恐怖…厚労省の年金”悲観的シナリオ”に「むしろ現実味が…」元議員秘書が指摘!あなたはいくらもらえるのか

年金制度問題は今年の参議院選挙でも大きな争点となった。札幌テレビの報道では「7月20日の参議院選挙。争点のひとつは“年金制度改革”である」「将来的に年金の支給額は減ってしまうことが懸念されている」と伝えられた(STVどさんこ選挙2025)。TBSニュースでも「年金だけで食えるかって言ったら…」という見出しで年金不安が取り上げられている(TBS NEWS DIG)。しかし、コラムニストの村上ゆかり氏は「若者の多くは年金制度を詳しく知らない。そもそも、年金制度は複雑でわかりにくい」と指摘する。知らないがゆえに、ただ漠然と「自分は本当に年金を受け取れるのか」「制度は大丈夫なのか」という不安を抱いている者も少なくないだろう。年金制度は国民の生活に直結する重要な問題である。村上氏が詳しく解説していくーー。
目次
社会の変化に伴って変わってきた年金制度
日本の年金制度の起点は1961年の国民皆年金制度である。すべての国民を年金制度に加入させ、高齢期の貧困を防ぐことを目的に導入された。戦前には軍人や公務員向けの恩給制度や一部の職域年金が存在したが、全国民を対象とした仕組みは1961年が初めてだった。制度創設当時は高度経済成長の時代で経済成長率も高く、人口構造も若く、拠出と給付のバランスを取る余地が十分にあると判断された。
1970年代後半から少子化と高齢化が本格的に進み始め、年金を支える現役世代の比率が徐々に下がった。この時期、将来の財政悪化が見込まれるようになり、1980年代以降に段階的に保険料率を引き上げる制度改正が行われた。1990年代に入ると、バブル崩壊によって経済成長率が低下した。賃金の伸びも鈍化し、従来のように保険料収入が自然に増える環境が失われた。
1994年の年金制度改革では、将来の支給開始年齢を引き上げる措置が決定された。男性の厚生年金支給開始年齢を60歳から65歳に段階的に引き上げる改革がその典型である。2000年代に入ると、非正規雇用の増加が顕著になり、厚生年金に加入しない層が増えたことで保険料収入が伸び悩み、制度維持が困難になっていく。2004年の年金制度改革では、給付水準を自動的に抑える仕組みである「マクロ経済スライド」が導入された。これは「人口減少や賃金停滞に合わせて年金額を少しずつ減らす」という仕組みである。
そして税金が大量に投入される今の形に
2009年になると、基礎年金の財源不足が深刻化し、基礎年金の国庫負担割合を従来の3分の1から2分の1に引き上げる措置がとられた。つまり、国の税金を大量に投入して制度を支える形になった。2014年にはこの国庫負担2分の1が恒久化され、税補填が制度の一部として現在も固定化されている。
今の年金制度は、どう評価できるだろうか。自分が将来どれくらい年金を受け取れるのかを知るためのツールとして、厚生労働省の「ねんきん定期便」と「公的年金シミュレーター」がある。
ねんきん定期便には、直近1年間の国民年金・厚生年金の加入状況や累計保険料納付額、納付実績に基づく年金支給見込額等が記載されている。ねんきん定期便に記載されている内容は、あくまで「あなた自身が支払った保険料の記録」と「それに基づく年金見込み額」であり、労使折半の会社負担部分である、事業主負担分の金額は記載されていない。ねんきん定期便に記載される金額は本人負担分のみで、事業主負担分は注釈に説明があるのみで、具体的な金額は示されていない。しかし実際には、会社(事業主)も同額を負担している。たとえば厚生年金保険料率が18.3%なら、本人負担が9.15%、事業主負担が9.15%である。ねんきん定期便には「自分が納めた分」しか載らず、「会社が負担した分」は金額が明記されず見えにくい仕組みになっている。この「事業主負担が見えにくい」ことが、国民の負担感を過小評価させる一因になっている、と一部の専門家から指摘されている。
表に出にくい「年金の事業主負担」
この表に出にくい「年金の事業主負担」を含めると、我々国民の実効的な負担は大きくなる。厚労省「社会保障給付費 2022年度予算ベース」によれば「保険料74.1兆円(58.7%)、公費52.0兆円(41.3%)」のうち「被保険者拠出39.3兆円」「事業主拠出34.8兆円」と明記されている。会社が負担しているとされる34.8兆円は、統計上、財務省の国民負担率の負担に含まれている。経済学上でも、事業主負担は賃金抑制や雇用調整を通じて労働者に転嫁されると考えられている。
つまり、厚生年金などで「労使折半」とされる負担は、実際には労働者が全体を背負っていると理解すべきである。見かけ上は会社が負担していても、その分だけ賃金が上がらなかったり、雇用条件が抑えられたりするためである。
会社負担でも、実質的には国民が背負う負担
したがって、年金制度が払い得か払い損かを考える際には、本人が支払った額だけでなく事業主負担分も含めて計算に入れるのが妥当である。日本労働政策研究・研修機構の太田聰一は「介護保険導入後、人件費増を賃金抑制や雇用調整で手当てした可能性がある」と指摘している。「年金の事業主負担」は、見た目は会社負担でも、実質的には国民が背負う負担と言える。
ねんきん定期便のQRコードを使えば厚生労働省の公的年金シミュレーターを利用できる。厚労省ホームページには「収入・就業年数・退職年齢・受給開始年齢を変更して将来受け取る年金額を簡易に試算できる」と説明している。だがこの公的年金シミュレーターにも重大な問題がある。公的年金シミュレーターには、2004年に導入された、給付水準を抑える仕組みである「マクロ経済スライド」が反映されていない。厚労省は「将来の年金額はマクロ経済スライドによる調整が行われる可能性があるが、シミュレーターの試算額には反映していない」と注記している。つまり公的年金シミュレーターが示す金額は、実際にもらえる年金額よりも高い数字になる恐れがあるということだ。これではシミュレーターで高い金額が出ても安心できない。
厚労省の「悲観的シナリオ」
年金制度を税補填している構造も制度の弱点である。厚労省の資料によれば、年金給付費全体は約60兆円である。そのうち基礎年金給付費は約20兆円であり、この半分にあたる約10兆円が国庫負担、つまり税金で賄われている。見かけ上は「保険料で維持されている」ように見えるが、実際には基礎年金部分を通じて巨額の税補填が行われている。つまり年金制度はすでに税方式と保険方式が混じった仕組みになっており、国民は保険料と税金の両方で負担をしている。税金で穴埋めしている以上、年金は保険料で賄う制度ではなくなりつつある。国民は年金制度のために保険料だけでなく税金を通じて二重に負担している。2014年にこの基礎年金の国庫負担2分の1を恒久化した時点で、すでに保険制度としての限界を示したとも言えるのではないか。
厚労省の令和6年(2024年)財政検証は、年金制度の将来リスクを改めて浮き彫りにした。「令和6年財政検証関連資料」には、「国民年金は2059年度に積立金がなくなり、完全な賦課方式に移行する」と明記されている。これは「1人当たりゼロ成長ケース」というシミュレーションに基づく結果であり、厚労省自身が「悲観的シナリオ」として位置づけているケースのひとつである。
「悲観的シナリオ」が現実的で妥当性の高い前提と見ることもできる
この「悲観的シナリオ」では、実質経済成長率0.0%、賃金上昇率0.1%、合計特殊出生率1.13といった数値が前提に置かれている。一見するとかなり厳しい条件設定のように見えるが、実際の日本経済や人口動態を振り返れば、これらの数字はむしろ現実的であることがわかる。出生率は2024年に1.15と過去最低を記録しており、すでにこのシナリオの想定値1.13に近づいている。賃金上昇率についても、厚労省が設定した0.1%は決して極端ではない。事実、実質賃金は過去30年の平均でマイナス成長が続いており、0.1%の上昇ですら達成が難しい状況にある。経済成長率に関しても、長期的にゼロ近傍を行き来するのが常態化しており、「0.0%」という前提は悲観的というより実態に即しているといえる。この「悲観的シナリオ」によれば、機械的な試算ではあるものの、2059年には積立金が枯渇し、完全な賦課方式(その時代の現役世代が払ったお金をそのままその時代の高齢者に給付する仕組み)に移行せざるを得ないという見通しが示されている。制度の持続可能性に対する警告として、重い意味を持つ結果だと受け止めざるを得ない。
厚労省「給付と負担について」によると、2025年度(予算ベース)の社会保障給付費は約140兆円と記されている。一刻も早く、この莫大な社会保障費を削減しなければ将来世代へのツケ回しは避けられない。そのうちの大きなテーマの一つである、年金制度の抜本的改革は喫緊の課題であり先延ばしは許されない。制度を放置すれば、世代間の不公平は拡大し、保険制度としての信頼はいよいよ失墜する。社会保障制度は一人ひとりの人生に直結する公共の仕組みである。「難しくてよくわからないから」として話題を避けることは、問題をただ先送りするだけである。この現実を直視し、社会保障給付費の抜本的な改革と削減を求めることが、世代を超えて社会を守る唯一の道ではないだろうか。