「高市政権凄いな…」高橋洋一が絶賛…一方経済アナリストは自維Nに警告「国債や生活を破壊しかねない」深刻なのはローンを抱える人

自民党の高市早苗総裁は10月21日、国会の首班指名選挙で女性初の内閣総理大臣に選出された。公明党が離脱し、少数与党の窮地に立った自民党は日本維新の会との連立政権合意書を締結し、安定政権の確立に向けて奔走する。高市氏は「責任ある積極財政」を掲げ、マーケットはひとまず好感しているが、この先には何が待ち構えているのか。経済学者の高橋洋一氏はXで「高市政権凄いな。Z涙目。片山財務相、城内実成長相。ほんまもんの積極財政だよ」「城内実さんは責任ある積極財政の会最高顧問。オールドメディアはこの人事がわからないな」と絶賛した。その一方で経済アナリストの佐藤健太氏は「株高で得しているのは富裕層。『サナエノミクス』の結果、物価が上昇し、金利も上がっていけば一般国民の負担は膨れ上がる。これからの日本は貧富の格差が拡大していくだろう」と警鐘を鳴らす。
佐藤氏が詳しく解説するーー。
目次
「高市トレード」はホンモノなのか
高市氏が日本維新の会の吉村洋文代表らと結んだ連立合意で、最も注目されていたのは維新が求めた消費税の減税だった。維新サイドは物価高対策として「食品は2年間ゼロ」を望んだが、最終的に「飲食料品については、2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化につき検討を行う」と曖昧な表現で終わった。もう1つの焦点だった企業・団体献金の廃止についても「協議体」を設置し、残り2年ある高市氏の自民党総裁としての任期(2027年9月)までに結論を得るとして、「政治とカネ」問題の解決を先送りした形だ。
また、自民党が7月の参院選で掲げた国民に2万円を給付(子供や住民税非課税世帯の大人は4万円)するという公約は反故にする一方、ガソリン税の暫定税率廃止法案を臨時国会中に成立させ、所得税の基礎控除などをインフレの進展に応じて見直す制度設計については年内をメドにとりまとめるという。給付付き税額控除の導入は実現を図っていくとした。難題の解決は後回しにしながらも、まずは経済最優先で政権を運営していくという意志は伝わってくる。
高市氏は「サナエノミクス」と呼ばれる経済政策を進め、短期的には補正予算を組み、円安・インフレ下でGDPを押し上げていく施策を講じていくことだろう。財政出動は企業収益を向上させ、株価上昇を後押しする要因となる。ただ、10月4日の自民党総裁選で勝利した直後から「高市トレード」といわれる株高は冷静に見る必要があるのも事実だ。
女性初の首相誕生への期待感から「ご祝儀相場」である点に加え、基本線として連動しやすい米国のマーケットも上昇基調にある。
「アベノミクス」を強化・拡充するプラン
10月20日のニューヨーク株式市場でダウ平均株価(30種)の終値は4万6706.58ドルで、前週末比515.97ドル高となった。米中間の緊張が後退し、米政府機関の一部閉鎖が終わる可能性があると報じられたことも値上がりにつながっている。「高市トレード」が始まった10月4日は、ダウ平均株価が過去最高値を更新していた時期と重なっていた点も忘れてはならない。
もちろん、株高の恩恵を受けられるのは全ての国民というわけにはいかない。NISAやiDeCoを始めている人も少なくないが、基本的には生活費を上回る所得・資産がある人が対象だ。企業業績が改善すれば給与や賞与の形で反映されると政府は繰り返してきたものの、それとて大企業に限られる。中小・零細事業者で働く人々にとっては賃上げの果実を実感できていないのが実情と言える。
高市氏は、安倍晋三元首相による「アベノミクス」を強化・拡充するプランを描いていることだろう。2度の消費税率引き上げを実施した安倍政権の轍を踏まないため、維新サイドが求めた消費税減税に慎重だったのも頷けるところだ。ただ、懸念されるのは大胆な財政出動の裏付けとなる財源を示していないことにある。国債増発を選択肢に入れているというが、本当に経済成長に伴う税収増で賄えると思っているのか、将来世代にツケを回すだけではないのかという懸念も尽きない。
財政赤字拡大という不安を切り離せない
かつてのように右肩上がりの経済成長が見られ、「打ち出の小槌」を握っていれば安心できるのだが、高市氏の「サナエノミクス」は財政赤字拡大という不安を切り離せない。国債供給増は市場での需給悪化を招き、価格下落(=利回り上昇)を誘発する可能性があるからだ。
今後のシナリオを描いてみると、まず積極財政と円安の進行は輸入物価を押し上げ、消費者物価指数を上昇させていくリスクがある。ただでさえ、近年は物価高騰が進んできているのだが、サナエノミクスはそれを誘引し得るものだ。
加えて、財政拡大は日銀に圧力をかけ、市場は「金融引き締め」の加速を織り込む。そうなれば、市場はインフレヘッジとして国債売却を増やし、長期金利を押し上げることにつながる。海外投資家の日本国債離れが進めば、金利上昇の加速は避けられない。
国債や生活を“破壊”しかねないだけのインパクトを持つ
さすがに英トラス・ショックのような市場からの“報復”を受けることは想像し難いものの、サナエノミクスは操作を誤れば、国債や生活を“破壊”しかねないだけのインパクトを持つものであることは認識しておく必要がある。
では、長期金利が上昇した場合にどのような影響が生じるのか。結論を先に記せば、それは日本経済から社会保障、国民の生活まで広範囲にわたる。まず、国債の利払い費が急増していくことが予想される。財務省は2024年4月、長期金利が想定より1%上昇した場合には2033年度の利払い費がさらに8.7兆円アップするとの試算をまとめた。2024年度の利払い費は9.6兆円(想定金利は1.9%)としたが、利払い費が急増していけば財政に大きな影響が生じることは避けられない。
財政圧迫によって社会保障費の伸びを抑制することや、年金・医療などの給付カットも机上にのることだろう。自民党と日本維新の会の連立合意は、社会保障全体の改革を推進していくことも盛り込まれているが、社会保障や公共投資を圧迫することになればシナリオ修正が余儀なくされる可能性も出てくるはずだ。
より深刻なのはローンを抱えている人々
先に触れた通り、日本の財政に暗雲が立ちこめていると見られれば格付け機関の格下げリスクは高まり、国債市場の信頼が低下することになる。その結果、金利上昇に伴って企業は借入コストが増加し、設備投資が抑制される。中小企業は資金繰りが悪化するなど「負のサイクル」に向かう恐れも生じる。「景気は『気』(持ち)だ」という人がいるが、仮に先行き不透明感が増していけば、企業側も賃上げしていく余裕を持てないだろう。
輸入物価の上昇や財政圧迫の影響に加え、より深刻なのはローンを抱えている人々だ。金利上昇は住宅ローンの負担増に直結する。ローンの返済額が増加することになれば、それは言うまでもなく可処分所得の減少を意味する。近年続いてきた物価上昇、そして今後のインフレ誘導策と相まって生活はより厳しい状況になることも予想される。特に子育て世帯や若年層を直撃すれば、影響大となるだろう。金利上昇に伴い住宅の購入意欲が低下し、都市部を中心に不動産価格が下落していくことも考えられる。
サナエノミクスが進めば当然ながらインフレは避けられない
もちろん、高市氏が掲げる財政拡張的な「サナエノミクス」は、マイナスなことばかりではない。金融緩和に前向きな姿勢も伴って日本経済を上向かせ、デフレからの完全脱却という強い日本経済をもたらす可能性はある。ただ、アベノミクスが「2年で2%の物価上昇」という目標を掲げていたように、サナエノミクスが進めば当然ながらインフレは避けられなくなるのだ。
物価が上昇しても、それを上回る賃上げ・所得があれば問題はない。だが、そうではない人はどうすれば良いのか。あなたは、給与アップに自信がありますか?
高市新政権が掲げる「サナエノミクス」は、短期的には財政出動による企業収益改善や株価上昇をもたらす可能性がある。しかし、その一方で、大胆な財政出動の財源不明確さや、国債増発による財政赤字拡大、ひいては金利上昇への懸念が指摘されている。金利上昇は国債利払い費の急増、社会保障費の抑制、そして住宅ローンを抱える国民の負担増に直結し、格差拡大や景気悪化の負のサイクルを招く恐れがある。デフレ脱却への期待感はあるものの、賃上げが物価上昇に追いつかない場合、一般国民の生活は一層厳しくなる可能性があり、その影響を冷静に見極める必要があるだろう。