金利の上昇=タワマン投資の終わりの始まり?!ローン返済シミュレーションを考える

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「不動産投資」の代表格かのように語られることもあるタワマン投資。ただし、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は、金利の上昇に伴って投資行動に変化が生じる可能性があると指摘する。金利上昇に伴って、タワマンの返済シミュレーションはどのように変化するのか、牧野氏が解説する。全3回中の1回目。

※本稿は牧野知弘著「不動産の教室 富裕層の視点が身につく25問」(大和書房)から抜粋、再構成したものです。

第2回:お金持ちは“2種類”にわけられる……伝統的なお金持ちの「財産を守る」不動産の持ち方とは

第3回:タワマンは短期で転売せよ!投資マネーが流れ込んでいるタワマン投資の落とし穴

目次

何%の利回りで満足できるか?

 不動産に投資する場合、当然儲けようと思って投資する人が大半です。

  では、不動産で儲けるためには、どんな点がポイントになるのでしょうか。それは次の2点に尽きます。

①十分な賃料を確保できる(インカムゲイン)
②売却するときに満足な売買益が見込める(キャピタルゲイン)

 ①のインカムゲインのポイントは、毎月手に入る賃料収入が高額で安定していることです。投資利回りという場合、年間利回りは年間賃料÷不動産価格(投資額)で計算されます。 

 ではどのくらいの利回りを得ることができれば、投資家は満足するのでしょうか。これを期待利回りといいます。利回りは「得られると期待する賃料収入」と「リスクとの見合い」で判断されます。 

 たとえば、国債に投資する場合、日本国というおそらく最も信頼のおける対象が発行する債券を買うことになり、リスクは極めて小さいと判断されます。

 国債の金利のことをリスクフリーレートと呼びます。 

 投資にあたってはこのリスクフリーレートから、どのくらいの金利(これをリスクプレミアムと呼びます)を上乗せすればリスクが小さく、満足できるかということになります。

 たとえば2025年5月23日時点の10年物日本国債レートは1.525%です。これに対して、例えば東京都心部の不動産投資利回りは、この時点でおおむね3%前半から半ばで取引されています。 

 ということは多くの投資家が、国債レートに1.5%から2%のリスクプレミアムを乗せて投資を行っているということになります。 

金利上昇は投資家にとってネガティブ

 ところが世の中がインフレ傾向になって政策金利が上昇すると、国債金利が上がります。すると、これまで3%で投資してもリスクが少ないと思っていた投資家も、4%程度の期待利回りにしないとリスクが大きいと考えるようになります。

 期待投資利回りである4%を実現するためには、賃料が上がるか、物件価格が下がらなければ、4%にはならなくなります。

 つまりベースレートである政策金利を引き上げるということは、投資家にとってはそのぶんリスクが高まったことになります。 

 このリスクについて、期待利回りを上げることによってこれを回避しようと考えるわけです。 

 また、②のキャピタルゲインを得るために物件を売却するにあたっても問題はあります。

 これまで3%の利回りでも喜んで買ってくれていた投資家が、4%でしか振り向いてくれなくなるということは、賃料上昇がない限り、物件価格を下げて売らざるを得なくなるわけです。

 投資は多分にムードに左右されると言われます。その意味で金利が上がるということは、投資家にとってはネガティブな風が吹くことになります。

 金利についてあまり考えずにすんできた世の中では「上がったといっても上げ幅はわずか」だとか「影響はない」などと考えがちですが、投資の世界では、「場が変わる」と言います。 

 つまり金利上昇が号砲になって、投資家の考え方や投資行動が変わる可能性が出てくることです。具体的にみていきましょう。 

金利上昇の怖さがわかる、タワマンのローン返済シミュレーション

 湾岸タワーマンションは昨今、人気を博しています。

 ただ、その実態をみると、必ずしも実需として買われているわけではなく、投資家や節税目的の方に買われています。

 では、ある物件を例に、湾岸タワマンの投資性能を見極めていきましょう。 

 築8年の物件です。分譲当時の価格は坪あたり350万円。専有面積25坪(約83㎡)で総額8750万円です。この物件を賃貸に出すと現状でおおむね坪あたり1万5000円(月額37万5000円)が上限です。坪あたり年間賃料は18万円ですから投資利回りは5.14%。まずまず満足できる利回りです。

 ところがこのマンションの最近の相場は坪600万円から650万円です。 

 総額で1億5000万円から1億6250万円になります。賃料相場が変わらないとすれば、利回りは2.77%から3%(シミュレーション:A)に下落します。最近の都心立地の不動産投資利回りが3%程度というのはこうした状況をいいます。

 しかし、今後政策金利が上昇し、リスクフリーレートが上がる、リスクプレミアムを現在と同じか、やや手厚くしておく(将来的にもっと金利が上がると仮定)ことを考えるならば、4%は確保しておきたいと投資家は考えます。

 賃料が変わらないとすれば、坪あたり450万円、総額1億1250万円で買わないと期待利回りに合致しないことになります(シミュレーション:B)。

 坪600万円、1億5000万円で買って利回り4%を確保するためには、賃料が坪あたり2万円、月額50万円必要ということになります(シミュレーション:C)。ここが考えどころになります。 

 つまり、現状坪あたり1万5000円の賃料相場が早晩2万円になると確信が持てないと、坪600万円で手を出してはいけないという結論になります。

 いやいや相場はまだまだ上がると勢いで煽る人がいますが、坪650万円で2.77%、700万円で2.57%。リスクフリーレートとの差であるリスクプレミアムがどんどん縮まります。 

 金利が上がるということはローン金利も上がるわけですから、投資としては何をやっているのかわからないような状態になってしまいます。

 さらに悲惨なことになるのは、期待利回りが6%に上がってしまうと、賃料が変わらない場合には坪単価300万円(7500万円)の価値しかないという逆ザヤ状況に陥ります(シミュレーション:D)。

 これが金利の持つ「恐ろしさ」なのです。

 さて今、勢いだけで坪600万円で湾岸タワマンに手を出してしまった方にとっては、運用利回りは低すぎて、今後の金利上昇に耐えられない。さりとて、同じ価格では新たな投資家には売れない。自分がローンを負担してずっと住み続けるか、「この価格でもどうしても住宅が欲しい」というパワーカップルさんたちのような投資素人の方たちに(なかば騙して)売れるかどうかになります。 

「相場が上がる、期待利回りは低くても大丈夫」としてきた循環に、いざ逆回転が始まるとき、それは過去の歴史を振り返っても「政策金利の引き上げ」が号砲になっているケースが多いのです。

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この記事の著者
牧野知弘

不動産事業プロデューサー。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)など多数。

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