老後2000万円問題に終止符!結局いくら必要なのか…マネーコンサルタントが警告「退職金を使って絶対にやってはいけないこと」

所得が上がらず、物価が上昇し続ける中で、老後の資産に不安を抱える人も多い。そんな中で Money&you代表取締役でマネーコンサルタントの頼藤太希氏は、「60歳からの投資は、若いときとは考え方・戦略を変えるべき」と話す。老後に不足するお金や資産形成方法など、老後の資産形成へのき合い方について頼藤氏が紹介する。
※本記事は頼藤太希著『60歳からの新・投資術 『年金+月3~10万円』で人生が豊かになる 』(青春出版社)から抜粋、再構成したものです。
第2回:10年間で貯金+1000万円をつくる方法…マネーコンサルタント「老後は60歳までに500万円あれば大丈夫です」
第3回:平均相続額3200万円、使いきれない無念…どうやったら幸せに「資産ゼロ」で死ねるのかをマネーコンサルタントが伝授
目次
60歳までは「資産形成期」、60歳からは「資産取り崩し期」
就職してから退職までは「資産形成期」です。資産形成期は、将来使う資産を築いていく期間です。退職後は築いてきた資産を取り崩す「資産取り崩し期」に変わります。しかし、資産取り崩し期に入ったからといって、退職日に全額資産を売却して 預貯金に切り替えて取り崩すのはおすすめしません。資産運用しながら取り崩すことで、資産寿命を延ばすことができるからです。
寿命をまっとうした時にお金が綺麗になくなるのが理想なのですが、それを実践するのは少々不安があります。なぜなら、寿命がいつ尽きるかは誰にもわからないからです。資産を取り崩す際には「長生きしすぎてお金がなくなったらどうしよう」と思うでしょう。だからといって、お金を使わないで死ぬ時にたくさん残しておいても、後悔するかもしれません。
こうしたジレンマを解消するために提案したいのが、資産形成期に築いた資産の一部を「キャッシュフローを生む資産」「不労所得が得られる資産」に替えて保有する戦略です。不労所得があれば、資産の一部を取り崩す時の心理的負担を減らせます。定年後にお金を安定的に得るための強い味方にすることができます。
「キャッシュフローを生む資産」「不労所得が得られる資産」とは、具体的には高配当株や債券、REITなどのこと。これらは、寿命まで持ち続ける前提ですが、売ることももちろんできます。
そうした選択ができる「オプション」を持ちながら、残りの資産を運用しながら取り崩し、不労所得を得ながら豊かな老後のためにお金を使っていくことを考えるといいのです。
「退職金を全額投資」は悪手
60歳以降の投資の指針をまとめておきます。「人生100年時代」と呼ばれるようになって久しいですが、日本人は今後も長生きになっていくことは間違いないでしょう。そう考えると、60 代はまだまだ資産形成のフェーズです。健康状態にもよりますが、働けるうちは働いて勤労収入を得るようにしましょう。
定年後の再雇用・再就職では、多くの場合収入が減ってしまいます。しかしそれでも、定年以降、70歳まで働くとしたら、10年間は定期的な収入を得られるので、積立投資ができます。
定年時の退職金を投資に回すのも一案です。ただ、退職金全額を投資に回すことはおすすめしません。退職金を全額注ぎ込んで、大きく値下がりしてしまっては目も当てられないからです。
定年時の預貯金額にもよりますが、たとえば退職金が2000万円あるならば、半分の1000万円は預貯金や個人向け国債などの安全資産で持っておくのがよいでしょう。残りの半分は投資に回してもよいですが、ここでも一括で投資するのではなく、10年かけて毎年100万円ずつ投資するなど、時間の分散を行いましょう。投資は、新NISAの活用を優先的に考えましょう。
70歳以降は、仕事を引退すると勤労収入がなくなるので、新たな投資をすることは難しくなります。そのため、70歳以降は資産の取り崩しフェーズです。
しかし、資産の取り崩しフェーズに入ったからといって、これまで運用してきた資産を一気に取り崩してしまうと、将来的に足りなくなるのではと不安になるかもしれません。そこで、運用しながら資産を取り崩すことを検討します。運用しながら取り崩すことで資産寿命を延ばすことができるからです。
資産をなるべく減らしたくない場合は、資産の一部を配当金や分配金といったインカムゲイン(保有することで得られる利益)が得られる高配当株や連続増配株、高配当株・連続増配株に投資する投資信託やETFなどに替えていくのも一案です。
「老後に2000万円不足」の真実
老後の生活に対する不安の多くはお金に関するものです。確かに、お金が底をついて生活が成り立たなくなるようでは怖いですよね。では、老後資金はいくらあったら安心できるのでしょうか。
以前大きな話題になったのが、いわゆる「老後資金2000万円不足問題」です。2019年6月に金融庁の市場ワーキング・グループが公表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書に「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦無職世帯」では収入と支出の差が約5.5万円あるので、老後の人生が20~30年だとすれば、「不足額の総額は単純計算で1300万~2000万円になる」と大きく報じられたのです。
老後不安を過度に煽られた形になりましたが、真実は、その報告書にあった世帯は、取り崩せる資産があるので約5.5万円を生活に充てていたというだけなのです。資産が少ないのであれば、支出を抑えるでしょうから、年金収入だけで生活できないわけではありません。なお、この報告書が元にしている家計調査の数字は2017年のものです。
2017年時点の家計調査で「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦無職世帯」の収入は20.9万円でした。それが2023年時点での家計調査では「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の収入が年24.5万円に増えています。アンケートを取っているサンプルデータの問題もあるかもしれませんが、年金収入が増えている要因は、専業主婦(夫)世帯が減り、共働き世帯が増えていることが影響している可能性が高いでしょう。
その結果、収入と支出の差が3.8万円と縮小されています。先の報告書と同じように老後資金を計算すれば、30年で「1370万円」となりますので、少なくなりました。では「2000万円」ではなく「1370万円」を誰もが用意しておけば安心なのかといえば、そうではなく、あくまで平均データの結果です。毎年数字も変わります。
そもそも、人により老後に必要な金額は異なってくるはずです。70歳以上の夫婦世帯の生活費は現役世代(50~59歳)の生活費のおよそ7割です。ですから、現在の年間支出の7割を「老後の年間支出」とします。また、老後の年金額は「ねんきん定期便」を見ればわかります。そして、老後の年間支出から老後にもらえる年金を引くことで、1年間に最低限必要な老後資金がわかります。これに老後の年数をかけると、生活費として最低限必要な老後資金の金額がわかります。
さらにこの金額に、もしもに備えるお金として医療費・介護費(夫婦なら1000万円、シングルなら500万円)を加えれば、用意しておきたい老後資金額がわかります。
「老後資金はいくらあったら安心か」の答えとしては、老後資金はいくらあっても不安は尽きないが、自分にとって必要な老後資金を見える化し、そのお金を準備することで一定の不安は和らぐということです。年金で暮らそうと思えば、意外と暮らせます。まずは安心してください。