子供の中学受験に300万重課金する親の狂気…タワマン文学作家が指摘する「疲れて精神科に通う中受キッズ」問題

今年も東京の中学受験(中受)解禁日である2月1日がやってきた。「二月の勝者」を目指し、盆も正月もなく机に向かう過酷な受験戦争に向かう小学生にとって、また300万円とも言われる塾代を払ってきた親にとっても、これまでの成果が試される運命の日だ。もっとも、近年ではあまりにも過熱する中受を回避するため、小学校お受験(小受)に挑む家庭も増えているという。このたび、小受をテーマにした小説『君の背中に見た夢は』(KADOKAWA)を上梓した小説家の外山薫さんに話を聞いた。
目次
中学受験を回避して小学受験は正解なのかより地獄なのか
――湾岸のタワマンを舞台に中受を扱う「タワマン文学」から、都心部での小受をテーマにした「お受験文学」へとシフトチェンジした理由は。
近年の中受ブームは明らかに過熱しており、やりすぎだという声が聞こえるようになりました。塾に話を聞いても、難易度が上がり、子供に求められる学習量が年々増えていると皆が口を揃えて言います。過酷な環境で精神を病み、メンタルクリニックに通う小学生の存在も密かに問題になりつつあります。こうした中、中受を回避するために小受に挑む家庭が増えているということを知り、小説のテーマとして面白いなと思いました。
――小受といえば、経営者や医者、芸能人などセレブな世界で、縁遠いと考える人も多そうです。
昔はそういう側面もあったそうですが、今やマジョリティはサラリーマン家庭です。それも専業主婦家庭だけでなく、共働き家庭も増えています。幼児教室の先生にも取材しましたが、平日にフルタイムで働いているママでも無理なく通える、土日のクラスが人気だそうです。
慶應義塾幼稚舎や青山学院初等部に入れて大学までエスカレーターで進学させるという、いわゆるお受験のイメージとは異なり、「中受を気にせず伸び伸び育てつつ、大学受験を見据えて英語なども手厚く指導して欲しい」という要望に応える学校も増えています。
入試本番直前、不安から多額の追加課金
――とはいえ、多額の費用がかかるというイメージが強いですが。
「コスパ」という面では、正直中受に比べて悪いと思います。偏差値やテストの点数のようなわかりやすい指標がないので、入試本番が近づくにつれ、不安感から多額の課金をしてしまったという話も珍しくありません。
そもそも、中受であればだいたい3年間で300万円という相場がありますが、小受はピンキリです。私が話を聞いた人でも、受験のためにポルシェ1台分の費用を投じたという親もいれば、幼児教室に一切通わせることなく我が子を名門校に合格させたという強者もいます。中受のように決まった教科を勉強して良い点を取れば良いという世界ではなく、学校ごとに試験の種類も異なるので、どれだけお金をかけるかも含め、「家庭によって異なる」としか言いようがないです。
――作中では軽井沢に別荘を持つセレブなママ友など、住んでいる世界が異なる人も登場します。
これでも現実世界に比べて抑えて書いたほうです。サラリーマンとは所得や資産のレベルが違うセレブがゴロゴロしている世界でもあり、取材を進めていく上でも「日本にはこんなに金持ちがいるのか」と驚きました。世帯年収が3000万円を超えているような人でも、謙遜ではなく「うちは大したことがない」と言います。
港区の名門幼稚園にお子さんを通わせている方にもお話を伺ったのですが、あまりにも現実離れしすぎていて、小説に書いてもリアリティを感じられないと思い泣く泣くカットしたエピソードもあります。
ぶっちゃけコネが勝つ世界
――コネなどはあるのでしょうか。
最初から平等という概念がない世界なので、入学願書の時点でさりげなく縁故の有無を尋ねてくる学校すらあります。そういう積み重ねが学校の伝統や文化を作っているという側面もあり、本来は部外者であるサラリーマン家庭が文句を言っても仕方がありません。中受回避でなんとなく小受の世界に足を踏み入れた結果、逆に消耗するというケースもあるので万人に勧められるコースではないと思います。