「せっかくコメ価格上がったのに、農家は廃業ですわ」JA福井県中央会…元経済誌編集長は「秋にコメ高騰確定」と指摘!備蓄米使い果たした進次郎

JA福井県中央会の宮田幸一会長は6月27日に開いた定例記者会見で「我々が心配するのは、せっかくコメの価格が30年ぶりに上がったのに、2000円台で買えるという雰囲気になってもらうと困る。農家のみなさん全部廃業ですわ。今の価格で行ったら」と発言し、話題を呼んだ。しかし、経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「秋も値段は高騰する」と指摘する。「備蓄米という最後の切り札は、ほぼ使い果たされてしまった」。一体何が起こっているのか。小倉氏が詳しく解説していくーー。
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備蓄米という最後の切り札は、ほぼ使い果たされてしまった
日本の食卓を支えるコメの価格が、消費者の悲鳴を置き去りにして高騰を続けている。秋に収穫される新米ですら、店頭価格は5キログラムで4000円前後で高止まりするとの見方が大勢を占める。小泉進次郎農林水産大臣は、数度にわたる政府備蓄米の放出で市場の沈静化を図った。今年の秋、備蓄米という最後の切り札は、ほぼ使い果たされてしまった。
危機の本質は、天候不順による一時的な供給不足ではない。日本の農業が抱える、深く根差した構造的な病である。政治家が票田におもねり、巨大な農業団体が市場を支配する。この歪んだ構図が、30年以上にわたり日本の農業を茹でガエルのようにジワジワと弱体化させ、消費者には非合理な負担を強いてきた。手詰まりの小泉農相に、この国の農業を再生させる覚悟と計画は存在するのだろうか。
コメ流通の現場に長年身を置いてきた人物の告発は、問題の深刻さを物語る。全国米穀販売事業共済協同組合理事長であり、卸売大手ヤマタネの会長を務める山﨑元裕氏は、現状を痛烈に批判する。山﨑氏は、こう語る。
「この日本経済停滞の失われた30年間と同様、コメを巡る問題も何も変わってきませんでした。業界としても無為に過ごした30年だったと。結局、お米に関しては国が管理する食糧管理制度(食管)から全農食管に代わっただけでした。そういう意味では、今コメ問題が起き、いろいろと変わろうという機会が到来していますので、このチャンスをわれわれが生かせるかが重要だと考えています」(雑誌『財界』6月25日号)
山﨑氏の言葉は、1995年の食管法廃止後も、日本のコメ市場がJA全農という巨大な組織に支配され、自由な市場原理が機能してこなかった事実を、業界トップの立場から明確に認めるものだ。
日本の農業を衰退させてきた元凶こそ、自民党の農水族
生産から流通までを牛耳るJA全農の存在が、市場の硬直性を生み、効率的な生産者を育てず、非効率な構造を温存させてきた。山﨑氏が言う変革の好機とは、この旧態依然
としたJA支配体制、いわば全農食管を解体し、真の市場経済を導入する好機に他ならない。この内部からの叫びは、場当たり的な価格介入ではなく、農業構造そのものに大鉈を振るう必要性を示している。
この腐敗した構造を温存し、日本の農業を衰退させてきた元凶こそ、自民党の農水族と呼ばれる政治家たちである。そのドンとして君臨する森山裕幹事長の発言は、問題の根深さを象徴している。財界6月25日号に掲載されたインタビューで、森山氏は驚くべき農業観を披露している。
森山氏は、コメの生産コストについて、「60キロの米をつくる生産コストは、2.7アールで1万3553円。これが1ヘクタールになると9436円になるんですね。つまり、水田の広さによって3割くらいコストが安くなるということで、われわれは政策として、できるだけ区画を広くしようと言っています」と語った。森山氏自身の口から、大規模化こそがコスト削減と効率化の鍵であるという、市場原理の基本が語られた。これは日本の農業が抱える非効率性の原因を、農水族のトップが認めた歴史的な自白である。合理的な結論は、政策資源を大規模農家への農地集約に集中させることだ。
効率化を阻害し、票田である零細農家を延命
森山氏の論理は、ここから破綻を始める。森山氏は続けて、「中山間地の棚田ではもうコメをつくらないのか?ということになると、棚田というのは小さなダムの役割があるんですよ。国土保全の役割も大きいわけです」と経済合理性の議論を、国土保全という非経済的な情緒論にすり替えた。そして、「できるだけ広いところでつくってもらうために予算をしっかり投入していくと。あとは中山間地の集落の維持を考えても、コメをつくれるところはつくっていただかなければならない」と結論付けた。大規模化が効率的だと認めながら、非効率な中山間地の小規模農家にも補助金をばらまけと主張する。
この自己矛盾こそ、日本の農業政策が抱える病巣そのものである。効率化を阻害し、票田である零細農家を延命させるための、典型的な利権政治の論理だ。このような思考が支配する限り、日本の農業に未来はない。
補助金をばらまくだけで農業が発展した国はない
補助金をばらまいているから、農家の味方なのではない。
補助金をばらまくだけで農業が発展した国はなく、ただ安楽死を与えているという実態である。これは自立しようとする意欲ある農家の足を引っ張っているだけの陰湿な農家イジメだと思う。関税も補助金も、一時的に農家の所得を増やすが、中長期的には、モチベーションと競争力を失わせるものであることは数々の実証研究が示すところだ。
小泉農相は、この絶望的な状況を打開できるのか。気象庁が6月24日に発表した3か月予報によれば、2025年の夏は全国的に気温が高くなる確率が極めて高い。記録的な猛暑による高温障害のリスクは存在する。小泉農相が頼ってきた備蓄米の放出という手段はもはや残されていない。
残された道は、山﨑氏が指摘する全農食管という歪んだ流通構造、そして森山氏が体現する利権政治の構造に、正面から切り込むことだけである。小泉農相に、そのための具体的な計画と、利権団体と戦う覚悟はあるのだろうか。
必要なのは、感情論や利権に基づいた小手先の延命策ではない
必要なのは、感情論や利権に基づいた小手先の延命策ではない。実証データによって示された正しい政策パッケージの導入である。
それらは段階的な関税の撤廃、補助金戦略の再編、農業基盤と研究開発への投資である。
『市場と福祉に対する食料安全保障政策の影響』(Sheriffら、2020年)では、20%の関税は消費者福祉を5.4%も低下させるという結果が出ている。『グローバルバリューチェーンにおける関税の効果』(MacDonald、2022年)でも、関税は、結局、農家にとっても大きく不利益となり、長期的に付加価値と生産性を損なうことが示された。生産者を守るという名目でかけられる高い関税は、結局は消費者に不当な負担を強い、農家の競争力を奪ってしまう。茹でガエルのような死をコメ農家に与えることが、森山幹事長の方針なのである。
補助金の戦略的な再編はどうすべきか。『OECD農業補助金は貧困を悪化させるのか?:メキシコの事例分析』(Ashrafら、2005年)では、広く浅い補助金が、結果として小規模農家の貧困を悪化させる逆進的な構造を持つことが明らかになった。
国民は永遠にそのコストを支払い続けることに
森山氏が主張するような、非効率な農家を延命させるためのバラマキを止め、生産性向上に直結する技術や資材に補助金を集中投下する。やる気のある担い手を、選択と集中で支援するべきだ。目先の価格を操作する対症療法ではなく、農地集約や技術革新という根本治療にこそ、国家の資源は投じられるべきである。
農水関係者、政府関係者で、日本人の作るコメの品質がグローバル市場で負けると考えている人に出会ったことがない。一様に「コメを輸出すれば、儲かる、収入も上がる。しかし、コメ農家にとっては未体験で消極的な態度となる」という。日本のコメ問題の根源は、森山氏のような旧態依然とした自民党と農水省、そしてJA全農という巨大な既得権益団体が作り出した、硬直的な市場構造にある。小泉農相がこの岩盤にドリルで穴を開ける覚悟を決めない限り、日本の農業は衰退の一途をたどり、国民は永遠にそのコストを支払い続けることになる。