やばいぞ来週終わる!ふるさと納税が9月でポイント付与終了「制度で損するのはこんな人」…高まる駆け込み需要に「最後のチャンスだ」

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 庶民のひそかな楽しみとなってきた「ふるさと納税」が10月から変わるのをご存じだろうか。2008年5月にスタートした制度自体は存続するものの、寄付に応じて得られてきた仲介サイトのポイント付与が禁止されるのだ。返礼品や節税に加え、ポイント獲得を期待してきた人々からは嘆きの声が漏れる。経済アナリストの佐藤健太氏は「たしかにポイント競争は過熱してきた面があるが、いちいち国が規制するのはいかがなものか。高まっている『駆け込み需要』は行政への反発とも映る」と指摘するーー。

目次

ふるさと納税で東京都の減収額は計1兆円を超す

 自分の故郷や思い出の地域など、好きな自治体に寄付できる「ふるさと納税」は2008年5月にスタートした。人口減少に伴う自治体の税収減や地方創生を目的に創設された制度で、毎年1月1日から12月31日まで年間を通じて寄付することができる地方応援の形だ。好きな自治体に寄付することで所得税や住民税の「節税」ができ、さらに返礼品までもらえると利用者は増えてきた。

 利用者は2020年度に約400万人となっていたが、2022年度には約740万人にまで拡大。2024年度、全国の自治体には過去最高の約1兆2728億円が寄付された。総務省が今年7月末に発表した「ふるさと納税に関する現況調査結果」を見ると、2024年度のふるさと納税受け入れ件数は約5879万件に上る。住民税の控除を受ける人は約1080万人で、2009年度の3万人程度と比べると爆増してきた。

 住民税の控除適用者数が最も多いのは、東京都の約200万人が最多だ。2位は神奈川県の約104万人、3位は大阪府の約89万人、4位は愛知県の約78万人、5位は埼玉県の約68万人と続き、大都市圏に多いことがわかる。制度がスタートしてから東京都の減収額は計1兆1593億円にも達している。

 逆に、ふるさと納税受入額が多いのは兵庫県宝塚市の約257億円がトップで、2位は北海道白糠町の約212億円、3位は大阪府泉佐野市の約182億円となっている。全体の寄付額である1兆2728億円に対し、ふるさと納税の募集に要した費用は自治体財源が6826億円と53.6%を占め、「返礼品」は3208億円(25.2%)、「事務所費等」1676億円(13.2%)だった。

ポイント還元という「箸の上げ下ろし」まで規制する必要あるのか

 総務省は「自治体を応援する」という本来の趣旨に沿っていないとして、返礼品の上限を寄付額の3割以下とするようルールを厳格化したり、寄付額に占める経費の割合を5割以内に抑えたりする見直しを図ってきた。加えて、昨年6月末には「寄附に伴いポイント等の付与を行う者を通じた募集を禁止すること」と告示し、今年10月1日から寄付額に応じて得られてきた仲介サイトのポイント付与が禁止されることになった。

 村上誠一郎総務相は9月9日の記者会見で「ポイント付与で寄付者を誘引するポータルサイトなどが利用され、付与率に係る競争が過熱化することが、ふるさと納税の趣旨に則った適正なものとはいえないことから、いろいろな方の意見も聞いた上で実施することにした」と説明している。だが、これに仲介サイト側が反発するのは当然だろう。

 ポイントを付与するサイトを運営する楽天グループのトップは今年3月、約295万件の反対署名を政府に提出。7月には同グループが決定の無効確認を求める訴訟に乗り出した。だが、9月16日に東京地裁で開かれた第1回口頭弁論で国側は訴訟要件を満たしていないとして却下を求めるなど、平行線のままだ。たしかに、ふるさと納税制度の趣旨はわかるにしても、国民が楽しみにしてきた返礼品や節税、ポイント還元という「箸の上げ下ろし」まで行政がとやかく言う点は理解に苦しむものだ。

改めて、ふるさと納税のシステムは…

 あらためて制度をおさらいすると、ふるさと納税は寄付した合計額から2000円を差し引いた分がすでに納めた所得税と翌年納める住民税から控除される。控除の上限額は給与収入(年収)や家族構成などによって異なる。

 年間上限の目安は給与収入300万円で独身の人は2万8000円以下のふるさと納税であれば自己負担額は2000円。年収450万円の共働き(配偶者控除の適用を受けていない人)は5万2000円、配偶者に収入がない夫婦で年収1000万円の人は17万1000円となっている。所得税からの控除は「寄付金額―2000円」に所得税の税率(0~45%)をかけて計算され、年収600万円で配偶者と17歳の子供1人を扶養している人のケースを見ると上限額は6万円が目安となる。自己負担である2000円を差し引いた分が所得税と住民税からの控除・還付対象で5万8000円が控除され、所得税(年収600万円の人は10%)は約6000円還付されることになる。

ふるさと納税制度でお得な人は「高収入」で、「共働き」

 住民税からの控除は「基本分」と「特例分」の2つ。「基本分」の計算式は、「寄付金額―2000円」×10%で、この場合の上限額6万円から2000円を差し引いた5万8000円に10%をかけた分の5800円が控除される。もう1つの「特例分」は、この場合に「寄付金額―2000円」×「90%―所得税率×1.021%」で決まり、住民税から4万6200円が控除される。2つを合計すると約5万2000円の控除だ。収入や家庭の状況によって控除・還付される額が異なるため、心配な人は事前に自治体や税務署に確認すると良いだろう。

 ふるさと納税制度でお得な人は「高収入」で、「共働き」の人だ。寄付の上限額は先に触れたように年収が多い人ほど高くなる。年収2500万円の独身の人は年間上限85万5000円が目安で、それぞれで所得税や住民税が課税されている共働き夫婦であれば2人とも寄付し、それぞれ控除を受けることができる。高収入のパワーカップルがフル活用すれば、そのメリットはとても大きい。

逆に損してしまうのは……

 逆に「損」をしてしまう人は、「年収200万円以下」の人だ。収入が少なければ上限額が低くなるため、場合によって返礼品が自己負担額の2000円より安くなる場合がある。税金の控除が反映されるのは寄付した翌年の6月以降のため、手元のお金が少ないにもかかわらず「返礼品がもらえる」「お得な制度だから」という理由で多くの寄付を続けると、気がついたら生活費が足りない、実は損をしていたということになりかねない。

 もちろん、節税だけでなく、寄付した自治体から寄付金額の3割相当にあたる返礼品を受け取ることができる点も大きな魅力だ。仮に5万円をふるさと納税で使ったとしても、1万5000円程度の返礼品が届くのであれば喜んで応援する自治体を探したくなるというものだろう。さらに近年は仲介サイトのポイント付与が競うように行われ、寄付額に応じて数十%のポイントが獲得できる状況にあった。返礼品、節税、ポイント付与という3点セットは庶民のひそかな楽しみの1つだったと言える。その一角であるポイント付与が9月末で終了されてしまうのは残念でならない。

「最後のチャンス」とばかりに高い還元率キャンペーン

 仲介サイトは9月、「最後のチャンス」とばかりに高い還元率のポイント付与キャンペーンを展開している。いわば「駆け込み需要」に狙いを定めたものだ。庶民も大規模キャンペーンを逃すまいと寄付する動きが広がっている。たしかに自治体が仲介サイトに払う手数料は決して低くはないものの、過剰な規制があれば制度自体を揺るがしかねない。国、自治体、仲介サイトには「国民」のために何が最も望ましいのかを優先した改善策を望みたい。

 ポイント付与終了は、ふるさと納税の魅力の一つを奪う形となり、駆け込み需要が高まっている現状は、国民の制度に対する不満の表れとも読み取れる。本来の目的である地域活性化を損なわないよう、国、自治体、そして仲介サイトは、国民にとって真に有益な制度のあり方を再検討し、バランスの取れた改善策を模索する必要があるだろう。過度な規制は制度の萎縮を招きかねず、国民の期待に応えるためには、より柔軟な視点と対話が不可欠だ。この機会に、ふるさと納税がより多くの国民に支持され、地方創生に貢献できるような、持続可能な制度設計が求められている。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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