日本GDP最大-3.6%押し下げ試算…恐怖のトランプ関税発動!日本企業1万2911社に影響「自動車産業を中心とした広範な企業への打撃」

トランプ政権が4月3日に発表した関税政策に世界が震えている。日経平均株価は4日は約8カ月ぶりに節目となる3万4000円を割った。一体この関税はこれは日本、そして世界にどんな影響を及ぼしていくのだろうか。われわれの生活はどうなるのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
目次
世界経済の先行きに対する懸念が高まっている状況
2025年4月3日、アメリカのトランプ大統領は新たな関税政策の発動を指示した。ホワイトハウスで行われた演説を通じ、大統領令への署名を発表した。第2次トランプ政権による保護主義的な通商政策は、世界経済に大きな不確実性をもたらす局面に突入した。
発表された関税措置は二段階の構成を取る。第一段階は、アメリカへの全ての輸出品に対し、一律10%の基本関税を課すものである。施行はアメリカ東部時間4月5日午前0時1分とされた。第二段階は、対米貿易黒字が大きい国や、アメリカ政府が貿易障壁が高いと見なす約60の国・地域に追加関税を課すものである。特定の国々への追加関税はアメリカ東部時間4月9日午前0時1分から適用される。ホワイトハウスが公表したリストに基づけば、日本には合計24%の関税率が適用される。他の国では、中国に34%、ヨーロッパ連合(EU)に20%、ベトナムに46%、韓国に25%、インドに26%といった異なる税率が設定された。関税の詳細が明らかになるにつれ、国際社会や金融市場には動揺が広がっている。世界経済の先行きに対する懸念が高まっている状況である。
トランプ大統領は2025年4月2日の演説で、今回の関税措置の正当性を強調した。アメリカの経済的独立を取り戻す歴史的な日であると位置づけた。長年にわたり他国が利益を得る一方で米国民が傍観してきた状況を終わらせると述べた。トランプ政権は、関税発動の法的根拠として国際緊急経済権限法(IEEPA)を適用した。アメリカの巨額の貿易赤字や国内産業の衰退が国家安全保障上の緊急事態に該当すると判断したためである。政権の説明によると、日本は為替政策や非関税障壁により、実質的に46%相当の障壁を米国製品に課していると主張する。今回日本に課す24%の税率は、その主張に基づく計算の「半分」程度に相当する「寛大な相互」関税であると2025年4月2日の演説でトランプ大統領は述べた。
アメリカの自動車会社は日本ではほとんど売れていない!
具体的な算出根拠の提示はなかった。特に日本の自動車分野に対する不満が表明された。「日本では走っている車の94%が日本製だ」「トヨタはアメリカで100万台の外国製の車を売っているのに、アメリカの自動車会社は日本ではほとんど売れていない」と具体的な数字を挙げて批判した。別途、輸入自動車全体に対する25%の追加関税も4月3日から発動されることが2025年4月2日に正式に表明された。ただし、今回の相互関税の対象からは、自動車・同部品、鉄鋼、アルミニウムなど、既に他の関税措置が適用されている品目は除外されることも明らかにされた。
日本政府はアメリカの関税措置に対し強い懸念を表明した。石破茂首相は2025年4月1日の記者会見で、関税対象からの日本の除外を求めて米国と交渉を続ける意向を示し、必要であればトランプ大統領と直接交渉する可能性にも言及したが、もはや生きる屍と化した石破首相に何かできることはない。
加藤勝信財務相は2025年4月2日の国会答弁において、米国の措置が世界貿易機関(WTO)協定との整合性に疑問があるとの認識を示した。第1次トランプ政権時の鉄鋼・アルミ関税への対抗措置として、日本が報復関税の権利をWTOに留保した経緯に触れた。今回もWTOルールに基づく対抗措置の発動を検討する可能性を示唆した。関税発表を受けて金融市場は大きく変動した。日米の主要株価指数は下落し、投資家のリスク回避姿勢が強まった。安全資産とされる円や米国債が買われ、米長期金利は低下した。経済界からは、特に自動車産業を中心に、サプライチェーン全体への深刻な影響を懸念する声が上がっている。国民生活への影響として、輸入品価格の上昇を通じた物価上昇や家計負担増も予想される。
「日本の実質GDPは最大で1.8%程度下押しされる」
トランプ政権による関税措置は、日本経済にどの程度の影響を与えるだろうか。
複数の調査機関が試算を発表している。
大和総研は2025年3月12日付のレポートで、独自の前提に基づく試算結果を示した。トランプ政権が他国の付加価値税(VAT)をも関税の一部とみなす「相互+VAT」関税を導入し、かつ相手国が報復関税を発動するシナリオを想定している。レポートは「「相互+VAT」関税と報復関税(図表中の「相互関税の影響」)により、日本の実質GDPは最大で1.8%程度下押しされるとみられる」と分析した。
「『トランプ2.0』全体で見た実質GDPの下押し圧力は最大3.6%程度に拡大」
影響は関税だけにとどまらない。大和総研は、移民政策など他の政策も含めた「トランプ2.0」全体の影響も試算した。レポートは「他の政策も含めた「トランプ2.0」全体で見た実質GDPの下押し圧力は最大3.6%程度に拡大する」と指摘する。物価への影響については、需要の落ち込みがデフレ圧力を生む可能性を示唆した。「「トランプ2.0」によって2029年末までに1.7%程度低下すると試算される」という結果である。一方で、異なる見方もある。第一生命経済研究所は2025年1月30日付のレポートで、米国の財務長官(当時)の発言を分析した。関税による米国内のインフレ圧力をドル高(円安)で相殺しようとする動きは、結果的に「日本のインフレ圧力がしわ寄せされる」リスクがあると指摘した。物価への影響経路は複雑である。
関税の影響はマクロ経済全体だけでなく、特定の産業や企業群にも及ぶ。第一生命経済研究所の2025年1月30日付レポートは、メキシコ・カナダへの関税が発動された場合の影響に着目した。経済産業省の統計を用い、両国に進出する日系企業の売上高を分析した。その結果「メキシコ・カナダの現地工場の売上 11.8兆円のうち、輸送機械の売上は6.6兆円と 56%を占めている」ことが判明した。
影響を受ける企業数は…
自動車関連産業への影響が突出して大きいことを示唆する。影響は大手企業に限られない。帝国データバンクは2025年2月7日付の調査レポートで、企業データベースを用いて影響を受ける可能性のある企業の数を推計した。「日本から北米・中国に製品・サービスを輸出する日本企業は 2025 年1月時点で1万 2911 社に上った」という。業種別では「『卸売業』が最多の 6348 社、『製造業』が5211 社と続く」状況である。企業規模別では売上100億円未満の中小・中堅企業が全体の7割以上を占め、影響の裾野の広さを示している。さらに、関税率そのものだけでなく、目に見えない障壁も焦点となる。
野村證券は2025年4月1日付のレポートで、トランプ政権が日本の「非関税障壁」を問題視している点に注目した。自動車の安全基準や規格、EV充電器、各種規制などが交渉材料となる可能性を指摘した。非関税障壁の緩和は、短期的には調整圧力を生むが、長期的には競争促進につながる側面もある。
リスク回避のため米国での現地生産を進める動き
トランプ政権の関税政策は、経済合理性だけでなく、政治的・外交的な意図も含まれる複合的なものである。JETROは2025年1月15日付のレポートで、関税が「経済以外の分野でも非常に強力な手段となる」というトランプ大統領の発言に触れ、外交手段としての側面を指摘した。対象国の選定においても、貿易赤字額に加え、防衛費負担、為替政策、米国債保有額などが考慮される可能性を示唆している。日本もこれらの点で無関係ではいられない。企業はリスク回避のため米国での現地生産を進める動きもある。関税の影響を受けにくい側面も存在する。
一方で、厳しい関税政策の影には、FTA(自由貿易協定)交渉再開といったビジネス機会の可能性も潜在しているとJETROは分析する。総合的に見れば、トランプ関税は日本経済に対し、GDP押し下げ、物価への不透明な影響、自動車産業を中心とした広範な企業への打撃という形で、深刻な影響をもたらす可能性が高い。非関税障壁の扱いも今後の重要な交渉点となる。日本は国際ルールに基づいた冷静な対応を維持しつつ、国内経済への影響緩和策を進める必要がある。同時に、サプライチェーンの多様化や多国間連携の強化など、中長期的な構造変化への備えも求められる。関税政策の最終的な着地点は依然不透明であり、今後の動向を注視し、柔軟な対応を続けることが不可欠である。
<参考資料>
久後 翔太郎・大和総研 経済調査部『「相互関税」が導入されたら日本経済にはどのような影響があるのか?』(2025年03月12日)
岡崎 康平・野村證券 チーフ・マーケット・エコノミスト『米トランプ政権による相互関税発動迫る 日本への影響が大きい非関税障壁とは』(2025年04月01日)
赤平 大寿・ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査担当ディレクター『外交手段としての関税政策、トランプ関税の日本への影響』(2025年1月15日)
熊野 英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト『トランプ関税の発動、日本企業への影響』(2025年1月30日)
帝国データバンク『「トランプ関税」 日本企業 1.3 万社に影響の可能性あり (米国の対中・対北米追加関税に対する日本企業の影響調査)』(2025年2月7日)