バラマキはバラマキじゃない、減税はポピュリズム…窮地・石破政権の支離滅裂!「まともな改革政策はNHK党だけ」と悲しい現実

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 現在、参議院選挙の熱戦が繰り広げられている。今回の選挙戦では、各政党の政策や政治家の発言に対し、有権者がこれまで以上に厳しい目を向ける。特に、与党の石破首相が打ち出す「給付金のバラマキ」とも取れる政策や、消費税減税に対する一貫性のない姿勢は、財政破綻の懸念がある中で大きな矛盾を抱えている。さらに、消費税減税を否定する際に用いられた「お金持ちほど恩恵がある」という論理は、税制議論の根本を揺るがすものであるとの指摘も出ている。

 こうした政治の現状に対し、早稲田大学招聘研究員で国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は、与野党双方の責任を指摘し、特に野党の政策提示の曖昧さや、主要政党のマニフェストが利権団体や役所の要望の羅列に過ぎない点を批判する。渡瀬氏は、現状ではNHK党の公約が最も現実的で改革志向に見えるほど、主要政党が腐敗していると警鐘を鳴らす。本稿では、渡瀬裕哉氏の視点から、今回の参議院選挙で露呈した日本の政治の問題点と、有権者が今後取るべき行動について詳述するーーー。

目次

バラマキはバラマキじゃないってどういうことなんだ

 石破首相の参議院議員選挙の第一声は「給付金のバラマキ」であった。「早く、給付金を届けたい。今年中には生活が苦しいという方々にお金が行き渡るようにします」、そして「決してばらまきでも何でもない」という。

 もはやバラマキとは何かということすら分からない石破首相の第一声には呆れるばかりだ。「日本の財政は破綻したギリシャ並だ」と言いながら、数兆円規模の給付金を支給することの矛盾は甚だしい。仮に石破首相がバラマキという表現が嫌ならば、もはや有権者票の合法的な買収と呼んだほうが適切かもしれない。まさに財政破綻したギリシャがやっていたことそのものだ。

 そもそも石破首相は愚にもつかない地方創生予算を倍増させることを決定しており、財政破綻を懸念する首相とは思えない放漫財政ぶりを発揮している。自らが支持基盤と思っているお友達に今までの倍のお小遣いを配っているのだから、国の財政状況などなんとも思っていないことは明らかだ。マリーアントワネットも驚く振る舞いだ。

 それにも関わらず、消費税減税については「日本の医療、介護、年金は必ず残していかなければいけない」、「その財源を傷つけるようなことがあってはならない」と頑なに拒否している。

石破政権の支離滅裂な言動…「税金を守り抜く」というパワーワード

 石破首相だけでなく、森山幹事長も「消費税を守り抜く」と断固とした姿勢を貫いている。「税金を守り抜く」というパワーワードに目を疑ったことは言うまでもない。

 一過性の給付についてはバラマキではないが、恒久的な減税はポピュリズムでありバラマキである、という詭弁はいい加減にしてほしい。それほど毎年のように予算が苦しいと主張するなら、秋口に追加で組まれる補正予算など金輪際組むべきではないだろう。補正予算に財源の裏付けなど存在していないのだから。

 石破政権の言動は支離滅裂な状況に陥っており、とても政権担当能力があるようには見えない。

 今回の参議院議員選挙に至るまでの間に、石破首相が発した言葉の中で最も驚愕し呆れた発言は、「お金持ちほど恩恵がある」ことを理由に消費税減税を否定するものだった。この発言ほど我が国の政策議論が地に落ちた発言はない。

さぞ、ルサンチマンを刺激するだろう石破発言

 消費税はエンゲル係数の高い低所得者にとって不利な税金とされてきた。そのため、消費税減税は低所得者・無資産者のような人々の生活環境を改善するために役立つことは明らかだ。これは極めて一般的な消費税に関する理解である。

 しかし、最近になって、石破首相ら一部の人々が「お金持ちは消費額が多いため、お金持ちは低所得者よりも消費税を支払う絶対額が多い。したがって、消費税減税はお金持ちに有利なので行わない」という詭弁を弄し、消費税減税に反対し始めた。

 一見すると、この発言はそれっぽいことを言っているように見える。そして、ルサンチマンをさぞ刺激するだろう。しかし、これほど国民を愚弄する発言はない。この発言は税金の増減税の意義を議論する以前の問題だからだ。

 大半の税金はお金持ちのほうが多く支払っていることは常識だ。

 所得税、法人税、固定資産税、相続税などの主要な税金を例に取れば分かる。それらの税金に関して絶対的な支払額を見れば、高所得者・資産保有者は低所得者・無資産者よりも多くの税金を払っている。当たり前だ。そもそも貧乏人のほうが金持ちよりも多額の税金を支払う税制など通常あり得ないだろう。

仮に高所得者や資産保有者が低所得者・無資産者と同じ税額を支払う税金があるとしたら、それは「人頭税」だけである。

首相のトンデモ発言のせいで…

 したがって、上述の石破首相の論理では「人頭税だけが減税しても金持ちが得をしない、減税しても良い税金だ」ということになる。全く馬鹿げた議論であることは一目瞭然だ。

「金持ちの方が低所得者よりも〇〇税支払いの絶対額は多い。したがって、〇〇税減税は金持ちに有利だ」ということを理由に、減税反対を正当化していたら、人頭税以外の全ての税金に関して「減税」という選択肢は無くなるだろう。首相がこのトンデモ発言を堂々と行うのだから、もはや日本にマトモな税制に関する議論など存在していない。

 このような状況に陥った理由は、与党だけの責任ではない。与党が堕落する原因は野党が納得性が高い政治姿勢や政策を打ち出していないからだ。

 本音とは異なる歯の浮くような政策を並べる政党、たとえ何かを打ち出していたとしても肝心の税制に関する姿勢がブレる政党など酷いものだ。特に呆れるのが、政治家が選挙後にどうとでも取れる文言(官僚用語)などが散りばめられた文章を公約として発表しているケースだ。これでは政策に関するド素人の有権者が何を信じて投票して良いのか分からない。その公約文章の真意を分かる人間が読めば、その文章を読むだけで国民を愚弄していることが良く分かる。そして、主要政党のマニフェストの詳細は各種利権団体や役所から寄せられた要望を羅列しただけの内容であり、全く魅力に欠けるどころか、その背後関係まで直ぐに分かるような書きっぷりだ。

主要政党の政策集よりも大胆な改革策を打ち出すNHK党

 このような腐った政治環境の中で、改革志向の有権者らが各種ボートマッチをやってみたところ、SNS上ではNHK党がマッチング上位になったという報告も少なくない。NHK党の振る舞いは滅茶苦茶なところもあるが、最近では国政選挙におけるNHK党の公約で改革路線の政策を打ち出している。例えば「『税金のムダ使い』と『中抜き利権』を徹底追及」「『給料を減らす増税・社会保険料増加』に断固反対」「『お役所の既得権益』に風穴を」といった感じだ。

 そして、意外にも全体としての出来も意外と馬鹿にできないクオリティだ。筆者が見てもNHK党は主要政党の政策集よりも大胆な改革策が打ち出されている。本当に残念であるが、現在の主要政党の有様は腐敗しており、NHK党の公約が最もマシに見えるほどだ。実に嘆かわしいことだと思う。

与党も野党も極めて基本的な説明責任を果たすことすら放棄

 そもそも衆議院で少数与党になっている状態で、参議院議員選挙後の連立の枠組みを示すこともなく有権者に投票させ、選挙結果が出た後に国会議員だけの密談で政権枠組みを改めて決めようとする主要政党の人々が信用できるだろうか。彼らの政策は選挙後の連立の枠組み次第で現在提示している幾らでも変わってしまうだろう。何のために政策を示しているのか、有権者は何を見て投票すれば良いのか。実に馬鹿にしている。

 憲政の常道という常識すら守ろうとせず、自分たちの都合を優先する人間達が国民に提示した公約を守るとは到底思えない。与党も野党も極めて基本的な説明責任を果たすことすら放棄している。

 今回の参議院議員選挙の状況を踏まえて、国民は政治家に対する態度を大きく改めることが必要だ。彼ら政治家に任せていても、まともな政策議論は行われず、政権の枠組みすら示されず、国民は訳が分からないままに投票させられて、「国民が選んだ」という責任だけを押し付けられるだけだ。

 官僚的な詭弁に騙されず、おかしな議論はおかしいと気付き、政治家に対して日常的に監視の目を光らせることが重要だ。今のこの堕落し切った参議院議員選挙の有様は、有権者がサボってきた結果だ。今回、我々がやるべきことは「投票」だけでなく、この状況に対する「反省及び改善」であろう。

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この記事の著者
渡瀬 裕哉

1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 早稲田大学公共政策研究所招聘研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。2016年トランプ大統領当選、2020年民主党による大統領・連邦上下両院勝利を正確に予測し、米国政治に関する分析力に定評がある。『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 』(すばる舎)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)

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