国会通告問題に立民・安住「陳腐な話」過去発言が炎上…予算委員会で立民は「鹿熊」質疑!長時間労働の悲哀は「官僚を美化してる」のか、働き方改革とは何か

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 高市総理が午前3時に出勤したと複数の報道で伝えられ、国会の質問通告が遅いのではないかという問題が話題になっている。多くの官僚が国会質疑の答弁準備のために徹夜対応をしていることは、元官僚の複数の証言でも明かされている。

 元厚生労働大臣で元東京都知事の舛添要一氏が11月9日のABEMA的ニュースショーに出演した際、自身が厚労大臣を務めていた時の経験として「質問は(国会審議の)1日半前に出さないといけない。そうしたら徹夜しないで書けるが、ひどい議員は直前に出す」「私が厚労大臣の時、一番ひどかったのは立憲民主党の長妻(昭氏)。要するに昼ご飯食べてる時に、午後のを持ってくる。すると、秘書官も私も昼ご飯を食べる時間がない。1日半前に出さないといけないのに」と指摘した。元官僚である樋渡啓祐氏も「深夜零時を超えて追加質問を受けたことがある」と語っている。こうした証言が積み重なり、質問通告の遅さは単なる不手際ではなく、国会運営の構造的問題として共有されている。SNSでは「当日追加」「抽象的な要旨だけの通告」「レク拒否」が重なり、省庁が膨大な“可能性回答集”を徹夜で作らざるを得ない状況が話題になっている。

 元国会議員秘書でコラムニストの村上ゆかり氏が解説する――。

目次

働き方問題…立民・安住「通告が遅いからというのは陳腐な話」過去発言

 この問題を巡っては自民党の国光あやの氏が「質問通告が遅いから総理の日程が崩れる」と指摘し、人事院の調査資料でも通告遅延により深夜対応が発生している声が示されていると投稿した。それが発端となりネット上で論争が起きた。

 質問通告が遅いと批判された側である立憲民主党所属の今井雅人議員は、国会質疑で「そもそも『2日前ルール』は存在しない」「通告は前日の朝9時までに提出している」等と反論した。国光氏が添付した人事院資料について「人事院自身が2日前ルールの誤解に基づくアンケートだったとして謝罪している」と指摘し、一部与党議員が“野党は通告が遅い”という誤解を広めたとして、“通告遅延”という指摘そのものの前提が誤っていると国会質疑の時間を用いて強く反論した。

 一方、立憲民主党の安住淳国対委員長がかつて、2021年のNHK番組で「(官僚の)過重労働は国会議員の質問(通告)が遅いからというのは陳腐な話だ」と述べたことがあり、これがこの質問通告の問題と関連してSNSで話題になり、炎上している。

人手不足、労働生産性の低迷が大きな経済課題なのだが

 当時の安住氏は、通告遅延批判を「官僚を美化している」と退け、むしろ政府側の非協力姿勢を問題視した。働き方改革の本質である“多様で柔軟な働き方を個人が選択できるようにすること”であるところ、“本人が望まない長時間労働が構造的に強制される状況”は極めて問題であり、霞が関で起きている深夜残業はまさにこの典型である。

 現在の日本経済では、人手不足や労働生産性の低迷が大きな課題となっており、政府も企業も“付加価値を高める働き方”を重視する方向にシフトしている。官僚が通告遅延によって突発的な長時間労働を強いられる働き方は、生産性向上の流れとも逆行し、人材確保の面でも当然にマイナスだ。さらに、行政の働き方は国全体の生産性や政策遂行能力に影響を与えるため、国や国民にとって重要なテーマであるはずだ。

 人事院調査や民間調査会社(ワーク・ライフバランス社)が集計した「通告の遅延傾向を示す資料」では、通告が遅い政党として立憲民主党と日本共産党の名前が挙がっている。SNS・官僚経験者・与野党議員の複数証言では、立憲民主党の通告が遅いことが繰り返し指摘されており、たとえば元官僚の樋渡啓祐氏は「長妻昭氏に深夜まで振り回された」と述べ、前述した国光議員も「特に野党の通告が遅い」と投稿していること等から、少なくとも立憲民主党所属の議員が「遅延の原因として名指しされる頻度が高い」という事実は確認できる。

予算委員会で「シカ質問」「クマ質問」に時間を費やす

 また、国会質問の内容に関しても批判が寄せられている。最近で言うと、例えば11月10日の衆議院予算委員会において、立憲の西村智奈美議員が、高市早苗首相に対し「奈良公園のシカを外国人観光客が蹴るという発言の根拠は何か」などを約15分間にわたって質問したことが「シカの質問15分が“国会の本会議場で行われるべきか”」という批判につながった。さらに、質問構成が“根拠の提示を求める揚げ足取り”に終始していた点も批判対象になっている。

 また11月7日には、衆議院予算委員会で立憲の池田真紀議員が、赤間二郎国家公安委員長に対して、雑誌報道に基づく「クマみたいだね」という発言について「撤回をすべきではないか」という質疑を30分にわたって行った。

予算を話しあう場で「国会をショー化」

 赤間大臣はすでに謝罪していると説明しつつ反省の意を述べたが、池田議員は30分近く同テーマを続行し、予算や治安政策の本体議論にほとんど入らない構成になったと報じられている。ハラスメント問題を扱うこと自体に意義はあるが、すでに謝罪済みの一件を30分もかけて繰り返し批判することは、予算委員会の優先順位として大いに疑問であり、当該批判は妥当ではないか。

 国会の質問通告は、本来「質問の要旨だけを事前に知らせればよい」という運用になっている。要旨とは「どの分野を扱うかを大まかに示すだけ」で足りる。議員の自由な質問を守り、行政監視を確保するため、あえて国会議員の裁量に任せる制度として設けられた経緯がある。

 国会質問が「政治ショー化している」という批判も度々受けている。質問通告は、当日、急に質問の方向を変えたり、相手の答弁を想定しない“意表を突く質問”をしたりすることが可能だ。その結果、議員がテレビやSNS等で注目を集めるために、鮮やかな言い回しや印象的な追及を行い、政策論よりパフォーマンス性が強まる。これが、「国会がショー化している」と言われる理由である。

SNSの訂正要求や“誤解の拡散”を理由に国会の場を使用

 前述した予算委員会における立憲民主党議員の「クマ質疑」「シカ質疑」のみならず、今井雅人議員が行った「質問通告に対する反論質疑」も同様ではないか。通告制度の是非を議論すること自体は必要だとしても、SNS投稿の訂正要求や“誤解の拡散”を理由に国会の場を使用するのは、行政監視や政策論争とは直接関係がない。こうした質疑のあり方は、国会が本来果たすべき機能よりも、政争やレッテルの応酬を優先する“政治ショー化”の一例と評価されてもやむを得ないのではないか。

 質問通告そのものの遅れも加わり、行政側は前日夜から徹夜で資料を整え、答弁ラインを確認する状況が繰り返されている。その結果、「議員が自由に質問できること」を理念とした質問通告制度が、実際は深い政策議論を行う自由や政策論争を設計する自由を狭め、行政から情報を引き出す力や国民への説明責任といった機能を弱体化させている。これは民主主義にとって大きなリスクである。

 日本の国会では、行政が当日の質疑であらゆる質問に即答しなければならないという強い慣行が存在している。

徹夜で仕事をする官僚「長時間労働に追い込まれる」

 法令で定められた規則ではなく、戦後の国会運営で形成されてきた運用である。大臣や官僚が質疑の場で答えられないと、能力不足や不誠実と評価され、政治的批判の対象になる。メディアも一斉に映像を引用し批判する。その結果、行政側にとって「分からない」「後日回答する」という選択が極めて取りにくくなる。これこそが国会運営の姿を大きく歪めている原因ではないか。

 行政は、国会からの質問に対して正確な答弁を求められる立場にある。問題は、その正確性を確保するために必要な時間が制度として保証されていないことにある。当日、その場で即答できなければ失点になるため、官僚は徹夜で資料を集め、関係部署と調整し、数十枚に及ぶ答弁メモを作成する。質問通告が遅れれば遅れるほど、この作業は過酷になる。さらに、要旨通告制度が詳細を求めないため、行政側は幅広い論点に備えなければならなくなる。

 根底にあるのは、「その場で完璧に答えなければならない」という強い圧力である。質問の裏付けが弱い場合でも、行政側は“想定されるすべての論点”に備えて準備を続ける。質問通告が遅れると、徹夜対応が避けられない。要旨が抽象的であれば、さらに準備範囲が膨れ上がる。この結果、行政は長時間労働に追い込まれ、議員も“徹夜で準備された膨大なメモを読む答弁”を前提に質問を組み立てるようになる。これでは政策論争が深まらない。

官僚の深夜残業や政治ショーを生み出す日本の慣行

 海外ではこのような問題は存在しない。アメリカ議会では、行政が答えられない質問は“take it for the record”と述べ、後日文書で回答する方式が当たり前である。正確性を重視するため、時間をかけた調査回答が歓迎される。イギリスやドイツでも、委員会での質疑は議題が中心であり、個別議員が行政に完璧な即答を要求する文化ではない。当日回答を義務づける慣行がある国は、主要な民主主義国の中では日本がほぼ唯一である。

 現に、比較政治学の分野では、日本の国会が“大臣と官僚が当日に即答すること”を強く求める運用を持つ点を、主要民主主義国の中でも特異だと指摘されてきた。他国では調査のための後日回答が制度化されているのに対し、日本では当日その場での完璧な答弁が期待される。この慣行こそが、官僚の深夜残業や政治ショー化の構造を生み出す要因であると分析されており、これが続く限り、質問通告の遅延や要旨通告の曖昧さといった個別問題を改善しても、根本的な解決にはならない。

異常なほどの残業を課されているという現状

 行政は依然として徹夜を強いられ、議員は当日の“答弁を引き出すための質問”に偏り、“政治ショー”と批判を受ける一部野党の政治的パフォーマンス質疑は無くならず、国会は政策論争ではなく形式的な質疑に陥る可能性が高い。

 高市総理が深夜3時に出勤したことも、国会質問が政治ショーと化していると批判されていることも、官僚が異常なほどの残業を課されているという現状も、すべては我が国の国会質問制度にある根本的な問題が引き起こしたものだ。ただ「質問通告が遅い」等と批判するのではなく、これらの問題を制度の限界が表面化している“警告”として受け止めるべきである。通告遅延や要旨通告の曖昧さが、国会の質を下げ、行政負担を高めている現状を踏まえれば、立法府は制度の見直しに踏み出すべきではないか。今回の問題で「質問通告が遅い」「通告2日前ルールは存在する、しない」等の議論ばかりが横行しているが、問題を真に解決するためには、要旨通告制度だけでなく、日本固有と言える「当日100%回答」を求める運用を改めるべきではないか。

 議会の本来の役割は、行政を監視し、政策を議論し、国民に説明することである。しかし、当日100%の即答を求める慣行は、むしろこの本来の役割を弱めている。行政は慎重で正確な答弁よりも“即答できる準備”を優先し、議員は政策の大局ではなく“その場のやり取りで相手を追い詰める構図”に傾きがちになる。この慣行を維持することは、政策形成の質を下げ、国民の信頼を損なうリスクがある。いや、むしろ、既に損ないつつあるとさえ感じる。

 重要なのは、議員の自由を守りつつ、行政と国会が健全に機能する仕組みを取り戻すことである。そのためには、長らく続いてきた日本の「当日回答にこだわる無駄な慣行」を改める必要がある。具体的には、当日答えられなかった質問については後日文書で回答する方式を正式に制度化することが考えられよう。行政に正確性を確保する時間を与え、議員には深い政策議論を構築する余裕が生まれる。質問通告制度の透明化や、抽象的な要旨通告に最低限の説明を付す仕組みと組み合わせれば、国会はより合理的で生産的な場となるのではないか。

 国会は国民のために存在する。だからこそ、根性や努力に依存した運営ではなく、制度によって無理のない働き方と質の高い議論を保障すべきだ。今こそ、日本の悪しき慣行を見直すべきではないか。この話題を機に少しでも建設的な議論が進むことを、筆者は心から願っている。

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