「私だけは他人の意見に流されない」と考える人ほど実は影響を受けやすい……学歴や収入が高い人ほど要注意?!

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 社会にはさまざまな情報が溢れており、中には陰謀論のように根拠が乏しい情報も少なくない。“怪しい”情報に触れたとき、おそらく多くの人は「自分は引っかからない」と思うことだろう。しかしサイエンスライターの鈴木祐氏は、そのように考える人ほど「実際には他人からの影響を受けやすい」と話す。人はどのように情報の影響を受け、中でも影響を受けやすいのはどういった人なのか。鈴木氏が解説する。全3回中の第1回。

※本稿は鈴木祐著「社会は、静かにあなたを「呪う」: 思考と感情を侵食する“見えない力”の正体」(小学館クリエイティブ)から抜粋、再構成したものです。

第2回:「日本は生産性が低い」と批判する人が見えていない、「生産性」の本質とは

第3回:日本人の格差は開いていない!“格差の実態”が見えていない本当の理由

目次

誰しも他者からの影響を受ける

 知らぬ間に多くの人が常識のように主張し、よくも悪くも私たちの考え方に影響をおよぼす──そんなメッセージを、ここでは“呪い”と呼ぶ。

 たとえば、こんなフレーズを見聞きしたことはないだろうか?

「日本は終わっている」
「ただ好きなことをやればいい」 
「成長や競争から逃げよう」  

 このような主張を、そのまま信じる人はまずいないはずだ。いずれの言葉も威勢だけはいいものの、実際には個人の感想でしかないことが多いし、定義すらさだかでないケースが大半を占める。ある程度の真実は含むとしても、「鵜吞みにできない」と思う人がほとんどだろう。  

 しかし、私たちは他者からの影響に弱い。信頼する仲間やインフルエンサーから日々同じメッセージを受け取っていれば、知らずのうちに影響を受けてしまうのが人間だ。  

その意見、本当にあなたの意見ですか?

 そこで、いったんテストしてみよう。先を読み進める前に、以下の二つの質問の答えを考えてほしい。

1、他者の意見が“伝染”した人の例を、5人以上思いつくことができますか?知人でも著名人でも、構いません。
2、その思い浮かんだ人のなかに、あなた自身は含まれていましたか?  

 もし一問目で“伝染”した人の例を5人以上思いつき、そのなかに自分自身が入っていなかった場合、あなたはすでになんらかの〝呪い〟にかかっている可能性が高い。  

 世の中には他者の意見に流される人が多いが、私は違う──。  

 そんな風に考えることが多い人ほど、実際には他人からの影響を受けやすいケースが多いからだ。  

 このような状態を、心理学では「他人事効果」と呼ぶ。SNSやマスメディアがもたらす影響を、あたかも他人事のようにとらえてしまう心理のことで、「みんなSNSやテレビのメッセージに左右されすぎだ」と心配する一方で、「自分はメディアに踊らされたりはしない」と考えるのが典型的な例だ。

「他人事効果」はほぼすべての人に見られる心理で、実際には他者から影響を受けていても、私たちの大半はその事実に気づくことができない。そのせいで、本当はインフルエンサーの真似をして服を買ったり、SNSの意見に流されて「最近の若者は優しすぎる」や「副業しないとまずい」などと考えたりしたはずが、それを純粋に自分の意志だと思い込んでしまう。  

 この現象は1980年代から研究が進められており、社会学者のフィリップス・デイヴィソンは、大勢のジャーナリストにインタビューを行い、新聞の社説が読者に与える影響力を予想するように指示した。すると、ほとんどのジャーナリストは「私は社説に影響されないが、普通の読者は社説に考え方を左右されるだろう」と答えたという。

 また、9150人のギリシャ人を対象にした研究でも、SNS、テレビ、新聞など、どのようなメディアでも、大半の参加者は「すべての人はバイラル化した記事やサイトの影響を受けるが、自分にはなにも影響しない」と回答している。

「トイレットペーパーは不足しない」と考えた人ほどトイレットペーパーを買い占めた

  もうひとつ興味深いのが、2020年の春にコロナ禍でトイレットペーパーの買い占め騒動が起きた事例だ。「トイレットペーパーが不足する」との誤情報がネットを駆け巡り、瞬く間に全国の店舗から在庫が消えたのは、いまだ記憶に新しい。  

 この事件を聞いたとき、あなたはどのような感想を抱いたか覚えているだろうか? 

「やはりみんなネットのデマに弱いのだ」 
「フェイクニュースに弱い人ばかりだ」  

 もしこのように思ったなら、あなたはすでに「他人事効果」の影響下にある。なぜなら、商品の買い占めとは、「この情報は誤りだ」と気づいた人によって引き起こされる現象だからだ。  

 放送文化研究所が4000人にアンケートを行い、以下を報告している。 

●「トイレットペーパーが不足する」という噂を見聞きしたことがある人は、全体の61%にのぼった。 
●実際にトイレットペーパーの買いだめをした、あるいはしようと考えた人の半数以上は、「噂は誤りだとわかっていたが、多くの人が買いだめをするせいで、在庫が不足すると思った」と答えた。 

 注目すべきは、「誤りに気づいたからこそ買い占めに走る」という心理だ。つまり、買い占めを行った者の大半は、「自分はこの情報が間違いだとわかっているが、他の人たちはこの噂を信じるだろう」と考え、そんな思考の連鎖が全国的なパニックにつながったわけだ。

  似た事例は他にも多く、「テレビの広告は自分には関係ない」と考えながらも「他の人たちはCMに踊らされている」と信じ込むケースや、センセーショナルな報道を見て「自分は冷静に判断できるが、他の人たちはすぐにだまされるだろう」と考えるケースなどが確認されている。どれも現代ではおなじみの光景だろう。 

“高スペック”な人ほど要注意

「他人事効果」から逃れられる人はほぼいないが、なかでも特に影響を受けやすい人がいることもわかっている。次の特徴を持つ人は要注意だ。

1、教育水準が高い:高い教育を受けた人は、他者のほうがメディアの影響を受けやすいと考える傾向がある。これは、彼らが自身の批判的な思考力を高く評価し、他者を過小評価しやすいのが原因だ。 

2、専門知識を持っている:特定の専門知識を持つ人は、メディアの情報に対して「他者のほうが影響を受けやすい」と認識しやすい。自身の知識に自信があるため、他者の理解力を低く見積もるからだ。 

3、年齢が高い:年齢が高い人(40代以上)ほど、若年層(10~20代)よりも「他者はメディアの影響を受けやすい」と考える。経験や知識の蓄積によって、自身の判断力をより信頼しやすくなるようだ。 

4、社会的地位が高い:社会的地位が高い人も、他者のほうがメディアの影響を受けやすいやすいと考える傾向がある。自身の地位に自信があるため、他者の能力を過小評価するのが原因とされる。 

5、自己評価が高い:自己評価が高い人は「自分はメディアの影響を受けない」と考えやすい。このタイプは「成功は自分のおかげだが、失敗は他人のせい」と考えやすく、そのせいで、メディアの影響についても「他人は簡単に流されるが、自分は理性的に判断できる」と思い込んでしまう。  

 これらの知見をふまえたうえで、企業経営コンサルタントのフィリップ・アドコックは、次の発言をしている。 

「多くの買い物客は、自分が広告の影響を受けているにもかかわらず、影響を受けていないと考える。しかし、これは私たちにとってはポジティブなことだ。常に新しいマーケティングの手法を考え出す必要はなく、過去に試行錯誤を重ねてきたものが、今でもほとんど有効だと言えるからだ」  

 顧客を馬鹿にするような表現にいらだつ人もいるだろうが、他者のメッセージが私たちの行動を左右しているのは紛れもない事実ではある。繰り返しになるが、人間とは、3人から同じことを言われるだけでも間違った情報を受け入れてしまう生き物だ。そんな私たちの姿は、呪術や迷信に縛りつけられた古代人のそれと、なんら変わりがない。

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この記事の著者
鈴木祐

サイエンスジャーナリスト。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒。16歳のころから年間5,000本の科学論文を読み続け、「日本一の文献オタク」とも呼ばれる。大学卒業後は出版社に勤務し、その後独立。雑誌などへの執筆を行う一方で、海外の学者や専門医を中心に約600人にインタビューを重ね、月に1冊のペースでブックライティングを手がけている。これまでに関わった書籍は100冊を超える。自身のブログ「パレオな男(http://yuchrszk.blogspot.com/)」では、健康・心理・科学に関する最新知見を紹介し続け、現在は月間250万PVを記録。近年はヘルスケア企業を中心に、科学的なエビデンスの見極め方などを伝える講演活動も行っている。近著に『最強のコミュ力のつくりかた』(扶桑社)、『才能の地図』(きずな出版)、『運の方程式』(アスコム)などがある。『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)は20万部を突破。

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