たぬかなを称賛し、完璧で究極な“アイドル”を追い、アラフォー女にはクソリプ嵐…酸っぱい臭いのこども部屋おじさんと会話できない母の末路…連載タワマン文学TOKYO探訪「中野」

窓際三等兵の人気連載、連載タワマン文学「TOKYO探訪」。今回の舞台は中野だ。ポケモンカードにハマり、自室の壁を叩きながら引きこもる中年男性。そんな一人息子を眺めながら、会話のない3LDKで妻も母も降りることができない自分に絶望する……。中野に高層タワマンができたとき、この家族は救われるのかーー。
家族3人で暮らす中野の3LDK、もう会話は消えていた
「あら、今日は早かったのね」。夕方、外から帰ってきた誠也に声をかける。返事の代わりに、部屋の扉を閉める音が廊下に響いた。玄関に乱雑に脱ぎ捨てられたスニーカー。どうせ今夜も夫の帰宅は遅い。家族3人で暮らす中野の3LDKから家族の会話がなくなり、どれほど経っただろう。
政府系金融機関に務める夫と、専業主婦の私、一人息子の誠也。特別裕福ではないけど、平成初期という時代では理想の暮らしだった。誠也の小学校入学を機に社宅から出て、中野にマンションを購入。駅前のアーケード商店街が多くの人でにぎわう、日本全国から失われた光景が見られるこの街が好きだった。
誠也は子供の頃から線が細く、同年代の友達が遊んでいるのを遠巻きに見ているような子だった。心配してサッカー教室に通わせたものの長続きせず、一人で漫画やゲームに没頭する寂しそうな背中。夫は残業200時間の激務で、早朝から深夜までずっと会社。ワンオペなんて言葉もなかった時代、それが当たり前だった。
誠也の服からは煮沸しないと消えない酸っぱい匂い
「ドンッ!」。壁を叩く、鈍い音。誠也の部屋からだ。また何か気に入らないことがあったんだろうか。中学に入ったあたりから部屋にこもる時間が増え、そしてムシャクシャするたびに壁を叩くようになった。誠也の服からは煮沸しないと消えない、カードショップのような酸っぱい匂いが漏れる。
「仕事あるし、誠也のことはお前に任せてるからさ」。何度訴えかけても、夫はこの繰り返し。激務サラリーマンは本当に自分ファーストだ。本当に向き合わなければいけないことから逃げ、仕事をすればすべて許されるといった顔をする。子供と向き合うことは、専業主婦の母だけに課せられた義務なんだろうか。
ため息とともにスマホを取り出し、X(旧Twitter)を開く。ポケモンカードの画像とともに、「クソカードばっか!」という投稿が画面に表示された。誠也の投稿だ。中野ブロードウェイで買い占めてきたんだろう。勉強もせず、好きなだけカードを買って日々を過ごす、永遠に終わらないぼくのなつやすみ。
アラフォーグラドルにクソリプを送り続ける我が息子
「おはよ〜、今日も投票したよ!」「おはさや〜」「敷金を返さないのは不動産屋が悪いね!」。誠也の投稿を遡ると、ミスコン出場者やお天気お姉さん、アラフォーのグラドルに片っ端からクソリプを送っていた。親の顔が見てみたいと思い外に目を向けると、シワが顔に刻まれた自分の顔が窓に映っている。