「参院選で政権交代も起こり得る」都議選で歴史的大敗の石破政権、岸田前首相からの発言…「立民との大連立も」想定される3つの末路「消費減税は否定」

夏の「大政局」を前に自民党内が騒がしい。昨年の衆院選で惨敗し、少数与党になった石破茂首相(自民党総裁)が率いる同党は6月の東京都議選でも歴史的大敗を喫した。7月20日投開票の参院選で敗北すれば、政権交代を許すことになる。そんな中、石破氏を支える岸田文雄前首相からは「連立も考え直さなければならないのではないか」と意味深長な発言が飛び出した。今後の政界はどうなるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「今度の山登りは『3つのルート』が考えられる」と指摘する。野党が掲げる消費減税などを真向から否定する自民……。選挙の混迷が予想されるーー。
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岸田前首相「政権交代も起こり得るかもしれない」
「与党が過半数を割れば、ますます物事を決められない政治になる。政権交代も起こり得るかもしれない」。自民党の岸田文雄前首相は6月25日、さいたま市での講演で、参院選で自民、公明両党が敗北することになれば政局に発展する可能性に言及した。「参院の過半数を確保する」ことが重要であるとしつつも、「野党とどう連携するか。連立も考え直さなければならない」と語ったのだ。
この発言は、参院選の結果次第では現在の連立政権に他の党を加える連立枠組みの拡大を意味すると受け止められている。岸田氏は6月29日夜には、石破首相と都内のホテルで2時間ほど会談。自民党内の状況や参院選の行方などについて意見を交わしたもようだ。
実は、このタイミングで前首相である岸田氏があえて「発信」したのには理由がある。自民党や各種調査を見ると、現時点で自民党と公明党は非改選組を合わせ、参院での過半数の議席を確保する可能性が高いとされる。だが、接戦区が多く、失言やスキャンダルがあれば情勢は一気に変わり得る。万が一、非改選組を合わせても過半数を割ることになれば2009年以来の政権交代を許すことになり、まずは「政権交代の悪夢」という危機感を党内に充満させることで組織・支持層の引き締めを図ったのだろう。
自民党は6月の都議選で過去最低の21議席という大惨敗を喫した。共同通信社が6月28、29日に実施した世論調査によれば、与党が「過半数割れした方がいい」との回答は50.2%と過半数を上回る。「過半数割れしない方がいい」は38.1%で、比例代表の投票先は自民党が17.9%とトップを占めているものの、選挙区の投票先を見ると「与党系候補」は19.9%、「野党系候補」が32.6%で、まだまだ何が起きるのかわからない状況だ。比例投票先で3位の国民民主党(6.4%)や4位の参政党(5.8%)は勢いがみられている。
岸田氏は石破首相の「最大の後ろ盾」
石破首相は参院選の勝敗ラインを与党で過半数とする。改選を迎える66人の現職のうち、50議席が目標ということだ。もちろん、50議席を下回れば石破首相は即退陣という道を歩むだろう。ただ、50議席以上という目標値に達しても政権運営を続けることは容易ではない。
ここで岸田前首相の発言に戻る。岸田氏は参院で与党が過半数を確保することが大事であるとした上で「連立も考え直さなければならない」と言及した。この発言を普通に読み解くならば、仮に参院選で目標を達成した場合でも、衆院で少数与党である現状を踏まえれば一部政党の協力を取り付ける事態打開のため「連立政権入り」を打診するということだろう。
もちろん、獲得議席が50議席を超えたとしても自民党内から「やはり、石破はけしからん」と退陣論が噴出することも想定される。とはいえ、議席数を減らしたといっても参院で過半数の議席を維持したのであれば、「石破おろし」を実現するのは容易ではない。言うまでもなく、岸田氏は石破首相の「最大の後ろ盾」である。昨年の自民党総裁選で決選投票に臨んだ石破氏に追い風を吹かせたのは旧岸田派のメンバーだった。石破政権の官房長官である林芳正氏は旧岸田派の「番頭」であり、「石破―岸田ライン」が政権運営の要と言って良いだろう。
今後のシナリオを占うと「3つのルート」が考えられる
その岸田氏が連立枠組みの拡大可能性に言及したのは、与党が過半数に満たない衆院の状況を考えているからだ。岸田政権時代、麻生太郎党最高顧問や茂木敏充前幹事長らはひそかに一部野党との協力関係構築のために汗を流してきた。そのパイプを使うかどうかは別にしても、今や勢いに乗る国民民主党などとの関係はむげにできないのも事実だ。
もちろん、参院選を直前にした現時点で野党側が自公政権からの「連立入り」を受け入れる可能性は低い。その上で今後のシナリオを占うと「3つのルート」が考えられるだろう。
1つ目は、国民民主党に「秋波」を送るパターンだ。かねてから浮かんでは消えてきたものであるが、自民党からすれば国民民主党の議席数は喉から手が出るほど欲しいものと言える。先の衆院選で「手取りを増やす」と掲げた国民民主党の政策は若年層を中心に人々の心に響く。
2つ目は、立憲民主党との「大連立」を模索するパターン
逆に言えば、消費税をはじめとする減税に手を出せない自民党にとっては「外野においていてはいけない党」(閣僚経験者)というわけだ。
衆院選で議席を4倍増にした国民民主党は参院選でも伸長することが予想されている。もし、自公政権が国民民主党を取り込むことに成功すれば衆院でも過半数を上回り、政権は一気に安定する。だが、国民民主党は連立入りを拒否する可能性が高いはずだ。ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止や「年収103万円の壁」見直しをめぐり、与党と昨年末に合意した政策の数々は放置され続けている。それが「連立入り」すれば実現するかといえば、その保証はどこにもない。
2つ目は、立憲民主党との「大連立」を模索するパターンだ。もともと石破首相とケミストリーが合うといわれる野田佳彦代表は保守系の政治家としても知られる。立憲民主党内には自公政権に嫌悪感を抱く議員が多いが、野田氏は首相在任中に消費税増税への道を決める社会保障・税一体改革で当時野党だった自公と3党合意を結んだ人物だ。
3つ目は「石破首相の退陣」だ
野田氏は自民党との大連立について「考えていない」と語っているものの、民間の政策提言組織「令和国民会議」(令和臨調)が6月29日に開いた集会では首相が社会保障改革を行うための超党派の会議体設置に意欲を表明したことに関し、「互いに責任を持てるという意味で拒むものではない。能動的に議論していかなければならない」と応じる考えを示した。
いきなり「大連立」というものには拒否感が強い一方で、野田氏が社会保障改革や財政政策を進める上で自公両党と協力する可能性は残る。むろん、それは参院選の結果次第と言える。ただ、仮に自公政権と立憲民主党が「組む」ようなイメージとなった場合、自民党からも立憲民主党からも離党者が相次ぐことが考えられる。その場合は政界再編への道が開かれるだろう。
そして、3つ目は「石破首相の退陣」だ。すでに自民党内には石破首相に対する不満が充満している。保守層が離れ、若年層のハートもつかめていない現状にいら立ちを隠せない議員は少なくない。仮に参院選での議席数は微減で済んだとしても、退陣論が噴出することも予想される。
旧安倍派の多くは「退陣論」に傾くことも予想
基本的には首相(自民党総裁)は自ら辞めると言わない限り退陣させることは難しいのだが、両院議員総会などで退陣論が相次ぐことになれば「数の力」で続投の道を塞がれる可能性もある。そこで重要なプレイヤーとなるのが岸田氏なのだ。旧岸田派は解体されたとはいえ、かつての派閥メンバーはいまだ友好関係にある。「数の力」はすなわち、議員をいかに束ねることができるのかを意味し、石破首相は旧岸田派の協力を失えば一気に政権運営が立ち行かなくなる。
石破首相と距離がある旧安倍派の多くは「退陣論」に傾くことも予想されているところだ。高市早苗元経済安全保障相の登板を期待する声もあがる。旧安倍派の動きに旧茂木派などが加われば、石破退陣論は高まることだろう。ポイントは、そこに自民党唯一の派閥として残った麻生派が乗るかどうかだ。派閥が失われたとはいえ、かつての派閥幹部たちが呼吸を合わせれば、石破首相は宰相の座を失う。6月29日の夜に2人だけで首相と向かい合った岸田氏がどの道を選ぶのかは注目すべき点だ。
参院選後も石破首相が続投するならば、少数与党を解消する道は連立枠組みの拡大か、衆院解散・総選挙で自公両党の議席を増やすかしかない。石破氏は総選挙に前向きとされるが、それは一か八かの博打と等しいと言える。やはり、連立拡大が現実的な解なのだ。
今度の参院選は、それだけのインパクトをもたらす国政選挙
逆に石破首相が引きずりおろされるケースでは、次の国会までの時間的制約があるため党員・党友票を加えた「フルスペック」の自民党総裁選は実施が難しく、国会議員票に一部都道府県連票を加えた「簡易型」になることが予想される。その場合では、高市氏や小泉進次郎農林水産相らが有力候補となり得るだろう。今度の参院選は、それだけのインパクトをもたらす国政選挙になるのは確実だ。
2025年はトランプ米大統領による関税政策などに揺れてきたが、下半期も日本の政界は揺れが続きそうである。はたして、それは激震と言えるほどのショックを与えるのか。まもなく、その答えは出る。