この記事はみんかぶプレミアム会員限定です

ロスジェネ世代が苦しんでいるのは“自分のせい”?雨宮処凛が考えるいま必要な支援とは

(c) AdobeStock

 1700~2000万人にも及ぶとされるロスジェネ世代。しかし作家で反貧困ネットワーク世話人の雨宮処凛氏によれば、「ロスジェネ世代はなかなか連帯して声を挙げない」と話す。その大きな原因となっている「自己責任論」と、いま貧困状態にあるロスジェネ世代に必要な支援について、雨宮氏が掘り下げる。

 みんかぶプレミアム特集「格差社会サバイバル」第11回。

目次

「社会のせいだ」と言えないロスジェネたち

 ロスジェネ世代は、「非正規雇用で結婚も子どもを持てないのも自分のせい」という「自己責任論」を強く押し付けられた世代でもあります。小さいころから「なんでもかんでも社会のせいにするのは卑怯者」と言われてきた、あるいはそのようなメッセージを感じてきた人も多く、自己責任論を内在化してしまっています。

 ただ仮に「社会のせいだ」と言ったところで、世間から「何甘えたことを言っているんだ」とボコボコにされることも分かりきっています。なので、自己防衛のために先回りして自己責任論を口にする側面もあると思います。

 今回の参院選で「日本人ファースト」に多くの人が熱狂したのは、いまの日本の貧しさも大きな原因だと思います。少し前までは「日本は経済大国で、自分たちはお金持ちだ」と思っていたのに、いつの間にか日本経済が衰退して自分たちも没落していたことが、どうしても受け入れられない。停滞や不満、不安の原因を外国人のせいにしてしまえば、自己責任からも逃れられます。

 ロスジェネ世代は、連帯もあまりしません。コロナ禍、困窮者支援団体の相談会には貧困状態に陥ったロスジェネ世代の方もたくさん来られますが、「僕はいま、たまたま家も仕事もないけれど、それは不運が重なっただけ。ここに来ているような人とは違う」といったことを口にする人も少なくありません。

 自己責任が刷り込まれてしまったために、同じような境遇にある人にも厳しい目を向ける。「今報われていない人はすべて本人に落ち度がある」という価値観の内面化です。連帯は、共感できたり尊敬できたりする間柄でしか生まれません。そのために、同じロスジェネ世代で貧困状態にある人同士であったとしても、なかなか連帯が生まれないのです。

ロスジェネ世代は一枚岩ではない

 結果として当事者からなかなか声が挙がらず、「これは社会の問題であり、構造の問題なのだから、みんなでなんとかしよう」という機運も高まりません。もしロスジェネ世代が一致団結して声を上げれば、数が多いのでものすごい力を発揮できると思うのですが、ずっと分断されている。

 ただ、この分断は、誰かが意図して生み出したものではないと思います。なぜなら、日本では市民運動などで社会を変えようとして良くなった経験があまりにも乏しい。その結果、「自分たちには力がある」とほとんどの人が思えない。

 自己責任論のやっかいなところは、ずっと抱え続けるのが厳しいからこそ、バッシングやヘイトなどとセットになっているところだと思います。

 参院選で突如注目された外国人問題もそうですし、公務員バッシングや生活保護バッシング、高齢者ヘイトなどもそうです。「こいつらのせい」としてしまえば、人は束の間、自己責任から解放される。

 またロスジェネ問題の難しさは、一口に「ロスジェネ世代」と言っても、一枚岩ではないところにあります。正社員として就職し、結婚し、子どもを持つロスジェネ世代もたくさんいます。正社員と非正規雇用、既婚と未婚、子持ちと子なし、とこれだけでも6通りあるわけです。ひとつの世代にこれほど多様化したライフスタイルがあるというのは戦後日本でも初めてではないでしょうか。

 ですからたとえば政府が子育て支援を表明した場合に、好意的に受け止める層と「俺たちのほうが大変なのに」と不満を募らせる層の対立が生まれがち。「ロスジェネ=非正規雇用」といった雑な語られ方をすることもありますが、決してそうではありません。まずロスジェネの中にも多様なニーズがあることを知ってほしいと思います。

ロスジェネ支援はみんなが安心できる社会づくりにつながる

 これからロスジェネがどうやって生きていくかを考えたときには、非正規雇用でも独り身でも子どもがいなくても問題なく生きていけるような社会保障制度を整備することが不可欠だと思います。

今すぐ無料トライアルで続きを読もう
著名な投資家・経営者の独占インタビュー・寄稿が多数
マネーだけでなく介護・教育・不動産など厳選記事が全て読み放題

    この記事はいかがでしたか?
    感想を一言!

みんかぶnote
この記事の著者
雨宮処凛

1975年、北海道生まれ。 作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。 著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など多数。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。

政治・経済カテゴリーの最新記事

その他金融商品・関連サイト

ご注意

【ご注意】『みんかぶ』における「買い」「売り」の情報はあくまでも投稿者の個人的見解によるものであり、情報の真偽、株式の評価に関する正確性・信頼性等については一切保証されておりません。 また、東京証券取引所、名古屋証券取引所、China Investment Information Services、NASDAQ OMX、CME Group Inc.、東京商品取引所、堂島取引所、 S&P Global、S&P Dow Jones Indices、Hang Seng Indexes、bitFlyer 、NTTデータエービック、ICE Data Services等から情報の提供を受けています。 日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。 『みんかぶ』に掲載されている情報は、投資判断の参考として投資一般に関する情報提供を目的とするものであり、投資の勧誘を目的とするものではありません。 これらの情報には将来的な業績や出来事に関する予想が含まれていることがありますが、それらの記述はあくまで予想であり、その内容の正確性、信頼性等を保証するものではありません。 これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、投稿者及び情報提供者は一切の責任を負いません。 投資に関するすべての決定は、利用者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。 個別の投稿が金融商品取引法等に違反しているとご判断される場合には「証券取引等監視委員会への情報提供」から、同委員会へ情報の提供を行ってください。 また、『みんかぶ』において公開されている情報につきましては、営業に利用することはもちろん、第三者へ提供する目的で情報を転用、複製、販売、加工、再利用及び再配信することを固く禁じます。

みんなの売買予想、予想株価がわかる資産形成のための情報メディアです。株価・チャート・ニュース・株主優待・IPO情報等の企業情報に加えSNS機能も提供しています。『証券アナリストの予想』『株価診断』『個人投資家の売買予想』これらを総合的に算出した目標株価を掲載。SNS機能では『ブログ』や『掲示板』で個人投資家同士の意見交換や情報収集をしてみるのもオススメです!

関連リンク
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.