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『笑っていいとも』終了が‟フジテレビ終わりの始まり”だった…樋口毅宏「タモリがテレビを延命させていた」そして貧乏臭い番組が続出

(c) AdobeStock

 かつて絶対的な影響力を誇ったテレビは、今やネット配信に押され、国民的番組と呼ばれるものもほとんどなくなった。しかし、そんなテレビの栄枯盛衰を語るとき、あの男の存在を無視することはできない。それがタモリだ。変幻自在なスタイルと、異端でありながら王道を歩んできたキャリアは、テレビという媒体そのものの変遷を象徴している。本稿では、「テレビの終焉」というテーマのもと、タモリがいかにして時代と共に生き、そして“終わらない”存在となったのかを、『タモリ論』の著者・樋口毅宏が独自の視点で綴るーー。みんかぶプレミアム特集「テレビ 終わりの始まり」第1回。

目次

1982年、衝撃的な番組がはじまった

 あらゆることは劇的に、一夜のうちに変わるのではなく、前もってフラグが立っているものだ。

 テレビが王様だった時代。良く言えば実験的、率直に言えば「予算がない」番組が始まった。

『タモリ倶楽部』である。1982年の10月だった(同じ週に『笑っていいとも!』が始まっている)。『タモリ倶楽部』は衝撃的な内容だった。低予算番組のためスタジオを借りる金がなかった。タレントを雇う金惜しさに放送作家がアシスタントを務めた(そのうちのひとりは後の直木賞作家、景山民夫)。

 MCのタモリはマイクを持ち、毎回定番の口上で番組を始めた。

「毎度おなじみ流浪の番組、『タモリ倶楽部』です」

 本来ならアングラ精神が鼻につき、華やかな80年代の真逆を突き進む質素な手作り感に失笑してもおかしくないが、タモリというワン&オンリーの存在と、『タモリ倶楽部』ならではの他の追随を許さない企画力から番組は成立した(お笑い研究家の中山涙に言わせると、『タモリ倶楽部』の起源は同じテレビ朝日のお色気番組『トゥナイト』のワンコーナー、山本晋也監督がストリップ小屋や覗き部屋や特殊浴場といった風俗現場潜入レポートにあるのではないかと言う)。

「発明」を次々と生み出していた『タモリ倶楽部』

 とにかく『タモリ倶楽部』という「発明」は、テレビ業界の人間を刮目させた。

 この番組の影響を明らかに受けていたのが関西毎日放送の『夜はクネクネ』で、あのねのねの原田伸郎がひたすら街中を歩き、市井の人々にマイクを向け、大阪のローカルパワーを十二分に発揮する番組だった。放送作家は倉本美津留。のちの「ダウンタウンを作った男」だ。

 いわゆる「街ブラ」はここから始まったとする定説をSNSで散見するが、やはり『タモリ倶楽部』が先駆けた回を幾つも敢行していたことは留意したい。

 『夜はクネクネ』は関西のみの放送とあってか、タモリがライバル視することはなく、テレフォンショッキングのゲストに原田が来たときも、タモリの方から「あの番組面白いね」と自分から笑顔で話を振っている。ちなみに『夜はクネクネ』は1983年に始まり、86年に終わった。

 時計の針を少し先に進める(アナログ的表現)。1991年、日本テレビが『DAISUKI!』を開始した。これもまた画期的なものだった。『タモリ倶楽部』は毎回テーマがしっかりしている。『夜はクネクネ』は関西人の喋りで笑わせる。『DAISUKI!』にはそれさえなかった。

 確かに飯島直子は魅力的だったし、この後缶コーヒー「ジョージア」のCMで「癒し系女優」として頂点に君臨した。松本明子も疑いようがないほど一流のタレントであり、中山秀征が加わることで進行は確固たるものになった。

 とはいえ中身はさしたる企画や演出も用意なく、タレントが商店街をぶらぶらしたり、動物園やパチンコや遊園地で遊ぶだけだった。

「こんなんでいいんだ? いや、これでいいかも!」

『DAISUKI!』は、芸能人がただ遊んでいる、楽しんでいる様子を流すだけでテレビ番組ができることを証明した。

21世紀に突入し「貧乏臭い番組」がテレビを占めた

 さて、上記の番組はすべて深夜に放送された。人々が寝る前に、肩が凝らない、ゆるくて、だらだらと酒でも飲みながら観られる気楽なものだった。『DAISUKI!』が始まる2ヶ月前にバブル経済は崩壊していたが、誰も彼もまだ狂躁的な華やかさの只中にいて、「泡、弾けたらしいよ」と言われても実感はなかった。

 21世紀に突入し、小泉純一郎が「痛みを伴う改革」を強調したが、後に残ったのは痛みどころではなかった。平均所得はじりじりと下がり、税金ばかり上がり、国民は相変わらず勤勉にもかかわらず、GNPはダダ下がり、日本人はゆっくりと貧しくなっていった。正確に言えば所得格差が明白になった。

 SNSへの出稿量がテレビを抜いて一位になる頃には、テレビは誰の目にもかつての力を失っていた。デパ地下だけで1時間放送するのは当たり前で、ゴールデンタイムに冷凍食品の紹介とか、YouTubeの衝撃映像をタレントがスタジオで見て楽しむとか、海外からの旅行者が大好きな観光地とか、視聴者に「金がないことを隠そうとしない」、貧乏臭い番組をひたらす垂れ流すようになった。

タモリの発明によってテレビは延命した

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この記事の著者
樋口毅宏

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ヶ谷』で小説家デビュー。その他『二十五の瞳』『ルック・バック・イン・アンガー』『太陽がいっばい』、新書『タモリ論』、コラム集『さよなら小沢健二』、『おっぽいがほしい! 男の子育て日記』などの著作がある。現在雑誌「LEON」で小説「クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-」が連載中。

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