石破首相、激ヤバ発言の大問題「コメ5キロ3千円台」に杉村太蔵「消費者は嬉しい…でも投資家目線で生産者の立場だと」経済アナリストも糾弾

5キロ3000円台は本当に実現するのか。高止まりするコメ価格が国民生活を直撃する中、江藤拓農林水産相が「コメを買ったことがない」などと大失言を放って辞任に追い込まれた。後任は自民党の小泉進次郎元環境相で、石破茂首相は5キロ3000円台に下がらなければ「責任」をとる考えだ。昨年夏以降、1年近く後手に回ってきた石破政権は局面打開を図れるのか。元衆議院議員でタレントの杉村太蔵氏も情報番組で「消費者からすると嬉しい言葉ですけど、投資家目線で、生産者の立場になると、えっ俺たちのおコメの価格、これが上限なのっていう新たな論点も出てくる」と疑問視している。
そんな中で経済アナリストの佐藤健太氏は「コメ価格が下がらないという責任で農水相が退場するならばわかるが、失言で辞めるとは情けない。目標価格設定が『3000円台』というハードルの低さにも驚くばかりだ。もはや国家運営を任せられないと思っている人々は多いのではないか」と厳しく指弾する。佐藤氏が解説するーー。
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農水相辞任に隠れた首相の問題発言
「コメは3000円台にならなければならない。4000円台などということはあってはならない」「1日でも早く、その価格を実現する」。石破首相は5月21日の党首討論で、国民民主党の玉木雄一郎代表から価格が下がらなかった時の対応を問われ、「責任をとっていかなければならない」と明言した。こうした発言自体が今さら感満載なわけだが、首相はコメの増産に向けた考えもにおわせている。
物価上昇に苦しむ国民が少しでも安いコメを探し回る中、江藤氏の「KY(空気が読めない)」ぶりは問題外であり、辞任は当然だろう。ただ、筆者は農水相辞任というインパクトに隠れた首相の発言にこそ問題を感じてしまう。
1つは、コメ価格に関する部分だ。農林水産省が5月19日発表した同5~11日のコメ平均価格(5キロあたり、全国のスーパーの販売価格)は4268円で、前週より54円高かった。4月28日~5月4日までの価格は一時的に下降したものの、再び最高値を更新した形だ。いまだ前年の同じ時期に比べて2倍という高水準が続いている。2024年産の業者間取引価格(4月)は、玄米60キロあたり2万7102円(税込み)で前月より1226円も高かった。
なぜ石破首相の「5キロ3000円台」発言を問題視するかと言えば、その理由と実現性に疑問を持つからだ。言うまでもなく、「3000円台」というのは3000円から3999円を意味する。農水省の発表データを見ると、4000円台に突入したのは今年3月からだ。では、いつから「3000円台」となったかと言えば、2024年9月だ。ちなみに、1年前の2024年6月は2000円台前半だった。
国民をあまりにバカにした話
つまり、首相は昨年9月から今年2月までの間の価格水準に抑えようというのである。コメ価格は昨年6月から上昇傾向が続いてきた。同8月に2500円超となり、今年1月には3500円を超えている。すでに2月時点で前年に比べて90%近くも値上がりしていたことになる。何を言いたいのかと言えば、政府の備蓄米を放出しながら「3000円台」にまで下げるというのは国民をあまりにバカにした話なのだ。1年前と同様に「2000円台」にまで下げられない政権は、そもそも責任をとるべきだろう。
政府は3月から備蓄米放出を始めたが、一向にコメ価格は下がらない。その理由については様々な角度から分析がなされているが、農水省が5月16日に発表した調査結果を見ると胸にストンと落ちるものがある。3月17日〜4月13日に流通した備蓄米が卸売業者から小売業者などに販売されるプロセスにおいて、60キロあたり7593円が上乗せされていたという。
ようやくJA全農(全国農業協同組合連合会)が落札した備蓄米が出荷されるようになったものの、いまだスーパーで見かけない場所が多い上、卸売業者の価格上乗せが60キロ7500円超もあったというのだからコメの価格は容易に下降しないはずである。政府は備蓄米と同量を買い戻すルールの期限を「原則5年以内」に延長する改善策を公表し、価格安定につなげたい考えだが、そう簡単に行くとは考えにくい。
今年も「コメ騒動」は続くことになる
もう1つの「首相方針」で気になるのは、コメの増産にかかわる部分だ。そもそも政府にはコメが不足しているという認識が欠如してきた。昨年夏の時点で約40万トンのコメ不足に対応するため、2024年産米は「先食い」されている。言うまでもなく「先食い」は、自転車操業状態を意味する。よほどのことがない限り今年夏以降のコメ不足も懸念されるところだ。
農業専門日刊紙である日本農業新聞は2月14日、衝撃的な試算を公表した。今年6月末時点のコメの民間在庫量は農水省が示す158万トンを大幅に下回る可能性があるというのだ。それによれば、民間在庫量は110万~130万トンと低水準となり、国内需要量の約2カ月分にとどまるという。つまり、今年も「コメ騒動」は続くことになる。
とても為政者とは思えない評論家のような発言
にもかかわらず、今さらになって首相が「コメの増産」と言い出した。事実上の減反政策が続いてきたことを考えれば方針転換と見ることもできるが、言うまでもなくコメは一朝一夕で収穫できるものではない。石破首相は5月11日のフジテレビ「日曜報道THE PRIME」で、「日本だけはコメ生産を減らしてきましたということは、本当に正しかったんですかということ。国内で高齢化が進んで人口が減っている。だから、コメの生産は減っても仕方ないんだという考え方をもう1回立ち止まって考えてみるべきなのではないか」と述べている。持論があるにせよ、とても為政者とは思えない評論家のような発言だろう。
首相は備蓄米放出に関し、これまでの競争入札から「随意契約」を活用した売り渡し策を小泉農水相に検討するよう指示した。価格設定がされれば、安い備蓄米が流通するのは当然だ。それができるならば、なぜ今まで何も手を打ってこなかったのか。昨年夏以降の価格上昇時に何ら効果的なメッセージを出さず、備蓄米を放出すれば価格が落ち着いてくると言っていたのは誰なのだろうか。それが今さら、「3000円台」という昨年9月から今年2月までの間の価格水準にしたいというのでは国民が納得しないのではないか。
小泉氏が最終的にどこに着地しようとしているのか分からない
新しく農水相に就いた小泉氏は5月21日、「ややもすると組織・団体に気を使いすぎて、本来であればもっと消費者、生活者の目線でやってこなければいけなかった改革が遅れている」「新しい時代の農林水産行政を築いて、消費者の理解と生産者の意欲との距離感が縮まるような関係が築ければ、前向きな方向に転換できるチャンスにもできるのではないか」と決意を示した。首相としては、小泉氏の発信力と知名度の高さに加え、「防波堤」役を期待しての起用なのだろう。
小泉氏は「国民が毎日の生活の中で感じているコメの高騰に対し、スピード感を持って対応できるよう全力を尽くしたい。国民の怒りや不信を払拭できるよう『コメ担当大臣』だという思いで集中して取り組んでいきたい」とも述べている。備蓄米は「需要があれば、無制限に出す」と語り、幅広い業種に直接売り渡す考えを表明した。たしかに「無制限に出す」「直接売り渡す」という強いメッセージは重要だ。ただ、その意気込みは良いとしても、小泉氏が最終的にどこに着地しようとしているのか分からない。
そういえば、タピオカティーの店でマスク売ってたよな
思い出すのは、コロナ禍の「マスク騒動」だ。当時、飛沫感染を恐れた人々はマスクを買い集め、全国各地のドラッグストアからマスクが姿を消した。同時に起きたのは「便乗値上げ」ラッシュだった。タピオカミルクティーの店や文房具店など、幅広い業種の店で通常の価格よりもはるかに高くマスクが販売されていた。だが、増産されるとマスクが行き渡るようになり、価格は下落。いつの間にかタピオカミルクティー店などは姿を消した。
小泉氏が「最大の課題」としてコメ価格抑制をあげるのは当然だが、備蓄米を「無制限に出す」「直接売り渡す」ことの結果として、生産者や消費者などにどのような結果が訪れるのか説明する責任があるのではないか。たしかに一時的には価格が下がった実感を国民が持てば拍手喝采で迎えられる可能性はある。ただ、「その先」にあるコメの生産不足をいかに補うのかもパッケージで提示すべきだ。
マスクの例で言えば、1箱5000円で販売されていたものが1000円安くなれば助かる人もいる。だが、元は2000円弱で購入できていたものだ。あまりの価格高騰に感覚が麻痺しているのかもしれないが、首相が「3000円台」というのはハードルが低すぎはしまいか。誤解を恐れずに言えば、新人議員らにポンと「10万円分の商品券」を配布していたのと同様に国民感覚を知らない政治家なのだと感じる。
夏の都議選や参院選をにらめば、石破首相や小泉農水相は短期間で結果を出すことが求められる。逆に何も変わらなければ「政治家失格」の烙印を押されるだろう。言うは易く行うは難し、という言葉が石破政権にのしかかる。