【議論】四谷はセレブの街なのか、庶民の街なのか…なぜ不動産評論家がこの地に太鼓判をおすのか「坪単価400万円、だが実は…」
東大卒不動産評論家の牧野知弘氏が街の魅力を語る大好評連載の最新回は、四谷についてだーー。
目次
「越境通学」が多かった麹町小学校…帰りには四ツ谷駅まで寄り道して遊んだ
今回の住みたい街は千代田区と新宿区の境目、四谷を取り上げます。実は私はこの駅と縁が深いのです。私は千代田区の麹町小学校という学校に通っていましたが、私自身は中央区の明石町というところに住んでいました。公立学校ですが、当時は越境通学する子が多く、私も祖父母が千代田区の一番町に居たことをよいことに、麹町小学校に通っていました。
当時、明石町から麹町に向かうには晴海通りから新宿通りに都営バスで通うか、営団地下鉄(現在の東京メトロ)日比谷線の「築地」駅から「銀座」駅で丸の内線に乗り換えて「四ツ谷」駅で下車。新宿通りをずっと東に10分ほど歩くとたどり着くことができました。
低学年の頃は乗り換えがないバス通学がよいということで、バス通学でしたが4年生になったことを契機に地下鉄通学となりました。クラスメートもほとんどが越境通学だったので、みんなで学校帰りには四ツ谷駅までぶらぶらといろんな寄り道をしながら歩いたものです。以降、千代田区平河町にある麹町中学校に進学するまでは「四ツ谷」駅が私の通学の要のような存在だったのです。
そして私がこの駅と再び縁を結んだのが、社会人1年生のときです。第一勧業銀行(現在のみずほ銀行)に職を得た私が最初の赴任先として勤務を命じられたのが、四谷支店。当時の大卒1年生はそのほとんどが都内などにある支店勤務。「山手線の内側の店に配属になるのがエリート」などとまことしやかに噂された時代でしたが、四谷はまさに山手線内側!しかも勝手知ったる四谷ではないですか。胸踊る気持ちで赴任しました。
庶民的な飲み屋街がある荒木町界隈
さてこの四ツ谷駅周辺の街を紹介しましょう。対象範囲はJR「四ツ谷」駅を中心として、西側の新宿区エリアを取り上げます。反対側、つまり東側は上智大学、雙葉学園など華やかな雰囲気があり、また番町のお屋敷街もあってかなり性格の異なるエリアを形成していますので別の機会に触れることにします。
<四谷周辺町名図>
「みんなの行政地図」より引用
まず四ツ谷駅から西に新宿通りが走ります。東京メトロ「四谷三丁目」駅がある外苑東通りあたりまで。新宿通りの北側、四谷一丁目、二丁目、四谷三栄町、荒木町、四谷坂町、四谷本塩町あたりまでを考えます。東側は外濠通りとJR中央線総武線が南北に走ります。
私が勤務を命ぜられた四谷支店(現在は閉店)は外濠通り沿いの四谷一丁目にありました。しんみち通りという飲食店街の入口にあり、人通りの多い街でした。このしんみち通り、今でも多くの飲食店、居酒屋が軒を連ねていて、西へずっと荒木町方面にまで飲み屋街が続きます。しんみち通りには値段も庶民的なお店が多く、上智大学の学生さんや近所の勤め人たちの憩いの場です。呑兵衛はしんみち通りよりもその先の荒木町界隈を好みます。小さな店舗でも老舗の料理屋やこじゃれたバーが立ち並び、しんみち通りの喧騒とは一線を画しています。
東大卒不動産評論家も四谷周辺の住環境の良さに感心…桜並木も楽しめる
外濠通り沿いには、数年前に市街地再開発事業という手法でオープンしたコモレ四谷という大規模複合施設があります。私も再開発組合さんのお手伝いをした馴染みのある建物です。オフィス、商業、学校、住宅などが複合したビルで、最近アンカーテナントであるLINEが退去して心配しましたが、その後PayPayの入居が決まったとの由、よかった。
四谷三栄町、四谷坂町付近は昔からの静かな住宅街が広がり、市谷の邸宅街につながります。四谷本塩町には雪印乳業の本社もあります。このあたりは外濠通りの向こう側がお濠となっていてJR線もお濠沿いの低地を走るため、大変見晴らしの良いエリアです。毎年春になると対岸の桜並木がきれい。居ながらにして桜並木の借景が楽しめます。
四谷本塩町に以前「四谷コーポラス」という民間初の分譲マンションがあり、2019年に建替えが行われました。総戸数わずか28戸で容積率の余裕も少なかったのですが56戸の新しいマンションに生まれ変わったことで話題になりました。私も建替え前と建替え後に見学しましたが、四谷周辺の住環境の良さに改めて感心しました。この建替えは旧住民が建物を大切にし、建替えにあたっても結束してあたったといいます。素晴らしい建替えの実現に私の「四谷推し」に拍車がかかった案件です。
坂が多いが、閑静な住宅街が広がる
新宿通りの南側は若葉、須賀町、左門町が並びます。私が駆け出しの銀行員だったとき、取引先課に配属になった私の担当エリアでもありました。今でも、毎日銀行の自転車に乗って、このエリアを走り回った記憶がよみがえってきます。このエリアは急な坂が南に向かって下がっていて、行きは坂道を転げるように下り、帰りはモーターの備え付けもない、重たいカバンを乗せた自転車を本当によく自力でペダルを漕いで上っていたものです。若いってすごい。
このエリアは新宿通りの喧騒が嘘のように閑静な住宅街です。古くからの住宅街で有名人も多く住んでいます。私が担当していた1985年夏。御巣鷹山での航空機事故の際、このエリアでお亡くなりになった方が2名もいらっしゃり、支店の課長とお焼香をあげに赴いたことをよく覚えています。また支店でなにかよいことがあると、新入行員の私は自転車をすっ飛ばして若葉1丁目にあるたい焼き「わかば」に出向きました。支店の人数分のたい焼きを注文して、大きな風呂敷包みを抱えて、今度はひっくり返さないように慎重にペダルを漕いだ記憶があります。今もたい焼き「わかば」健在とのこと。嬉しい限りです。
赤坂御所につながる通りには庶民的な価格のお店が並ぶ
若葉の坂をずっと下ると商店街があります。新宿通りから円通寺坂を下りて赤坂御所につながる通りですが、低地になっていて庶民的な価格のお店が並びます。
須賀町に入ると多数の寺院が目につくようになります。町名の由来は町内にある須賀神社です。この神社は江戸時代初期からあり、四谷十八ヵ町の鎮守様です。
若葉、須賀町をさらに南西へと下ると南元町。JR「信濃町」駅が近くなります。外苑東通り沿いには慶応大学病院があります。
中古マンションは坪400万円台から…東大卒不動産評論家も太鼓判の四谷
さて繁華街と住宅街が豊かに調和した四谷のマーケットはどうでしょうか。
中古マンションマーケットはあまり出物がありません。わずかに若葉、四谷坂町あたりに売却物件がありますが、相場は築年の古いものでおおむね坪400万円台。新しいものだと500万円台に跳ね上がります。この付近はタワマンがありませんので、低層マンションが中心となりますがお値段はなかなかです。
賃貸はどうでしょうか。50㎡から60㎡台で20万円半ばから30万円。坪当たり1万4、5千円といったところでしょうか。ちょっと贅沢ですが、閑静な住環境とJR中央線、総武線、東京メトロ丸の内線、南北線がそろう交通利便性を考えれば、十分住む価値あり!の街なのではないでしょうか。
私が四谷を推すのは街の明るさです。お濠沿いの豊かな自然と古い街が持つ独特の落ち着き、そして学生を含めた街の賑わい。様々な要素が見事に組み合わさった四谷、オススメです。