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世界に印象づけた高市首相、その「唯一の誤算」とは「習近平氏は、高市首相の率直な物言いと実直な姿勢を高く評価している」

(c) AdobeStock

 就任早々、アメリカ、韓国、中国の首脳との会談を行った高市早苗首相。外交・安全保障が専門のキヤノングローバル戦略研究所上席研究員・峯村健司氏は、「95点の出来だった」と評価する一方で、「ただ一つ、問題点があった」と話す。高市首相の外交の成果と今後の懸念点について、峯村氏が語る。

 みんかぶプレミアム特集「高市首相の正念場」第3回。

目次

「国」よりも「個人のキャラクター」を優先するトランプ

 高市首相は10月末、次々に首脳会談を行いました。アメリカ、韓国、中国との首脳会談は、いずれも上出来だったと思います。

 まずは日米首脳会談。トランプ大統領の外交は基本的に、相手国の体制やイデオロギーよりもトップとの相性を重視する傾向にあります。そのため、日米首脳会談における日本側の最大かつ唯一の目標は、「トランプ氏との個人的な関係を構築する」ことにありました。

 トランプ氏は高市首相を「サナエ」と呼びましたよね。石破前首相に対しては「イシバ」とすら呼んでいなかったことを考えると、人間関係の構築には成功したと言っていい。それはすなわち、この会談が成功したということを意味します。

 これほど早く関係が構築できたのは、安倍晋三氏の存在も大きかったですね。トランプ氏は高市首相のことを「シンゾウの後継者」だと認識しており、9年前に米ニューヨークで初めて会った安倍氏にかけられた「困ったことがあったら何でも言ってくれ」という言葉を、今度は高市首相に投げかけました。

 一部の野党議員は大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」内でのツーショットなどを挙げて「従属的だ」といった批判もしていましたが、そのような政治家には「ではみなさんであればどうしましたか」とお聞きしたいですね。「日米同盟を破棄します」と宣言するまでの気概があればまだわかりますが、そこまでの覚悟もないただの批判には、意味がありません。

小泉とヘグセスの会談も大成功

 また高市首相の影に隠れがちですが、小泉進次郎防衛相とヘグセス米国防長官の会談も予想以上の成果があったと思います。今回の防衛相会談では、アメリカ側から日本の防衛費の増額を要求されるかもしれないという見方が優勢でしたが、会談後、ヘグセス氏は具体的な数値を一切示しませんでした。

 日米両政府関係者によると、小泉氏は会談の中で、「必要な防衛費は自らの判断で上げていく方針だ。しかし、あなたたちから『防衛費を上げろ』と要求されたら、『米国の属国』『弱腰外交』との世論が巻き起こり、上げるものも上げられなくなる。それでもいいのか」とヘグセス氏に伝え、防衛費増の要求を封じこめることに成功しました。

 小泉氏とヘグセス氏の仲が進展したことは、防衛省で会談したそのわずか2日後、マレーシアで再度会談を行ったことからもうかがえます。この会談では、日米韓3か国による防衛協力が重要であることを確認し、具体的な取組を追求していくことで一致しました。

韓国首脳に響いた「韓国のり」

 日韓首脳会談は、高市首相が「強硬保守派」と認識されていることから、まず日韓首脳会談が実現するのかということも危ぶまれていました。ただ終わってみれば、李在明大統領に好印象を与えることができました。

 首脳会談が実現したのは、「靖国神社に参拝しなかった」ことが大きな要因でしたね。就任前から、「高市氏は首相に就任したら現実的な対応をするようだ」という話を聞いていましたが、もし就任したら「行かない」という覚悟を前々から決めていたのでしょう。

 また、高市首相が韓国のりや韓国コスメを好んでいると言ったことも、韓国側には好印象でした。「そんなことくらいで?」と思う人もいるかもしれませんが、国民感情にはそのようなプライベートなエピソードがインパクトを与えるのです。日本人だって、普段反日的な態度を示している人から「実は日本のアニメが好きなんだ」と言われると、少し見る目が変わるのと同じです。

 会談の内容次第では、最悪の場合には外交が途絶えるのではないかという危惧もありましたが、日韓がシャトル外交を行うことで合意できたことは大きな成果だったと思います。

 結局、外交とは人間同士が行うものです。ですから、高市首相が自分の言葉で韓国を評価したということは非常に大きかったですね。なお小泉氏とヘグセス氏の防衛相会談でも、小泉氏はスカジャンとパンケーキミックスを贈ることで懐に入り込んで、信頼を得たのでしょう。

日中首脳会談は「会談自体は成功」も……

 高市首相の一連の外交の中で、最大のリスクが中国との首脳会談でした。高市首相も木原稔官房長官も、中国からみれば親台派です。ですから中国側としては、日本の新政権を非常に警戒していました。

 ただ日中首脳会談後、中国側の関係者に話を聞いたところ、習近平氏は、高市首相の率直な物言いと実直な姿勢を高く評価したようです。

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この記事の著者
峯村健司

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。1974年、長野県生まれ。朝日新聞入社後、北京・ワシントンで計9年間特派員を務める。ハーバード大フェアバンクセンター中国研究所客員研究員、朝日新聞編集委員を経て現職。2011年、優れた報道で国際理解に貢献したジャーナリストに贈られるボーン・上田賞を受賞。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『潜入中国』(朝日新聞)など、監訳書に『中国「軍事強国」への夢』(劉明福著、文春新書)がある。

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