「タワマン投資、あまり素敵な生き方と思えません。なんだかさもしい」不動産評論家・牧野知弘「暮らす楽しさを味わえる街」日本橋人形町の奥深さ

東大卒の不動産評論家・牧野知弘氏が自分の「住みたい街」について自由に語る大好評連載の最新回は、日本橋人形町が舞台だ。「一人暮らし、カップル暮らしなら最高の街です」と話すーー。
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資産価値ばかりで不動産の価値を考えるのはさもしい
最近の家選びは、資産価値ばかりが連呼され、あたかもタワマンこそが富の象徴などと喧伝されていますが、なんだかさもしい感じがしませんか。資産価値のためだけに、一生分のローンを背負って、タワマンというただの建物に投資することってあまり素敵な生き方とも思えません。どうせ住むなら、住んでいる街を楽しみたい。毎日の生活に豊かさ、余裕を感じてみたいですよね。
とはいっても価格の安さだけで選び始めると、郊外のはるかかなたに家を買うことになってしまう。都会の魅力も手放したくないですよね。
そこで今回は都心居住でありながら、街中で暮らす楽しさを味わえる街、東京中央区の日本橋人形町をご紹介しましょう。
日本橋人形町は昭和にタイムスリップしたような気分になれる街
人形町は1丁目から3丁目で構成され、3340世帯、5566人(2025年2月1日現在)が暮らす街です。江戸時代初期には幕府公認の遊郭である吉原があったところで、その名残で元吉原などといわれます。街の中心を貫く大門通りという名称にもそのころの名残があります。明暦の大火(1657年)以降、吉原が移転。その後この街には歌舞伎小屋や人形芝居などを行う「座」が軒を連ねました。薩摩浄瑠璃が行われた薩摩座などがあり西郷隆盛の江戸屋敷があったのだそうです。また明治生まれの文豪、谷崎潤一郎の生誕地でもあります。なんだか艶っぽい街ですよね。
昭和初期にはカフェなどの飲食店が集積するようになり、多くの飲食店が集積して現在に至っています。
さてこの街を歩くと、なんだか楽しい気持ちになってきます。まず、超高層ビルがほとんど見当たりません。小さな間口の飲食店がずらり。なんだか昭和時代にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。
人形焼きはこの街の発祥と言われますが、お店からはカステラを焼く甘い香りが漂います。
すき焼き「今半」や洋食など、個人経営の飲食店も魅力
文楽人形や七福神などを模ったカステラ焼きに中にはあんこやクリームが入っていて老若男女誰の口にも合うほんのりとした甘さについ手が出ます。最近では、ハローキティちゃんの人形焼きが大人気なのだとか。
街中にはやはりカフェが多いです。チェーン店もありますが、この街の楽しみは個人経営の小さな茶屋。日頃はあまり口にしないクリームあんみつなどを頼んでしまいます。また運んできてくれるおばちゃんと世間話をする。下町ならではの気さくな会話も楽しめちゃいます。
この街の楽しみは甘いものばかりではありません。すき焼き「今半」はあまりに有名ですが、人形町駅周辺、甘酒横丁界隈を歩くと手軽な値段で利用できる洋食、とんかつ、てんぷら、うなぎなどよりどりみどりです。しかもどの店もチェーンではない個人経営のお店が普通に軒を並べています。とにかく食べるところには一切困らないのがこの街の最大の魅力です。
呑べえにも素敵な街です。焼き鳥、やきとん、居酒屋はもちろん、寿司屋も高級なものから手軽なものまでフルラインナップです。フレンチやイタリアンももちろんありますが、人形町は和食、居酒屋イチオシですね。
人形町は庶民だけが遊ぶ街ではありません。高級な割烹料理屋なども点在します。玄治店濱田家(げんやだなはまだや)は老舗料亭で多くの有名人が訪れますが、ここの店主は隣町、浜町明治座オーナー三田家の方です。