高市早苗の人気が急落「怒ってみせるだけ…外国人対策に具体性ゼロ」あれだけ騒いだ消費税減税はどこへ消えた?コロコロ意見を変える姿勢

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 日本テレビが独自に行った調査によると、自民党員が最も支持した総裁選候補者は小泉進次郎氏の32%で、2024年の総裁選で党員・党友票の獲得数でトップだった高市早苗氏は28%で2位だった。また日テレの調査によると、2024年の総裁選で石破茂現首相に投票した人の41%は小泉氏を指示し、高市氏は、21%で2位の林芳正氏に次ぐ3位で11%だった。こうした調査などから、選挙選で高市氏が苦戦している様子を各メディアが報じている。政治ジャーナリストの田崎史郎氏はBS番組で高市早苗氏の推薦人集めについて「かなり苦労したんだろう」と述べた。一体なぜこんなことが起きているのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「高市氏の愛国的な主張は、国民の不安や不満に寄り添う形をとりながら、実際には政府の権限を拡大し、社会や経済に対する統制を強める方向へと向かっている」と指摘する。小倉氏が詳しく解説するーー。

目次

高市氏を支持する声が小さくなるのは当然の帰結

 昨年の総裁選と比べて、高市早苗氏の人気が落ちている現状には複数の要因が考えられる。

 自民党全体の支持基盤の変化、高市氏自身の政策提言における具体性の欠如、愛国心を前面に出すスタイル、これらが複合的に絡み合い、支持離れを引き起こしている。特に、これまで高市氏を支えてきた岩盤保守層の動揺は深刻な問題である。

 まず、自民党の組織力の低下は看過できない。NHKニュースは、2025年9月の自民党総裁選挙における党員数が前年比で大幅に減少した事実を報じた。投票権を持つ党員らは全国で91万5574人となり、去年の総裁選挙から14万265人も少なくなった。この急激な党員減少は、単なる組織運営の問題ではない。地方組織が維持してきた補助金ビジネスの見返りを期待する層や、議員個人の人間関係で入党していた層が減っただけでは説明がつかない。

 この現象の背後には、自民党を思想的に支持してきた「意思ある保守層」の離反が存在する。長年の自民党支持者たちは、現在の党運営や政策に対して失望感を抱き、党員であり続ける意味を見失い始めている。愛国的な立ち位置を強く打ち出す高市氏の支持基盤は、まさにこの層と重なる。自分たちの理念を代弁してくれると期待した人々が自民党から離れていく現状は、高市氏の求心力が低下する直接的な原因となる。支持母体自体が縮小すれば、高市氏を支持する声が小さくなるのは当然の帰結である。

 次に、高市氏自身が支持を失う大きな理由となっている。

おかしな点が出てくる…高市氏の問題点を象徴する立会演説会

 9月22日に行われた自民党総裁選挙の立会演説会での発言は、高市氏の問題点を象徴している。演説は愛国的な感情に訴えかける言葉で満ちており、日本の伝統や公平を重んじる姿勢は高く評価できる。日本の価値観を守りたいという熱意は非常によく伝わってきた。

 しかし、具体的に高市政権で何が起きるかを考えると、おかしな点が出てくる。

 演説の冒頭、奈良公園のシカや神社の鳥居を例に出し、一部の外国人観光客のマナー違反を問題視した。伝統を守るために体を張るという決意表明は、多くの日本人の感情に響くだろう。しかし、これだけでは感情論に過ぎず、具体的な対策は何も示されていない。これは、外国人政策をゼロベースで考えるという発言も、聞こえは良いが、具体的にどのような制度を構築するのか全く不明だ。

 インバウンドでは多くのサービス業が外国人によって潤っていて、日本の株式市場の30%は外国投資家だ。私も、外国人によって起きる国民感情との軋轢には心を痛めているが、ではどうするのか。高市氏の発言は、SNSで話題になりそうなことをゼロベースで見直すと言っているだけのように聞こえてしまう。

大事な論点であってもコロコロと意見を変える

 どうして、高市早苗氏の発言を疑わないといけないというと、大事な論点であってもコロコロと意見を変えてきたからだ。例えば、消費税減税についての発言の変遷だ。

「(消費税減税ができないのかという問いに対して)あの日本ほど国民負担率が低い国っていうのはなかなかないです」(2022年6月19日、日曜討論)と発言。高市氏はかつて、月刊誌や自身の著作、発言などにおいて、50万円以上の金融所得に対する課税を20%から30%に引き上げる増税案や、企業が保有する現預金への課税の導入、炭素税などに言及。17年の衆議院選挙候補者アンケートでも消費税率10%への引き上げに「賛成」していた。

 2022年12月12日付の朝日新聞の記事『高市氏「覚悟はもって申し上げている」 防衛増税で首相に反論の全容』には、高市氏に直接、防衛増税反対の真意を問いただした内容が詳しく掲載されている。長くなるので詳細は、原文を読んでほしいが、要約すると以下のようになる。

言いがかりや難癖をつけるのに近いものを感じる過去発言

(1)高市氏が驚いたこと

→国家安全保障戦略の全文を見せてもらっていないのに、財源の話が出てきたこと。

(2)高市氏が疑問に思ったこと

→順番。具体的に国防力の何を強化するのか、いくらかかるのかを報道や首相の記者会見で知った。

(3)高市氏は増税に反対なのか

→国民へ一つ一つ順を追って説明をして「じゃあ、みんなで負担しようよ」ということになることが大事。

 非常に巧みな論法だが、結局のところ増税に反対など一度もしていない。防衛政策の全貌の共有について、自分が先でなく、記者会見や報道が先になったことにご立腹だったということだ。はっきり言って、言いがかりや難癖をつけるのに近いものを感じる。

 今年に入ってからは、消費税減税を言い出した。

 5月13日虎ノ門ニュースに出演し、「賃上げのメリットを受けられない方々にも広くメリットがあるのは、食料品の消費税率ゼロだと確信していた。かなりがっかりしている」。5月17日には「(消費税減税に否定的な見解を示した石破茂首相の国会答弁を受け)私たちの敗北かなと思っている」(札幌での講演)と指摘している。

消費減税やる気がないのは見え見え

 しかし、9月19日には「消費減税は時間がかかると言われ、その時はホンマかなと思っていたが、よくよく調べると、レジのシステム改修などに1年くらいはかかる。物価高対策としては即応性がないと思った」などと、これまでと全く違う指摘を言い出した。レジ改修に時間がかかるというのは、石破政権が主張する根拠の弱いもの(食料品店の店主たちが口を揃えて「すぐできる」と指摘)であることはこれまで知られている事実であるが、総裁選を前にして、突然の主張変更である。石破政権と一緒の立ち位置になったーー有権者をどこまで愚弄する気なのだろうか。

 今度は、言い訳するかのように「消費税減税を排除しない」(チャンネルくららでの発言)などと言い出したが、やる気がないのは見え見えだ。

 演説における、女性登用の推進に関する発言も問題が多い。機会の平等を謳い、能力のある女性をこれまでよりはるかに多く選ぶと主張する。これは能力主義を装いながら、実態は政府による人事への介入を強めることに他ならない。民間企業や社会が持つ本来の多様性や自律的な判断を無視する姿勢である。

経済成長への明確な道筋を示さず

 男性も女性も総力を結集するという理想論は美しい。しかし、冷静な分析に基づく政策ではなく、感情的な共感に頼ろうとする姿勢が透けて見える。

 最も不誠実なのは、経済政策をほとんど語らない点である。日本の経済を伸ばす方法なら詳細に話せると述べながら、総裁選の演説では一切具体的な内容に触れなかった。経済成長は国民の生活に直結する最重要課題である。経済政策のビジョンを示さずに国のリーダーを目指す姿勢は、国民に対する責任を放棄していると見なされても仕方がない。

 高市氏の愛国的な主張は、国民の不安や不満に寄り添う形をとりながら、実際には政府の権限を拡大し、社会や経済に対する統制を強める方向へと向かっている。自由な個人や企業の活動を制約し、国全体の活力を失わせる危険性を内包している。

 国民が政治に求めているのは、情緒的な言葉による共感ではない。生活を豊かにし、未来への希望を持てるような、具体的で実効性のある政策である。経済成長への明確な道筋を示さず、コロコロと中核的な主張において態度が変わる高市氏の姿勢は、多くの人々から支持を得られなくなっている。

 現状のままでは、失われた人気を回復するのは極めて困難であろう。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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