被害者しぐさに自民関係者もドン引き…ひめゆりの塔「歴史書き換え」西田議員「切り取りだ!」から一転撤回

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 沖縄県で行われたシンポジウムで、自民党の西田昌司参議院議員が沖縄戦で犠牲となった「ひめゆり学徒隊」の説明について「日本軍がどんどん入ってきてひめゆり隊が死ぬことになり、アメリカが入ってきて沖縄が解放されたという文脈で書いてある。歴史を書き換えるとこういうことになってしまう」などと発言し物議を醸し、当初は撤回しないとしながらも撤回となった。その間、立憲民主党の野田代表が「事実に反するような暴言であり、当然のことながら謝罪して発言を撤回すべきだ」と批判。自民党内からも小渕組織運動本部長が「われわれの認識と全く違う発言だ。改めてひめゆりの塔に足を運び、理解を深め、再認識してもらいたい」と苦言した。ルポ作家の日野百草氏が政治関係者を取材、戦争経験者や保守系団体からも怒りというよりは呆れたため息が聴こえてくる、撤回までのこの顛末を追った。

目次

身内すら誰も擁護する者おらず

「7月の参院選前だというのに何もいま言わなくてもいいじゃないか、そう思いますよ。政治家がひめゆりの女子を引き合いに出して否定的に持論を公言したら、そりゃ非難されますよ」

 関東、自民党系会派に所属する地方議員の反発である。会派の他数人も同席していたが発言の張本人、西田昌司参議院議員(京都府選出)を擁護する人はいなかった。

 これ、実のところ他の自民党関係者、それこそ現職の国会議員から元国会議員、秘書に至るまで尋ねてみたが誰も擁護する人はいないどころか「いつものことだが困ったもの」と呆れるベテランもいた。

 のちに西田議員は9日、不適切だったとして発言は撤回となったが、それまでは「事実を言っている」「撤回はしない」(7日発言)と強気の姿勢を通していた。

 その撤回までの騒動、若手の党員に至っては「迷惑」とも。議員秘書でもある彼はこうも言っていた。

「右とか左とかじゃない話ですよ。実際、表立って擁護する人なんか党内だってまずいません。被害者しぐさもいい加減にして欲しい」

西田議員なりの信念なのだろう

 彼の言う「被害者しぐさ」とは〈左翼の方々が事務所前に押しかけて街宣活動が行われました〉なる西田昌司議員のXのツイートのこと。

「左翼の方々と言えばネット民の一部が支持してくれると思っているんでしょうけど、西田さんは国会議員ですよ。思想信条は自由ですけど、むしろ今回の件は自民党が西田さんに〈大変ご迷惑〉をかけられていると言いたいです」

 その通りで思想信条は自由だし何を言っても自由だ。西田議員なりの信念だったのだろう。しかし、表立っての支持や擁護は仲間うちすら皆無と言っていいほどであった。そして、結局は撤回となった。

「いまどうか知りませんけどひどいんですね」

〈我々ね、自民党の議員が、國場先生(自民党・國場幸之助衆議院議員・比例九州)も含めてこれから、こういう間違えてきた戦後の教育とかね、え、このでたらめなことをやってきたというのをやらなきゃいけない。いけません。とくに沖縄の人にお願いしたいのはですね、え、かつて私もなんかひめゆりの塔ですかね、えー、なんかあの、何十年か前にですね、まだ国会議員になる前でしたけど、あの、お参りに行ったことあるんですけど、あそこ、いまどうか知りませんけどひどいんですね。で、あのひめゆりの塔で亡くなった女学生の方々がね、たくさんおられるんですけれども、あの説明、あれ見てるとようするに日本軍が、ね、どんどん入ってきて、ひめゆりの隊がね、死ぬことになっちゃったと。そしてアメリカが入ってきて、ね、沖縄が解放されたと。そう、そういう文脈で書いてるんじゃないですか、あの、あそこは〉

 2025年5月3日、那覇市の憲法シンポジウムにおける西田議員の言葉である。報道は切り取りで遺憾と西田議員が反論したためなるべく原文を尊重、少し長く引かせていただく。

「間違った歴史教育はまだ京都ではしてませんよ」

〈で、そうするとね、あれで亡くなった方々ほんとに救われませんよほんとに。だから歴史を、歴史を書き換えられるとこういうことになっちゃうわけですね。そして沖縄の中ではいまの知事さんもおられますけれどもね、そういう話はけっこうそれなりの市民権、持っているわけですよ。これは。で、これ我々京都の中でもですね、ま、共産党が非常に強い地域ですけれどもね、ま、ここまであのー。なんというか間違った歴史教育はまだ京都ではしてませんよ〉

〈沖縄の場合にはやっぱり地上戦の解釈をね、含めてですね、かなり、あのー、むちゃくちゃな、えー、この教育のされ方をしてますよね。だからそのことも含めてもう一度我々自身がですね、自分の頭で考え、自分が頭で物を見てですね、そして、えーその、流されてる情報が何が正しいのかどうかと。ということをですね、自分たちで取捨選択して、そして自分たちが納得できる歴史を、作らないといけないと思いますよ。で、それをやらないと日本は独立できないんですよ〉

 この発言は各報道のYouTube等の動画にノーカットで残っている。これを受け、別の自民党系会派の地方議員はこうも語る。

切り取りかどうかなんて動画みればわかるのに…

「ネットで全発言が動画で観られる時代ですからね、切り取りかどうかなんてすぐわかる話で、それで反論して通る時代じゃないですよ。ご自身の個人的な信念でしょうからそれは咎めませんが、なんで自民党の参院議員として憲法シンポジウムでいちいちこの話を、7月の参院選前にしたのかは本当に疑問ですね」

 かつて保守系メディアに執筆していたライターは「言いたいことはわかる」としながらもこう述べる。

「西田議員はこの国には自民党一党でいいとか歯に衣着せぬ発言でこんな感じですけど、沖縄でこんなことを言ったら、ましてひめゆりの方々を持ち出して持論に利用したらみなさんどう思うかって政治家なんだから考えるべきでした。保守系インフルエンサーとか匿名のネット民じゃないんですから」

 発言の中で「國場先生も含めて」と名前が挙がってしまった國場議員は「尊厳を踏みにじる表現」「あの場で語るべきでは」と西田議員の発言に否定的な見解を述べた。また当日の会場の雰囲気についても國場議員は、「(参加者の表情が)こわばっていったように感じた」「雰囲気が凍っていくような」とした。

保守系団体役員も苦言

 自民党は西田議員の発言を受けて8日、党の沖縄振興調査会で「大変、残念」とし、会長の小渕優子党組織運動本部長は「沖縄県のみなさんの心を傷つけてしまった」とした。

 都内、80代の保守系団体の役員もこう苦言する。

「私ですら戦争は幼少期。空襲の記憶や焼け跡闇市の記憶はありますが、お国のために戦ったわけじゃない。(西田議員は)昭和33年生まれですか、太平洋戦争どころか昭和の東京オリンピック(昭和39年)や昭和の大阪万博、三島(由紀夫)先生の自決(昭和45年)すら彼は小学生とかそのあたりじゃないですか、私からすればお若いですね。経験したから偉いとか、記憶がないなら語るなと言いませんが、だからこそ真摯に歴史を認識したほうがいいと思います」

 彼は同時に「保守の堕落」を嘆いていたが、なるほど西田議員はベテランだがいまや戦争経験者となると80代とか、個人差もあるが幼少期に戦争の記憶があるとしても80代後半か。戦後80年ということは従軍経験者に至っては90代から上だろう。

 高齢者だから戦争がどうこうというのはもう当てはまらなくなりつつある。語り部も減り、続々とそうした会も解散している。

右だ左だはない、もはや人としての倫理の問題

 だからこそ歴史の再認識が必要であり、それが意図的に創作されてしまう。西田議員も同じことを言っているのかもしれないが、その趣旨はだいぶ違うように思う。

 経験者が偉いとかどうとかでなく、経験者が少なくなればなるほど知った風の一部が目的外利用を始める。そこに右だ左だはない、もはや人としての倫理の問題だと思う。実際、理解を得られず、撤回しないと言っていたのに撤回という結果が残った。

公明党も「撤回」「謝罪」を求めた

 自民党と連立を組む公明党も7日、「撤回」「謝罪」を求めていた。それを受けて都内で公明党の支持者らに話を聞くと「参院選をどうするつもりか」など厳しい意見があった。

「国民の生活が苦しいなか、自民党は裏金もあったのにこういう発言を平気でする。身内の沖縄県連(自民党)すら抗議しているのに西田議員は仲間の話を聞く気がない、迷惑です」

 2024年、自民党の裏金問題で西田議員は「国会議員の一人としてお詫びを申し上げたい」と謝罪している。2018年から2022年までの411万円のキックバックについてで「担当者が独自の判断で行ったこと」「巻き込まれた」「うかつなことですが全く存じませんでした」とした。その真偽はともかく、いろいろな意味で理解を得られるかといえば結果の通り難しいように思う。

 野党だけでなく身内の与党内でも非難ばかり。参院選で苦戦どころか大苦戦の予想ばかりの自民党にとっては撤回するまでの騒動を含め、最悪の事態と言ってもいいだろう。

 元自民党議員は「あくまで個人的な意見」としてこう述べた。

もはや「オールド政党」の代名詞のように

「西田さんは選挙が強い、彼自身はそれでいいのだろう。萩生田(光一)さんもそうだったが選挙の強い人は何があっても地元人気でなんとかなると踏んでいる」

 それでも政党であるからには結束してみなで戦わなければならないはずだ。それなのにスキャンダルはもちろん自分の思想信条だけで党を混乱させる。自分さえよければいいのかという話にもなる。それこそ、地元の支持者さえ抑えておけばいいと。

「派閥を肯定するわけではないが、党の仲間という意識が薄れているように思う。自民党の結束力が弱まっているだけでなく、保守からも愛想をつかされているというか、旧統一教会問題も含めて自民党は保守でないと右からもそっぽを向かれているように思う。とくに若い人を中心にそうではないとバレているのでは」

 もはや「オールド政党」の代名詞のようになってしまい、左どころか右にも愛想をつかされ始めているというのは同意見である。実際、このままでは自民党、参院選を戦う上でそうとうに厳しいことは確かだろう。

 繰り返すが個人の思想や発言は自由。しかし思想はともかく発言の結果には責任がともなう。まして政治家なら。

 沖縄戦の慰霊の場に対してのひめゆり学徒隊を持ち出しての持論、本人にそのつもりがなかったとしてもこのような結果となってしまった。むしろ信念なら貫くべきだったし、撤回ということはそういうことなのだろうと思われても仕方がない結果である。

〈いまの体制では参院選を戦えない〉

〈私のように参議院選挙を控えている人間にとりましては、国民から信任を得るためにも、総裁の交代をしなきゃならないというのは、当然みんな思ってるわけですよね〉

 と3月、参院選で勝つために石破茂首相に退陣を迫った発言こそ、西田議員であったはずなのに。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、昭和史における人物評伝およびフィギュアスケートなどの舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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