不動産ジャーナリスト「湾岸タワマンいずれニュータウンになる」バブルはいつはじけるのか!地域住民とのミスマッチは勃発している

都内マンション価格の高騰が止まらない。東京都心部の新築マンションの平均価格はついに1億円を突破。中でも人気なのは、「月島・豊洲・勝どき・有明・東雲・辰巳・芝浦」などのいわゆる「湾岸エリア」だ。デベロッパーにとっては、「出せば売れる」状態と言ってもいい。
しかし、そんな状況に懐疑的なのは不動産ジャーナリストの榊淳司氏。同氏は、「タワマンはニュータウンと同じ道をたどる」と推測する。みんかぶプレミアム特集「儲かるタワマン・不動産」第2回。
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タワマン否定派の同志はチャールズ皇太子しかいなかった
最近、どういうワケかタワマンに関する原稿やコメントのオファーが多くなった。世の中の関心がタワマンのマイナス面にも向けられるようになった、ということだろう。
16年ほど前に私がタワマンに関する否定的なコメントや記事を世に出し始めたころ、そんなことをしているジャーナリストは他にいなかった。いわば孤立無援。タワマンはカッコイイ住まいであり、人生の成功の証……という捉え方が一般的。私のようにタワマンを否定的に評価する存在はかなり異色だったと思う。
当時の心強い味方はイギリスのチャールズ皇太子(当時、現国王)。彼は超高層建築が大嫌いなようで、度々の発言で嫌悪感を隠さなかった。当時の私としては、精神的な加勢をヨーロッパ勢に求めるしかなかったのである。2019年に世に問うた『限界のタワーマンション』(集英社新書)では、当時のヨーロッパ在住大学院生への超高層集合住宅に対する意識調査結果も採り入れた。
ところが、ここ3~4年くらいであろうか。タワマンを「住んで疲れるところ」と揶揄する漫画や小説が出てきて話題になったり、住人の見栄の張り合いを面白おかしく紹介する記事がネット上に出始めたりした。さらには「タワマンを購入して失敗した」というケーススタディを紹介する記事も、頻繁に見かける。タワマンを否定的に捉える見方に対して、ある程度のボリュームで同調者が現れた、ということなのだろう。
タワマンが「出せば売れる」状態はいつまで続くのか
最近、テレビの情報番組に呼ばれると、必ずタワマンに関するコメントを求められる。メジャーな週刊誌がタワマンの大特集を組むというので、ネタ元として引っ張り出される。1年半ほど前には、あるネットテレビ局が「湾岸タワマンの肯定派VS.否定派」のディベートをやるからと、否定派側の「論客」として駆り出された。ことほど左様、今は「タワマン」というテーマがホットになっているということか。
ただ、現実のマーケットでは依然としてタワマンブームが続いている。新築のタワマンは、ほぼ「出せば売れる」状態。中古市場でも、取引は活発である。東京の湾岸エリアなど、タワマンの林立地域での流通市場はかなり成熟している。つまり、取引量がある程度のボリュームに達しているので、市場価格の形成がよりナチュラルな状況である。ただし、安定感にはいささか欠ける。
特に中央区の湾岸エリア、具体的には選手村跡地の大規模マンションが供給された晴海や、そこに隣接する勝どき、月島といったエリアは短期間に大量の供給があった割には、堅実な中古への実需要が伴っていないので、市場価格の形成に不安定さが目立つ。同エリアには大量の賃貸募集住戸が存在することも、この中古タワマンの流通市場に深い影を落としている。
不安定な市場は、何かのキッカケに暴落へとつながる可能性がある。マンションの価格も、基本的には「需要と供給」の法則に従って決まる。供給量が需要に勝れば、価格は下落するのが基本である。
タワマンこそが「成功の証」という幻想
ところが、マンション市場の場合は、その他にも様々な要因が絡んでくる。その中で最も大きなものは、人間の「心」である。「住まい」というものは、人が生きる上で必要不可欠。いい住宅に住めば、誰もが幸せな気分になれる。しかし、衣食住の中ではもっとも高価である。だからこそ、多くの人は住まいに対して「住む」という実用以上の意味を見出し、幻想を抱いてしまう。
東京では今、年収の6~7倍程度の住宅ローンを組んでマンションを購入するのが一般的だ。つまり、生涯収入の5分の1程度のお金をマンション購入に費やすのである。どこに住むか、どんなマンションを買うのかは、その人のステイタスを象徴する……と考える人は少なくない。高価で見栄えのいい住まいを得ることは人生の成功の証だ、という発想だ。
タワマンは、こういったいかにも一般的で俗物的な価値観を持った方にとっては、まさにひとつの到達点と言える。特に、大学入学もしくは就職時点で東京(およびその周辺)に移住してきたニューカマーにとって、タワマンこそが「成功の証」なのである。
彼らは東京という街に地縁がない。ある意味、既成概念や偏見を持たないのだ。勝どきや晴海、あるいは有明といったいわゆる湾岸エリアが呈していた半世紀前の無残な姿を知らない。また、いまや内陸部のタワマン林立地帯である神奈川県川崎市の武蔵小杉あたりの30年前の様子を知らない。