橋下徹「僕は第三者委が中居さんへの人権侵害の可能性大と。ヒアリングをやり直せ、と思います」…フジの調査報告書、何が起きていたのか

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 芸能界引退を表明した元タレント・中居正広氏の「反撃」が注目を集めている。代理人弁護士が「一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為の実態は確認されなかった」などと主張したのだ。フジテレビ(CX)の問題を調査した第三者委員会が中居氏と女性のトラブルをめぐり「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生した」との調査報告書を公表してから2カ月近く。なぜ中居氏側は沈黙を破り、突如動き出したのか―。

目次

橋下徹「ヒアリングをやり直せ、と思います」

 まずは、中居氏の代理人弁護士による5月12日の「反論」を見ていこう。毎日新聞が同日配信した記事によれば、代理人弁護士はCXの第三者委員会が3月31日公表した調査報告書について「一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為は確認されなかった」として証拠開示を請求する考えを明らかにした。また、報告書の「性暴力」という言葉の定義・使用について意義を申し立てている。

 その上で代理人弁護士は「WHOの広義の定義を使用していますが、日本語としてその言葉が持つ凶暴な響き・イメージには何ら留意することなく、漠然と使用しました」と批判し、中居氏のヒアリングでの発言が反映されなかったとして「中立性・公平性に欠け、一個人の名誉・社会的地位を著しく損なった」と主張。これは「中居氏の人権救済のため」という。

 この「反論」には、意外な人物も“加勢”する。元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏は5月14日の関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」で、「僕は第三者委員会が中居さん自身への人権侵害の可能性大と。ヒアリングをやり直せ、と思います。事実関係がよくわからないままで『性暴力』。中居さんが重大な人権侵害を犯したとされ、事実関係、みんなどこまでわかっているんですか、ということですよ。第三者委員会は絶対的な存在でもないし、正義のヒーローでもなんでもない」と指摘。さらに「中居さんは事実を全部、言いたいらしいんです。でも、それを取り上げてくれなかったらしいです」と明かした。

 中居氏側の「反論」に対し、女性側の代理人弁護士は「現時点で被害女性としてコメントすることはありません」とした上で、「代理人としては、このような中居氏の動きをうけて、Aさんら女性(元)アナウンサーに対する憶測に基づく誹謗中傷や悪意の攻撃が再び強まることを懸念しており、メディアの皆さまには特段のご配慮をお願いいたします」としている。

専門家である弁護士同士が「場外乱闘」のような形になるなんて

 CXの調査委員会による報告書公表から2カ月近くが経った中、一体なにが起きているのかと驚く人は少なくないだろう。あらかじめ触れておくと、筆者もその1人だ。何より、法律の専門家である弁護士同士が「場外乱闘」のような形になるなんて思いもしなかったのではないか。そもそも、中居氏と女性の間にどのようなトラブルがあったのかは当事者でなければ完全に理解することは難しい。それが「性暴力」といったセンシティブな問題であれば、なおさらのことだろう。

 昨年末に一部週刊誌で中居氏の女性トラブルが報道され、1月9日の発表コメントで中居氏は「トラブルがあったことは事実です」と認める一方、「示談が成立し、解決していることも事実です」「今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」と説明。そして、「このトラブルについては、当事者以外の者の関与といった事実はございません」などと記した。

 中居氏は関連する出演番組などが全て終了・契約解除となり、1月23日には芸能界を引退することを公式サイトで発表した。女性トラブルをめぐる事実関係はCX側の第三者委員会による調査に委ねられ、竹内朗委員長ら弁護士3人や調査担当の弁護士が①CXの関わり②類似事案の有無③CXが事案を認識してから現在までの事後対応④CXの内部統制・グループガバナンス・人権への取り組み⑤判明した問題に関する原因分析、再発防止に向けた提言⑥その他第三者委員会が必要と認めた事項―の6点が調査された。

調査報告書では「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生した」

 3月末に公表された調査報告書は全400ページ近くに上る。調査対象期間はCXの情報管理システムが導入された2016年4月から今年3月26日までで、中居氏や女性、元編成総局編成局編成戦略センター室長兼編成部長をはじめ、フジの役職員および退職者や関係者など合計222人を対象に延べ294回のヒアリングを実施。デジタルフォレンジック調査の専門業者を起用したほか、役職員アンケートや専用ホットライン、ステークホルダーとの意見交換などが行われた。

 調査報告書では「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生した」とし、取引先との良好な関係を築くためにCXの社員・アナウンサーらが利用されていた実態が不適切と認定された。事態把握後も中居氏を番組で起用し続けたことは「2次加害行為」にあたると断じている。

中居代理人「一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為は確認されなかった」

 今回、中居氏の代理人弁護士は「一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為は確認されなかった」「WHOの広義の定義を使用していますが、日本語としてその言葉が持つ凶暴な響き・イメージには何ら留意することなく、漠然と使用しました」と主張した点は調査報告書と真っ向から対立すると言える。

 改めて、中居氏による「性暴力」があったと明記した調査報告書を見ると、CXの第三者委員会は「2023年6月2日に女性Aが中居氏のマンションの部屋に入って退室するまでの間に起きたことについて、女性Aが中居氏によって性暴力による被害を受けたものと認定した」と記している。「性暴力」に関しては、WHOの定義を引用する形で「強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為をいい、被害者との関係性を問わず、家庭や職場を含むあらゆる環境で起こり得るものである。また、この定義における『強制力』とは、有形力に限らず、心理的な威圧、ゆすり、その他脅しが含まれるもので、その強制力の程度は問題にならない」と付記された。

「日本語としてその言葉が持つ凶暴な響き・イメージ」

 第三者委員会は「性暴力」には、同意のない性的な行為が広く含まれており、「性を使った暴力」全般を意味するとしているが、中居氏の代理人弁護士は「日本語としてその言葉が持つ凶暴な響き・イメージには何ら留意することなく、漠然と使用しました」と言葉の定義・使用について意義を申し立て、「一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為は確認されなかった」と証拠開示を請求する考えという。

 たしかに「性暴力」という言葉が持つ意味は重い。第三者委員会は、中居氏を含めたヒアリングを実施して「性暴力」という言葉を用いたはずだが、中居氏の代理人弁護士はヒアリングでの発言が反映されなかったとして「中立性・公平性に欠け、一個人の名誉・社会的地位を著しく損なった」と主張しているのだ。

 常識的には第三者委員会が調査のやり直しをすることや、守秘義務を前提に実施したヒアリング内容などの証拠開示に応じることは考えにくい。ただ、中居氏側の主張で気になるのは、中居氏側が「当初、守秘義務解除を提案していた」という点だ。

中居氏側の「人権救済」がどこまでのことを指すのか

 第三者委員会の報告書は、中居氏が女性との示談内容に関して「守秘義務」の解除に応じなかったとしている。だが、中居氏側は守秘義務の解除を提案していたとした上で、第三者委員会から「2人の密室で何が行われたかが直接の調査対象ではないとの回答があったという経緯がありました」としている。

 もちろん、トラブル内容を考えれば双方が全てを公に明らかにする必要はない。だが、仮に守秘義務解除に関する中居氏側の主張が事実であれば、第三者委員会の報告書に対する信頼は揺らぐ。今のところ、中居氏は記者会見を開いて説明する意向はないように見えるが、橋下氏が「事実を全部言いたいらしい」と明かしたことを考えれば、今後は何らかの方法で自らの名誉回復への道を探るのではないか。

 中居氏側の「人権救済」がどこまでのことを指すのかは分からない。当事者双方に言いたいこともあるだろう。だが、1つの方法としては裁判での決着も考えられる。有名人が当事者のケースで「決着」をつけることは容易でないものの、可能ならばネット上でその度に誹謗中傷が飛び交うような状況は避けてもらいたいところだ。トラブル内容を考えれば当事者以外は、静かに、冷静に見守っていく必要がある。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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