日本人が知らない中国“移民”の急増、ほぼ2倍!審査は書類のみ「中国経済失速で日本へ逃亡」大量移住が始まるのか

4月28日、ニューズウィーク日本語版から「日本史上初めての中国人の大量移住が始まる」という記事が配信され、話題を呼んだ。トランプ関税の最大ターゲットとされる中国からだが、中国人はこれから日本にむかうのだろうか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「日本人が知らない間に人口動態の変化が起きている」と指摘している。一体どういうことなのか。小倉氏が解説するーー。
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水面下で大きな人口動態の変化が
日本社会の構造を静かに、確実に変えつつある大きな変化が進行中である。中国からの移住者、あるいは実質的な移住者の急増が該当する。法務省の在留外国人統計によれば、2003年時点で約46万2千人だった在留中国人の数は、20年後の2023年末には約82万2千人へと増加した。わずか20年間で約1.8倍、人数にして約36万人も増えた計算になる。社会全体としての関心も低いまま、水面下で大きな人口動態の変化が進んでいるのが現状だ。
特に顕著なのは労働現場だ。厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況まとめ(令和5年(2023年)10月末現在)」によると、日本国内で働く外国人労働者数は過去最高の約204万8千人に達した。国籍別で見ると、ベトナムが最多である。中国は約39万8千人で全体の19.4%を占め、依然として大きな割合を占める。中国出身者は製造業、介護、飲食業、小売業といった、日常生活に欠かせない多くの産業分野で、今や不可欠な労働力となっている。人手不足が深刻化する日本において、中国出身者なしには社会や経済が成り立たない現場も少なくない。言葉の壁や文化の違いを乗り越え、地域社会の一員として生活する中国出身者も増えている。
制度的な側面を見ると、課題も浮かび上がってくる。出入国在留管理庁によると、2023年における在留資格の取消件数は1,240件だった。国籍別ではベトナムが812件(65.5%)と突出している。中国も220件(17.7%)と一定数を占めた。全ての中国人が正規のルートや目的通りに滞在しているわけではない状況を示唆する。技能実習制度や留学ビザを利用して来日しながら、実際には人手不足の分野で単純労働に従事しているケースは後を絶たない。建前としては「国際貢献」や「学術交流」を目的とした制度が、実態としては安価な労働力を確保する手段として機能してしまっている側面がある。
日本政府は公式には「移民政策はとっていない」という立場を堅持
<審査を行う出入国在留管理局の体制は十分とは言えない。審査は原則申請書類に基づき、現地調査まで行われるのはまれだ。/元入管職員の行政書士・木下洋一さん(60)は「通常、書類の体裁が整っていれば審査は通る。経営・管理以外の資格で移住する外国人も急増しており、人員が限られる中、厳格に審査する余裕はないだろう」と話す>(読売新聞オンライン、4月21日)という報道もあり、心もとない状態。
実際、日本政府は公式には「移民政策はとっていない」という立場を堅持しているが、これは国民への説明責任を放棄し、実態を覆い隠すものに他ならない。明確な政策方針や国民的議論なきまま、なし崩し的に外国人材の受け入れを拡大し、結果として定住者を増やしている現状は、アナウンスなき移民政策推進であり、極めて不誠実だ。現実には、在留資格を持ちながら実質的に日本に生活基盤を移し、長期的に定住、あるいは定住に近い形で暮らす中国人が確実に増えている。
23年には、16歳から24歳の失業率が一時20%を超えた中国
現象を理解するためには、日本側の「受け入れ」要因だけでなく、中国側の「送り出し」要因にも目を向ける必要がある。かつて「世界の工場」として驚異的な経済成長を遂げた中国は、近年、勢いに陰りが見え、構造的な課題に直面している。それは、経済の失速と将来不安だ。巨大な不動産市場は、恒大集団をはじめとする大手デベロッパーの経営危機に象徴されるように、深刻な不況に見舞われている。不動産価格の下落は多くの人々の資産価値を毀損し、地方政府の財政をも圧迫している。加えて、個人消費の伸び悩み、企業の過剰債務問題、特に深刻な若年層の高い失業率が存在する。
2023年には、16歳から24歳の失業率が一時20%を超えるなど、大学を卒業しても安定した職に就けない若者が急増し、社会不安の一因となっている。中国政府は利下げやインフラ投資、補助金政策などを繰り返している。経済の根本的な構造問題の解決には至っておらず、先行きの不透明感は拭えない。経済的閉塞感が、国外、特に地理的にも近く、比較的安定している日本への移住・就労を考える動機となっている。
技能実習…制度と実態の間に大きな乖離
表面的には合法的な手続きを踏んで移住・滞在しているため、問題として顕在化しにくい。10年、20年という単位で見れば、日本社会の構造に確実に影響を与えうる規模となっている。
現状の日本には、変化に対応するための明確な国家戦略や、包括的な政策が存在しない。移民や外国人労働者に関する政策は、法務省(出入国管理)、厚生労働省(雇用)、文部科学省(留学)、経済産業省(特定技能など)といった複数の省庁にまたがり、縦割り行政の弊害も指摘されている。社会全体として「どのような外国人を、どの程度、どのように受け入れ、共生していくのか」という基本的なビジョンが共有されていない。特に問題なのは、技能実習制度や特定技能制度など、「人手不足解消」という実質的な目的がありながら、「国際貢献」や「一時的な労働力補充」といった建前で運用されている点だ。制度と実態の間に大きな乖離が生じ、外国人労働者が不安定な立場に置かれたり、劣悪な労働環境に甘んじなければならなかったりするケースが後を絶たない。
他の先進国はより戦略的なアプローチを仕掛ける
他の先進国は、移民や外国人労働者の受け入れに対して、より戦略的なアプローチをとっている。例えばカナダは、明確な移民受け入れ方針を掲げ、経済成長と社会の多様性に貢献する人材を積極的に受け入れている。「エクスプレス・エントリー」と呼ばれるポイント制度を導入した。申請者の学歴、職歴、語学能力(英語またはフランス語)、年齢などを客観的に評価し、スコアの高い順に永住権申請の招待を送る仕組みだ。
カナダ社会が必要とするスキルを持った人材を効率的に選抜し、入国後の定着と活躍を支援する。移民の受け入れから定住後の生活支援、雇用促進、多文化共生教育まで、政府が一貫したプログラムを提供している点も特徴だ。年間数十万人規模の移民を受け入れながら、比較的社会的な安定を保っている背景には、制度設計と社会への投資がある。
シンガポールは、より選別的な二重構造の政策を採用している。高度な専門知識やスキルを持つ人材(経営者、専門職など)に対しては、「エンプロイメント・パス(EP)」などの就労ビザが発給される。比較的容易に長期滞在や永住権、市民権取得への道が開かれている。国家の経済発展に貢献する「頭脳」を積極的に呼び込もうという明確な意図がある。
明確なビジョンと戦略なき現状
他方で、シンガポールは建設業や製造業、家事労働などに従事するいわゆるブルーカラー労働者に対しては、「ワーク・パーミット(WP)」という期限付きの労働許可が与えられる。WP保持者は、賃金水準が低く抑えられ、家族の帯同や永住権取得は原則として認められず、社会保障へのアクセスも限定的だ。厳しい二層構造は、人権や公平性の観点から批判もある。国家としてどのような人材を、どのような条件で受け入れるのかという政策的な意思が明確に示されている点で、日本の曖昧な状況とは対照的である。
反対に、経済的なメリットを捨てて、移民を排除するという選択肢も取れるわけで、やはり必要なのは国家としてのはっきりしたビジョンであろう。明確なビジョンと戦略なきまま現状を追認し続ければ、将来、経済的な利益すら得られないまま、社会的な対立と混乱だけが残ってしまう。日本人が知らない間に進む構造変化に正面から向き合い、国家としての覚悟を持った議論と政策決定が、今まさに求められている。