“おだやかな面接”と“厳しい面接”をわけるのは「志望理由書」……AIが書いてもプロが書いても一目でバレる

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 受験熱が高まる中で、「推薦入試」のノウハウを教えてくれる塾も人気を集めている。しかし、受験ジャーナリストの杉浦由美子氏は、「少し拙くても、自分にしか語れない何かを語ることが重要」と話す。面接の難易度さえ変えてしまう「志望理由書」について、杉浦氏が解説する。全3回中の2回目。

※本稿は杉浦由美子著「大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法」(青春出版社)から抜粋・再構成したものです。

第1回:「推薦入試の面接は陽キャが有利」は嘘!“面接なしの推薦”でも早稲田・慶應に行ける道がある

第3回:偏差値40台で上智大も!「偏差値58未満」であれば推薦入試を検討すべし

目次

推薦は「オリジナリティ」がすべて

「自分にしか語れない何か」を見つければ、9割受かる

 これは『何を準備すればいいかわからない人のための 総合型選抜・学校推薦型選抜(AAO入試・推薦入試)のオキテ』(鈴木鋭智・KADOKAWA)という本の表紙に書かれている言葉です。

 鈴木さんは代々木ゼミナールの小論文講師を経て、個別指導で長年、総合型選抜の「自分にしか語れない何か」はなぜ求められるのか指導をされてきた方だけあって、本質をご存じなのです。

 大学に提出する志望理由書に求められるのは、構成の巧みさや文章の技術ではなく、この「自分にしか語れない何か」なのです。少しばかり拙くても大丈夫です、いいんです。大学も高校生にそこまでのことは求めません。

 では、なぜ、「自分にしか語れない何か」、つまりオリジナリティが重要視されるのでしょうか。東洋大学入試部長の加藤さんがこう話します。

「近年は推薦入試対策が成熟してきています。事前に提出するプレゼン資料や課題、志望理由書に『大人の手が入っているな』と感じられるものが目立つようになってきているのです。まるでプロが作成したような完成度が高い書類が提出されるんですよ」

 私も取材の中で多くの志望理由書を見て同じことを感じました。

 添削や指導で大人の手がしっかりと入っているものは、私が読んでも分かります。そして、そういう志望理由書を見ると本当に気持ちが「萎えます」。

 私ですら一目見て分かるので、試験官の教授たちも「こんなの、大人の手が入っているのでは」と感じて、残念な気分になるわけです。ある大学の教授がいいます。

「そういった大人の手が入りすぎているふうの志望理由書は全部、1次選考で不合格にしたいんですが、それをすると大半の受験生を切り捨てることになってしまうのですよ。だから、まあ、内容がいいものは通すしかないです」

 これが多くの大学が頭を抱えていることなんです。

「AIが作成した志望理由書」は大きな問題ではない

 今、AIが志望理由書を書いてしまうのじゃないかということが話題になっていますが、現時点ではそこまで重要な問題ではないでしょう。

 AIは工場のロボットと同じです。ロボットは材料を与えれば商品を完璧に組み立てますが、材料を探してくることはできません。

 メーカーの仕入れ担当者は、良い材料を探し、仕入れ先と交渉をして、なるべく安く良い材料を入手し、それを工場に運ぶように手配します。材料の良し悪しの判断、交渉などは人間でないとできません。

 AIも「何を書くか」の材料を与えてもらわないと志望理由書は書けないのです。受験生が仮にAIに志望理由書を書かせようとしても、材料探しは自分でやるしかありません。

 ところが、推薦塾の中にはこのテーマや材料も与えてくれるところがあります。

 推薦入試に積極的な私立中高一貫校向けの英語専門塾の塾長がいいます。生徒たちが推薦塾に通っているので、推薦塾の中身を把握しています。

「塾によっては志望理由や研究テーマ(大学でこれを学びたいという研究テーマ)を講師が指示します。中には志望理由書を書いてくれる塾もありますよ」

 合格者たちへのインタビューの中でも、マンツーマン指導の塾に通って、講師の指示通りに志望理由書を作成したという学生たちもいました。

 そうやって作成した志望理由書も教授たちには分かってしまいます。なぜなら、まったくオリジナリティがないからです。

「冒頭に将来の夢」「社会貢献」志望理由書の定型文

 ある学生はこう話します。

「心理学科に入学したいと伝えたら、塾の講師に〝自己開示〟という心理学の用語を教えてもらい、それについて調べ、それを切り口に部活動での経験を分析していけばいいといわれました」

「自己開示」というのは心理学の用語で、「自分に関する情報を他者と共有する行為」をさし、心理学者のシドニー・M・ジュラードが提唱した言葉です。

 このように講師がテーマ設定をし、それに基づいて、生徒が志望理由書を書き、それをまた講師が徹底的に添削をします。そうなると、その志望理由書はその講師が作成したものであり、生徒本人が作ったものではなくなってしまいます。

 大学もそういう構造をよく理解しています。ある大学の教授は苦笑いをしながらこう話します。

「ネットで検索すると志望理由書の代筆サービスが出てきますからね。志望理由書の大半はどれも同じなんですよ。冒頭で必ず将来の夢を語る(笑)。高校生はまだ将来の目標が見つかってなくてもいいし、それを見つけるために大学に行きたいでもいいんですけどね。

 あと、やたらと社会貢献を語るのも特徴ですね。SDGsや多文化共生、少子化問題の解決とか教科書通りの社会課題を提示してきます。型通りで大量生産されたものという印象が強いです。そのくせ、構成や文章は非常にちゃんとしていて、本当に学生本人が書いたのかなーと感じるものは多いです」

 このように「志望理由書をちゃんと自分で書いているのか」という疑いを晴らすために、総合型選抜や公募制の2次選考では小論文と面接を課します。

 試験会場で小論文を書かせれば自分で「書けるか」が分かります。そして、面接では志望理由書の内容をちゃんと把握しているかを確かめます。

 面接は取り調べでもあるんです、「ちゃんと君が考えて書いたのか!?」という容疑を調べるのです。

 取り調べなので、面接は手厳しくなりやすいのかもしれません。そのため、志望理由書を明らかにちゃんと自分で書いていると分かれば、面接はおだやかになっていきます。

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この記事の著者
杉浦由美子

教育を中心に取材をしているベテラン記者。現在はダイヤモンド教育ラボ、 小学館マネーポストなどのWEBサイトや週刊誌で記事を書いている。 著作は『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)、『女子校力』(PHP新書)など多数。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新。

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