衝撃の年1100億円!「ショーヘイ・エコノミー」が世界を動かす…米スポーツニュースは「1年で契約金回収」とはしゃぐが…経済効果はテイラースウィフト以上?

米大リーグの頂点を決めるワールドシリーズで2年連続で勝利した、大谷翔平選手が所属ロサンゼルス・ドジャース。2年前、大谷選手と契約した際には「10年7億ドル(日本円で約1000億円)」という破格の内容に「さすがに高すぎるのでは」という声も漏れた。しかし海外のスポーツニュースサイトでは「球団はすでに大谷選手との契約金にかかったお金を、すでに全部取り戻している」と解説する。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
目次
カステン球団代表「私たちの計画を上回った」大谷効果
ロサンゼルス・ドジャースのロッカールームは、歓びの声とシャンパンの泡でいっぱいになっていた。紙吹雪が舞い散る中、選手たちの手にはまばゆいばかりのワールドシリーズのトロフィー。大谷翔平選手が、その最高の瞬間をチームメイトと分かち合う姿は、もうおなじみの光景となりつつある。ドジャースは、大谷選手の活躍もあって、野球の世界一を決めるワールドシリーズで2年連続の優勝という、とてつもない記録を達成したのだ。この素晴らしい出来事は、単なるスポーツの勝利にとどまらず、ロサンゼルスや、もっと言えば野球界全体に、ものすごい経済的な影響をもたらした。
ロサンゼルス・タイムズが、2024年12月9日に、大谷選手がドジャースに入って初めての1年間で、チームのお金事情がどれだけ変わったかについて詳しく報じている。
ドジャースは、大谷選手を獲得した後、日本の大きな企業とのスポンサー契約を次々と結んだ。例えば、日本の大手航空会社であるANA(全日本空輸)、大きなタイヤ会社の東洋タイヤ、商社でありながら物も作っている興和、そして100円ショップで有名なダイソーなど、様々な分野の企業がドジャースのパートナーとなったのだ。このような、まるで嵐のような契約ラッシュは、まさにドジャースが大谷選手を獲得したときに期待していた通りの結果であった。
しかし、1年が経ってみると、ドジャースのトップの人たちは、大谷選手の影響力が、彼らがもともと立てていた高い目標さえも超えていたことを認めている。スタン・カステン球団社長は、「私たちはチャンスを最大限に活かそうと努力し、その準備は十分にできていたと思う。しかし、私たちが準備していなかったのは、彼のインパクトがどれほど大きいかということだった。それは私たちのどんな計画をも超え、ただそうなったのだ」(LAタイムズ)と話している。
海外スポーツ情報サイト「大谷の契約金、1年で回収」
大谷選手がバッターボックスで活躍し、ドジャースをワールドシリーズ優勝に導いたように、彼の名声は、試合以外のところでチームがどれだけビジネスで成功できるかを大きく変えたのだ。
海外のスポーツ情報サイト「MARCA(マルカ)」の記事(10月18日付)には、こんなことが書かれていた。ドジャースが大谷選手と、10年間で7億ドル(日本円で約1000億円)という、とてつもなく大きな契約を結んだとき、多くの人は「高すぎる!」と思っていたそうだ。しかし、たった1シーズンが過ぎただけで、この契約が、お金の面でも、チームの強さの面でも、最高の買い物であったことが判明した。チームに近い情報筋によると、ドジャースは、チケットの売上、企業との契約、海外でのテレビ放送権、そしてグッズ販売から得られる収入を合わせると、大谷選手との契約金にかかったお金を、すでに全部取り戻しているというのだ。たった最初の1年で、この日本のスーパースターが、メジャーリーグ(MLB)にこれまでにないほど大きな経済効果をもたらした、というわけである。
なんと、ドジャースは、大谷選手に支払うはずの7億ドル(約1000億円)の契約金を、たった1シーズンで回収してしまったというのだ。本当だとしても、これはまさに「信じられない!」としか言いようがない。
テイラー・スウィフトより大きい経済効果?
スポーツ専門メディアの「SPORTS PRO(スポーツ・プロ)」(10月28日付)の記事では、大谷選手が2024年だけで7億7000万ドル(約1100億円)以上もの経済効果を生み出したと推定していることを紹介している。これは、前の年の2023年の2倍の金額である。人気歌手テイラー・スウィフトが日本で4日間コンサートを開いたときの経済効果は約2億3000万ドル(約340億円)だったといい、そのことを考えると、大谷選手の影響力がどれほどすごいかがわかる。
また、「JAPAN STADIUM PARTNERS(ジャパン・スタジアム・パートナーズ)」(2024年8月5日付)の記事によると、チケットの売上も驚くほど伸びているそうだ。この記事では、ワールドシリーズ期間中の1枚あたりのチケットの平均価格が1500ドル(約22万円)を超えたと報じているが、これは大谷選手がいなければ考えられないような数字である。
ロスへの日本人観光客の訪問が91.7%も増加
ロサンゼルス観光局は、日本人観光客の訪問が91.7%も増え、その80%がドジャー・スタジアムを訪れていることをCNNに伝えている。球団は、日本人向けに日本語でスタジアムを案内するガイドを雇ったり、日本の人気フードメニューを球場に導入したりするなど、この経済効果を最大限に活用している。
これらを全部合わせると、大谷翔平選手がドジャースとMLB全体にもたらした経済効果は、少なくとも年間7億7000万ドル(約1100億円)以上に達すると考えられており、契約金である7億ドルも最初の1年で回収されたと報じられている。この数字は、まさに「Shohei Economy(ショーヘイ・エコノミー)」、つまり「大谷経済圏」と呼ぶのにふさわしい。
この「大谷効果」という言葉が示すように、彼がスポーツ界のビジネスのやり方を大きく変えたことは間違いではない。しかし、華々しい経済効果の発表には、いつも注意が必要である。例えば、大阪万博の経済効果が、実際よりも高く評価されがちだったように、スポーツイベントや大きなお祭りなどの経済効果は、しばしば「代替効果(だいたいこうか)」と呼ばれる現象によって、実際よりも大きく見積もられやすい傾向がある。
チームが試合のない週に、アダルトサイトを見る人が平均で9.2%増えたというデータ
代替効果とは、あるイベントによって生まれた経済活動が、もしそのイベントがなかったとしたら、別の場所や別の活動で使われたであろうお金や時間と、単に入れ替わっただけに過ぎない、という考え方だ。例えば、大谷選手の試合を見るために使われたお金が、もし大谷選手がいなければ、別のレジャーやショッピングに使われたかもしれない。この場合、経済活動の全体の量が増えたわけではなく、お金を使う「場所」や「対象」が変わっただけなのである。
スポーツ経済学者のヴィクター・マシソン氏は、経済効果の報告書が代替効果を考えていない点を、しばしば批判している。彼は、スポーツイベントがなければ、人々は時間とお金を他の活動に使うため、イベントによって「表面上は」経済活動が大きく見えても、「実際には」大きく縮小してしまうと指摘している。例えば、アメリカンフットボールのNFLというリーグのチームが試合のない週に、アダルトサイトを見る人が平均で9.2%増えたというデータは、人々が別の活動に時間を使う証拠として挙げられる。
「Shohei Economy(大谷経済圏)」がさらに進化していく
独立した経済分析では、新しいスポーツ施設や大きなお祭りなどの経済効果が、最初に予想されていたよりもずっと少ないという事例が多数報告されている。MLBのオールスターゲームが開催された都市で、かえって雇用の伸びが悪くなったり、売上が減ったりした事例も確認されているが、これも代替効果や「crowding out(クラウディング・アウト)」(イベントのために来た観光客で混雑して、普段来るはずの観光客が来なくなってしまうこと)が原因とされている。
大谷選手の経済効果について話すときも、このような視点を忘れずに、表面上の大きな数字だけでなく、代替効果を調整した「純粋な」影響を考える必要がある。彼の存在が、これまで野球に興味がなかった人たちを引きつけ、新しいファンを生み出し、全く新しい市場を作り出している側面は確かに大きいだろう。例えば、日本からの観光客が増えたことは、単に使うお金が入れ替わっただけではなく、新しい需要が生まれたと見なせる部分も多いはずだ。しかし、そのすべてを「新しく生まれたもの」と考えるのは早計であり、常に冷静な目を持って評価することが求められる。
大谷選手の存在は、一人のアスリートが、スポーツという枠を超えて、経済、文化、そして社会全体に、いかに大きな影響を与えることができるかを示している。彼が作り出す物語は、これからも私たちの想像を超えた経済効果と、もっと普遍的な価値を生み出し続けるだろう。その素晴らしい成功の裏に潜む冷静な視点を持ちながら、私たちは「Shohei Economy(大谷経済圏)」がさらに進化していくのを、これからも見守っていく必要がある。