」だった!一時13万部の大人気

第2回:自分たちを社会は理解してくれない…“右翼雑誌”『Hanada』『WiLL』元編集者が語る「社会・国家間の溝が深まったワケ」傷ついた、だからやり返す

目次

「右翼が『WiLL』を作った」わけではない

――花田さんは、一部ではどうも「右翼の親玉」のように思われています。

花田 初めて会った人に「ものすごく怖い人だと思っていましたが、違うんですね。印象が変わりました」と言われることは確かに多い。ぼくがなんでそんな風に思われるのか分かんないんだけど。人当たりだってやわらかいだろ。

――タイトルが尖っているからじゃないですか。花田さんは『文藝春秋』を作るつもりでいたかもしれないけれど、やっぱりタイトルは週刊誌に寄っていると思います。〈ヤクザも呆れる中国の厚顔無恥〉(2005年7月号、渡部昇一)とか〈気色悪い温家宝の笑顔〉(2007年6月号、金美齢)、特集タイトルでも〈朝日を読むとバカになる〉(2014年9月号)、〈哀れな三等国、韓国〉(2012年12月号)といったタイトルは、やっぱり『文藝春秋』には載らないのでは?

花田 それはあるかもな。タイトルのことはよく言われるんだけれど、読んでもらうための工夫だから。タイトルが立たない、見出しのつかない企画はいい企画ではないわけで、これは編集の基本だと思っている。

――『諸君!』や『正論』でも朝日批判や中国批判、歴史認識問題は取り上げていましたが、それなのに後発の『WiLL』が部数を抜き去ったのは、何が理由だと思いますか。

花田 読ませる工夫でしょうね。『諸君!』は同じ文藝春秋だから、それなりにノウハウは近いと思うけれど、『正論』は真面目にやっているけど読ませる工夫、読んでもらうための工夫が足りないと思いますよ。

 雑誌って必ず読まなければならないものではないし、大メディアとも違う。しかも始めから終わりまでじっくり読むものではなくて、ぱらぱらめくって面白そうなところを読むでしょう。だから「面白そうだな」と思ってもらわなければ始まらない。

 そのためには、タイトルはもちろんだけど、中身についても工夫が必要です。何より、編集者が「これは面白い」とか、「これはちょっと違うんじゃないか」とか思うことをとっかかりにしなければ、面白い雑誌は作れませんよ。もちろん、売れなければいけないから利益も考えますが、基本的には自分が「面白い」と思うものを載せる。そうやって雑誌を作って、その雑誌が読まれたってことは、読者が共感してくれているということじゃない。

 読者が共感してくれるって、嬉しいことですよ。もし売れなければ「あれ、自分の考え方が間違っていたのかな」と思うしかないわけで。それだけですよ、基準は。

現代は周囲からの圧力が強まっている

――2014年頃は「ヘイト批判」もありましたが、これはどうですか。

花田 まあそういう人もいるだろう、というくらいかな。一方では「よくぞ載せてくれた」という声もあったし。

――「どうしてそういう記事が掲載され、読まれるのか」というのもありますよね。例えば3大テーマの一つの「中国」も、2000年代に入ってからの中国の経済や軍事力の伸び、国際宣伝戦や情報戦に対する警戒からくる面があるわけで、それを十把一絡げに「ヘイト」というのはどうなのかと。そのあたりは、批判する前に話を聞いてくれと思うんですが。

花田 右寄りだ、ヘイトだと言われたことで、面白いと思った書き手が雑誌に登場しなくなるのはツライよね。ぼくが編集する雑誌にその都度、連載してくれていたみうらじゅんさんの連載が終わったのも、「どうしてあんな右寄り雑誌に書くんだ」という周囲からの批判が強まったことが理由でした。ぼくは続けてほしかったんだけど、今はそういう圧力が強いのかな。

――2018年9月号の『Hanada』にオウム真理教の幹部が死刑執行された件について書いた江川紹子さんも、旧ツイッター(現X)上で「どうして安倍政権擁護の『Hanada』なんかに寄稿するんだ」などと批判されていました。

花田 江川さん自身は長年、オウム事件を追いかけてきたジャーナリストで、記事でも別に右寄りなことを書いているわけではない。『週刊文春』時代からの付き合いで原稿をお願いしただけだからね。そういう圧力が働いて、雑誌の幅や書き手の活躍の場が狭くなるのはもったいないし、つまらないし、残念だよね。

『正論』は論壇誌だが、『文藝春秋』も『WiLL』も論壇誌ではない

――2009年に『諸君!』が休刊になる一方、『WiLL』は部数が伸びました。社会に対する一定の影響力を持つことについてはどう思っていましたか。

花田 影響力なんてそんなにないんじゃない?

――保守系の雑誌の中で一番売れていたことで、私の中では「論壇で責任を果たせているのか」と、編集者である立場として結構大きな負荷がかかっていたんですよ。

花田 うーん……。だいたい、論壇誌って何なんだというのもあるよね。うちは論壇誌なの? 新聞各紙の論壇時評では『WiLL』や『Hanada』は取り上げられない一方、『文藝春秋』がよく取り上げられる。でも『文藝春秋』は本来、論壇誌ではないんじゃないかと思うんだけど。『世界』や『正論』が論壇誌だっていうのはわかる。『中央公論』もまあ論壇誌かな。

――『文藝春秋』は総合誌ですかね? 私は『WiLL』や『Hanada』も論壇誌だと思っていたんですよ。だから「論」を立てないといけない、「論」を世に問い、それを方々から検証してもらわなければならないと思ってました。

花田 「論」なんて、それはぼくが一番苦手なことじゃない、はっきり言って(笑)。

――言われてみれば……。

花田 ぼくは雑誌というものを、もっと幅広く考えているからね。要するに面白ければ何でもいいという話なんだけれど。面白くて、読者のためになる、載せる意味があればね。雑多なものが載っていての「雑誌」だし。だから自分の作る雑誌が論壇誌だと思ったことは一度もないし、ぼくには論壇誌は作れませんよ。

陰謀論は「勘」で避ける

――論壇誌じゃないにしても、存在感が出ることで増してくる「責任」みたいなものはありますよね。読んだ人がネットに書き込んで拡散したりだとか、不確かな情報でも「雑誌に載っているから」と信じてしまったりとか。陰謀論だとわかりやすいですが。

花田 ぼくは陰謀論には加担しない。それは「なんとなく、勘で」避けているんだけれど。自分の感覚的なところで言えば、ギリギリ避けている。今の(分裂後の)『WiLL』はもう陰謀論に行っちゃったでしょう。売れるのかもしれないけれど、あれじゃあねえ。自分がつくった雑誌があんなことになって、とても残念です。

――排外主義的なネトウヨとの相関性もよく指摘されるんですが、少なくとも「在特会」を肯定的に論じたことはほとんどないですよね。ワックが出していた『歴史通』には在特会の桜井誠氏(当時)が登場したことがありますが。

花田 分裂後の『WiLL』と『Hanada』は執筆者が重なっているところもあるけれど、違いは大きい。『Hanada』では絶対頼まない執筆者もいる。そこに何らかの基準はあるんだけれど、まあ経験によって培われた「勘」だな。

――花田さんは、「あれっ」と思ったことをよく編集部員や周囲の人に「これ、どう思う?」と聞きますが、ネットは見ないですね。

花田 そう。ほとんど見ない。動画番組に出てはいる(月刊Hanadaチャンネル、言論テレビ、週刊誌欠席裁判と週3回出演)し、「Hanadaプラス」というウェブメディアもやってるけれどね。

 まずネットで情報を得るにはすごく時間がかかるでしょう。何かをフォローしようと思っても、有象無象の情報やノイズが入ってくるから。編集部員がネットを見てあれが話題だ、これが騒ぎになってる、こういう記事が面白かった、というのは聞きますけどね。ネットでの発信も雑誌の宣伝になる部分もあるし、若い編集部員が一生懸命やっているから、それは認めますよ。自分では時間がもったいないからやらないだけで。

 ネットを見るくらいだったら、本を読んだ方がいいし。映画も見たいし、歌舞伎も見たい。連載原稿も書かなきゃいけないし、時間がないんだよ(笑)。

梶原麻衣子著「“右翼”雑誌」の舞台裏」(星海社新書)

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