小池百合子の卒業証書はホンモノなのか…カイロ大卒の同窓・中田考氏が検証「知事への批判の一部はその通りだが…」

(c) AdobeStock

 東京都が8月、エジプト・日本経済委員会と雇用分野に関する合意書を締結してことで、SNSでは「移民受け入れに合意した」などの誤情報が拡散した。報道によると、8月の合意書はエジプト側が実施する研修プログラムへの都の助言を柱とする内容で「移民の受け入れを促進するものではない」と都は説明する。この騒動はSNSでの炎上から都庁前でのデモにまで発展し、エジプト・カイロ大出身である小池百合子氏の学歴詐称疑惑に飛び火した。

 特に話題を呼んだのはタレント・フィフィ氏が2016年に投稿した「こちらが卒業証明書ではないかと検証してくれるよう頼まれましたので解説しますが中央に『証明書』とだけ記され、名前と文学部とだけ書いてあります。たぶん聴講生の際に発行される紙ではないかとの回答を頂きました。何の証明書かは不明です」という内容の投稿で、フィフィ氏は今月13日にそのポストを引用する形で再び「途上国の政府なんて、見返り欲しさに、ワイロで証明書でも何でも書くからチョロいもんだよね」などとリポストした。

 フィフィ氏の投稿についてイスラーム法学者でカイロ大で博士号を取得した中田考氏は「見当はずれのコメント」と指摘する。中田氏は批判者の意見については「一部は実際にその通り」で小池氏の政治内容についても「空疎」であると同調する一方、小池知事の卒業証書は「本物であるということはすでに解決済み」「私のカイロ大の卒業証明書のフォームとほぼ同一」と語る。

 以下、中田氏が詳しく解説していく――。(文中敬称略)

目次

「たぶん聴講生の時に発行される紙ではないかとの回答をいただきました」

 この問題は既に決着済みですが、小池百合子絡みだとアンチが沸きあがってバズるので、間歇的に話題になります。今回はフィフィが、

「中央に『証明書』とだけ書かれ、名前と文学部とだけ書いてあります。たぶん聴講生の時に発行される紙ではないかとの回答をいただきました。何の証明書かは不明です」

と2016年に投稿したコメントが最近本人によりリポストされ、再び話題を呼んでいます。

 フィフィがコメントしている写真は、既に公開されている小池百合子の卒業証明書の上部を切り取ったもので全体は卒業証明書でネット上でも公開(*1)されています。

 内容は1976年10月に社会学部で「良」の成績で学士号を取得したことを証明する、というものです。フィフィは公開されている写真とも照合せず、「たぶん聴講生の時に発行される紙ではないか」との見当はずれのコメントを引用し、「何の証明書かは不明」とツイートしているわけです。カイロ大学に在籍したこともなく、研究者としては勿論、ジャーナリストとしての基本的訓練も受けていないであろうタレント・芸能人のフィフィの言うことを相手にするのがそもそも間違いです。

カイロ大名誉教授が「本物である」と詳細に論証

 とはいえ、芸能人が芸を売るのは当たり前で非難しても詮無いことです。問題はフィフィにコメントを求めるメディア編集者たちの不見識でしょう。

 ともあれ、この卒業証明書が本物であることは、過去のネット記事におけるイサーム・ハムザ東京国際大学教授(カイロ大学名誉教授)の長文の独占インタビュー記事(*2)で詳細に論証しており解決済みですので、興味のある方はそちらをお読みください。

 ちなみにカイロ大学がどういうところかは、浅川芳裕『カイロ大学“闘争と平和”の混沌(カオス)』(ベスト新書増補新版2024年)(*3) をお読みください。

 私は1993年の博士号取得ですので17年の開きがありますが、私のカイロ大の卒業証明書のフォームはほぼ同一です。私はアラビア語版と英語版の2枚の証明書をもらっていますので、その写真をお見せしましょう。

 右側がアラビア語版ですが、いろいろな証明に使いまわせるようにただ「証明書」とだけ書いてあります。写真は一か所だけホッチキスでとめただけで、割り印もずれています。左側の英語版では印を押す位置がずれていたので押し直して二重になっているのが分かると思います。

カイロ大の文書とはこういうものです

 もともとal-Sayyd(英語版だとMr.)がデフォルトです。デフォルトが違っていれば上から手書きで直しているのは、アラビア語版で、日付が198某年/某月/某日が、1993年になっても、刷り直していなかったので8をペンで手書きで上書きして9に直しているのが分かるでしょう。英語版では白い修正液で消した上にタイプで92と印字しているのが見て取れるかと思います。小池が卒業してから17年も経った1990年代でも、カイロ大の文書とはこういうものです。

 ちなみに小池はちゃんと学位記も公開していますが、私はそもそも学位記をもらっていません。もちろんカイロ大文学部の事務局に貰いに行ったのですが、「ボクラ(直訳:明日、意訳:確かなのは今日は絶対仕事しない。いつになるかは分からない)」と言われて貰えず、その後何度行ってももらえなかったので諦めました。

 正式な学位記はないし、卒業証明書は手書きで直したようないい加減なものは信用できない、と言われると困ってしまいます。幸か不幸か私の場合はカイロ大学の博士の論文審査は公開で、当時日本学術振興会のカイロ連絡事務所長としてカイロで暮らしていた同業のイスラーム研究者の竹下正孝先生(東京大学名誉教授)が聴講に来ていましたので、尋ねに行けば公開審査で私が「良」で合格したことの証人になってくれると思います。

同時期にカイロに留学していた日本人研究者たちは一切、学歴詐称の讒言に加担していない

 証人と言えば、この空騒ぎで、同時期にカイロに留学していた本職の日本人研究者たちは一切、学歴詐称の讒言(ざんげん)に加担していません。石井妙子『女帝』(文芸春秋社2020年)の中で小池の経歴詐称を証言した女性とは、私はカイロ留学中に、彼女の娘をカイロ日本人学校で教えており、ガイドの通訳の仕事でご一緒したこともあり、個人的に面識があります。彼女はカイロ大学に在籍したこともなく、カイロ大学の複雑、というよりカオスな仕組みのことも、アラビア語のことも分かっていない人でしたので、彼女には小池の卒業の真偽を判断する能力はありません。

 女帝の作者の石井妙子は、アラビア語のできない女性の証言に頼って自分で最低限の検証もせず小池のアラビア語の能力を批判しており、信ずるに足りません。女性は石井の売名に利用され、小池が経歴詐称をしたと証言するように誘導された可能性すら覚えます。

 小池の批判者たちは、小池がエジプト側に日本就労に必要な研修、情報提供を行う合意書を締結したことでも、小池が学歴詐称疑惑でエジプトに弱みを見せたために、エジプトの言いなりになって、国難を招いており、密室政治により説明責任を果たさず民主主義を毀損しているなどと批判しています。(*4、*5)

良くも悪くもこれが民主主義というもの

 しかし小池は2016年の都知事選挙で圧勝して以来、高い人気を維持しており、2024年選挙では、若年層、女性層の支持が高く、無党派層の表を多く獲得しています。また議会での都民ファーストの会、自民党、公明党の小池体制は安定多数を維持しています。

 良くも悪くもこれが民主主義というもので、都民の圧倒的多数は小池の学歴問題にもエジプトとの学術協定にも興味がなく小池に説明責任を果たしてもらいたい、とも思っていません。

 私はエジプトが大嫌いだと公言していますが、良くも悪くもエジプトはアラブの大国であり、小池がカイロ大学の卒業生であることは、日本の財産です。

 私は年内に東京を離れて、故郷の岡山の美作市に移住するつもりですし、小池都政に1ミリの興味もありません。 

カイロ大に留学すればきっと道は開けます。知らんけど

 小池の批判者たちの批判の一部は実際にその通りなのでしょう。しかしいち早くドナルド・トランプのキャッチフレーズを「パクって」「都民ファースト」と名乗った命名センス、その政治手法の「先進性」は、第二次トランプ政権の成立によってグローバルなスケールで疑う余地がなくなり、その内容空疎さも含めて、参政党をはじめとする極右政党、高市などの自民党内の極右政治家たちも模倣するところとなっています。

 世界大戦を誘発しかねない分断と対立、被害者意識と怨恨のポピュリズムが世界を席巻しつつある今日において、求められているのは小池のような「乱世に強い」カイロ大学卒業生かもしれません。そしてもし本当に小池を倒して都政を本気で変えたいなら、これまで小池を批判してきた者たちのような左翼・リベラル的な語法を続けている限り、自己満足の負け犬の遠吠えに終り、小池政治を乗り越えることは決してできない、という現実をまず直視しなければなりません。

 とはいっても、では具体的にいったいどうすればいいのか、と思うかもしれません。

 読者諸賢には答えはもう明らかですね?

 そう、今すぐ、カイロ大学に留学する手続きを始めましょう。小池知事に直訴すれば、きっと道は開けます。知らんけど。

*1 「カイロ大学卒業の真偽──小池百合子氏の“学歴”は本物か?」2025年9月14日『Bookservice.JP -Rinkaku-』https://www.bookservice.jp/2025/09/14/post-48327/

*2 ハムザ・イサム「「これは⼈種差別だ!」記者会⾒突⼊の元カイロ⼤副学部⻑が訴え…“不正な卒業証明書を発⾏した”という指摘に「⼤学の名誉を傷つけられた」」 2024年7月1日『みんかぶマガジン』https://mag.minkabu.jp/politics-economy/26373/

*3 坂東太郎[「『カイロ大学:”闘争と平和”の混沌』、ベスト新書、2017」2024年9月1日『Note』 https://note.com/bando_tarou/n/n14b01e4e1fb4

*4 那須優子「今度は「エジプト国民ファースト」疑惑の「カイロ大学卒」小池百合子都知事がエジプトから移民を連れてくるってよ」2025年9月6日『アサ芸プラス』https://www.asagei.com/excerpt/343727

*5 浅川芳裕「東京都はなぜエジプト移民政策を強行するのか?小池都知事がひた隠す移民大臣と利権団体との会合」2025年9月10日『アゴラ AGORA 言論プラットフォーム』https://agora-web.jp/archives/250909062210.html)

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この記事の著者
中田考

1960年生まれ。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。東京大学文学部宗教学宗教史学科(イスラーム学専攻)卒業。カイロ大学博士(哲学)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、同志社大学神学部教授などを歴任。著書に『みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論』(ベストセラーズ)、『宗教地政学から読み解くロシア原論』(イースト・プレス)、『13歳からの世界征服』『70歳からの世界征服』(共に百万年書房)などがある。

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