「頭じゃなくて米価を下げろ」農水相謝罪に猛ツッコミ!1年で2倍近い異常状況に国民はいつまで耐えられるか

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 コメ価格高騰で国民生活の限界が近づきつつある中、ついに石破茂政権が「責任を重く感じている」と謝罪した。あれほど政府は備蓄米を放出さえすれば、停滞する流通が円滑化し、価格が落ち着いていくと豪語していたにもかかわらず、値上がりは4カ月近くも続いている。1年前と比べて、実に2倍超という水準だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「石破政権はガソリン補助金を縮小してマイカー利用者を苦しめ、電気代・ガス代の支援策もストップして値上げを事実上容認した。商品券10万円をポンと新人議員らに配布するような感覚の持ち主には、国民の痛みが到底わからないのだろう」と指弾する。

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1年で2倍近い異常な状況

「国民の期待に応えられない、備蓄米を出しても店頭価格が下がらないということについては、責任を重く感じておりますし、申し訳ないと思っております」。江藤拓農林水産相は4月22日の記者会見で、このように謝罪した。実は、江藤農水相の“謝罪”は今回が初めてではない。2月にも国会でコメ価格高騰に対する対応遅れを指摘され、「大いに反省はある」と述べていた。

 記者会見で江藤氏は「ようやくテレビ等でも3000円前半とか報道されるようになってきました。予想よりは正直少し遅かったという気持ちが消費者の方々には多いかもしれません。高い値段で仕入れたコメを安く売るということは、なかなか卸の方々も小売の方々も難しいのだろうと思います」と説明。その上で「備蓄米に関しては、去年に比べれば高いという批判は甘んじて受け止めますが、今の店頭価格に比べれば1000円近く安いものが出ていますので、これがもっと行き渡るように努力をしたいと思っています」と強調してみせた。

 たしかに備蓄米の放出後、一部の店には「ブレンド米」として3000円台の備蓄米がみられる。ただ流通は限定され、多くの人々は見たこともないのが実情だ。農水省が4月21日に発表したコメの平均店頭価格(5キロ)は4217円で前週に比べ3円高かった。値上がりは15週連続というのだから、4カ月近くも品薄感が解消せず価格が上昇していることになる。前年同期は2078円であり、国民は1年で2倍近い異常な状況に耐え続けているのだ。

頭を下げる前に価格を下げてくれ

 筆者が購入していたスーパーに赴くと、1カ月ほど前は10キロで1万円(税込み)近くだったが、今や10キロ袋は見当たらない。代わりに5キロで5000円近いコシヒカリが並んでいる。価格が低い「ブレンド米」や輸入米もみられるが、多くの客は手に取ることがなかった。感覚としては「農水大臣は『頭』を下げるよりも、『価格』を早く下げてくれ」というものなのだろう。SNS上にも石破政権や農水省の“失政”に対する辛辣なコメントが相次いでいる。

 農水省が公表した備蓄米放出後の流通先に関する調査によれば、3月10〜12日の落札分(約14万トン)のうち、3月末時点で小売業者まで流通したのは0.3%にとどまる。備蓄米放出分の9割超を落札した全国農業協同組合連合会(JA全農)によると、落札した約20万トンのうち卸業者への出荷量は24%(4月24日時点)で、全量が渡るようになるのは夏頃になるという。政府は備蓄米を放出すれば、4月から価格が落ち着くと豪語していたものの、出庫や配送などを考えれば多くの店舗に行き渡るまで時間を要するのは当然であり、政府の“誤算”が続いていると言える。

 消費される量が多ければコメ不足は続く

 備蓄米は3回目の入札が4月23日から始まり、3回目からは卸業者間の取引もできるようルールを見直した。各地の小規模店などにも行き渡るようにした。落札した業者と取引がない小規模事業者も備蓄米を調達できるようにするための変更で、より広範囲に備蓄米が販売されるよう手を打った形と言える。市場のコメ不足感が解消されれば、全体として価格が落ち着いていくとの考えもあるのだろう。

 ただ、市場価格は需給バランスで決まる。供給量が増加していけば価格は落ち着くはずであり、それでも上昇が長く続くのはバランスそのものが崩れている証左と言える。農水省によれば、2021年から3年間はコメの需要が生産量を上回って合計60万トンが不足。販売価格の推移を見ると、昨年3~6月は5キロが2000円超だったが、台風や地震などによる買い込む需要が発生し、同8月は2600円、同9月は3000円と上昇してきたことがわかる。2024年産の需要は約673万トンと見込むが、消費される量が多ければコメ不足は続くことになる。

コメ騒動は今年も続くのか

 農業専門日刊紙である日本農業新聞は2月14日、衝撃的な試算を公表した。今年6月末時点のコメの民間在庫量は農水省が示す158万トンを大幅に下回る可能性があるというのだ。それによれば、民間在庫量は110万~130万トンと低水準となり、国内需要量の約2カ月分にとどまるという。つまり、今年も「コメ騒動」は続くことになる。

 需給バランスが崩れた状態で政府備蓄米を放出し、「先食い」を繰り返すだけでは根本的な問題は何も解決しない。江藤農水相は「今年は29道府県で主食用米の生産を増やすことを計画している。去年は前年より18万トン増えたが、さらに上乗せして生産することになる」と語っているが、今年も需給が逼迫するのは想像に難くない。

「先食い」は、すなわち自転車操業状態を意味する。当たり前のことだが、よほどのことがない限り今年夏以降のコメ不足も懸念されるところだ。需要と供給のバランスが崩れたままであれば、価格上昇は容易に止まらないだろう。政府は7月まで備蓄米を毎月放出する方針で、5月からは2022年産の備蓄米が放出されるという。2023年産、2024年産だけで対応できず、ついには3年前のコメに頼るという状況だ。

コメ価格高騰の政府対応「不十分だ」82.7%

 江藤農水相は4月24日に報道機関向けの備蓄米試食会を開催している。記者たちに備蓄米でつくられたオニギリを振る舞いながら「安かろう、まずかろうではないことを分かって頂きたい」などと力説したという。もちろん、汗水たらしながら一生懸命につくったコメ生産者に何ら責任はなく、美味しいに違いない。2年前、3年前のコメだからと言って嫌悪されるのはたまらない気持ちになるだろう。ただ、“失政”を繰り返してきた農水相が「差が無いことを知ってもらいたい」と味をアピールするのは驚くしかない。流通停滞が価格上昇につながっていると訴えたいのだろうが、数々の失策があることは国民の目に明らかだ。

 共同通信が4月12、13日に実施した世論調査によると、コメ価格高騰への政府の対応が「十分だ」とする回答は14.7%にとどまり、「不十分だ」が82.7%に上っている。さらに深刻なのは価格上昇時にも食べるコメの量は「変わらない」と答えた人が82.8%に達していることだ。「食べるコメの量が減った」とする回答も16.3%あるものの、多くの人々は価格上昇に耐えながら「国民食」を求めている。

農政官僚のトップに立った人物が「失敗」と断じた

 そもそも、先に触れたように昨年夏の時点でコメ不足が明らかになり、記録的な価格上昇が続いてきた。共同通信が3月18日に配信した元農水事務次官・奥原正明氏のインタビュー記事によれば、奥原元次官は「本来ならスーパーの店頭でコメの品薄が顕著になった昨年夏の時点で放出しなければいけなかった。そうしておけば、ここまで異常な価格高騰を招くことはなかった。農政の失敗だ」と指摘。石破政権の対応が遅れた理由に関しては「放出するとコメ価格が下がると、農水省は農協や政治家から批判されることを意識したのではないか」とした上で、「農政の最大の目的は食料の安定供給であり、消費者のために備蓄米制度がある。供給に支障があるときに使わなければ意味がない」と厳しい見方を示している。農政官僚のトップに立った人物が「失敗」と断じた点は極めて重い。

 石破首相は4月22日、高止まりするガソリン価格を1リットルあたり10円値下げする方針を表明した。5月22日から6週間かけて段階的に引き下げるという。だが、石破政権は昨年12月以降、ガソリン補助金を段階的縮小してきた。つまり、年末年始の補助金縮小がなければ今のような価格水準ではそもそもなかったのである。電気・ガス代への補助金も政府は今年3月で終了し、電力大手10社と都市ガス大手4社が4月使用分(5月請求分)から全社値上げの料金変更を発表した。5月使用分(6月請求分)は液化天然ガスや石炭の足元の輸入価格を反映して値下がりとなるものの、政府がコメ価格の上昇以外にも人々の生活に打撃を与えてきた事実は変わらない。

 言うまでもなく、国家は国民から徴収した血税の上に成り立っている。首相は自民党の新人議員らに商品券10万円分をポンと配るのは容易いようだが、困窮する国民には現金給付も消費税減税も「財源」を理由に首を縦に振る気はないようだ。過去最高の税収がありながら還付をしようとしない、国民生活の痛みが分からない政権には「NO!」が突きつけられる日がドンドン近づいているように見える。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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